新たな仲間
日が昇り、数時間経った頃、ヒマリは目を覚ました。
「……おはよう、ハート」
「おはよう、ヒマリ。シフォンも意識が回復したわよ。今、少し拗ねているけど」
ヒマリが辺りを確認するとシフォンが地面に座り、地面に文字を書いていた。
昨夜の事を思い出しているのだろうか――心配になったヒマリは、シフォンに声をかける。
「シフォン、もう大丈夫なの? 起きて平気?」
シフォンは涙目になりヒマリに抱きついた。
「えっ、ええっ、ちょっとシフォン……どうしたの?」
いきなりシフォンに抱きつかれたヒマリは動揺を隠せない。抱きつかれたと同時にシフォンが泣いている事に気がついた。
「シフォン? どこか痛いところでもあるの?」
「違います……。私、大切な友達に嘘ついて殺そうとしました……。ごめんなさい……。本当にごめんなさい……」
シフォンの涙がヒマリのブラウスを濡らしていく。昨夜の自分の怪我は『運命の選択』で無かったことになっているので、腕に巻かれたハンカチを外し、シフォンに渡した。
「そうだね。ちょっと許せないなぁ、シフォン。あたしたち、死にかけたんだから」
「本当にごめんなさい……。私のお兄様がやった狼藉をお許しください……」
シフォンには、昨夜の記憶があるのかハートが確認してみることにする。
「シフォン、昨日の夜何があったか覚えているのかしら?」
「はい、ある程度ですけど。私、ここでグレイシアお兄様に殺される運命だったのです。でも、生き延びる事が出来たのもヒマリさんのおかげなんです。だから、助けてくれたヒマリさんとハートさんが大好きです」
「これも確認なんだけど……シフォンはグレイシアの事、き……」
シフォンは、ハートの問いかけに泣き笑いを浮かべて答える。
「はい、あんなグレイシアお兄様、大嫌いです。世界で一番大嫌いです!」
「シフォン……あなた、これから命狙われるわよ」
「そうですね、ハートさん。でも私、これでも長年刺客をやっていたので変装とかは得意ですよ。これからは、ヒマリさんの事を『ヒマリちゃん』、ハートさんの事を『ハートお姉さま』と言えば私だということがバレません。それに今後、グレイシアお兄様に狙われた時の為に私がいた方が助けになると思うんですよ。そうですよね、ハートお姉さま」
いきなりのシフォンの変貌にヒマリとハートはお互いを見合わせた。ハートは、『ハートお姉さま』と呼ばれて嬉しかったのであろう。顔がにやついている。
「げふん、それはさておき。これからもよろしくね、シフォン」
「シフォン、お帰りなさい!!」
ヒマリはシフォンをぎゅっと抱き返す。
「ただいま戻りました。ヒマリちゃん、ハートお姉さま。これからもよろしくお願いします」
そう言ったシフォンは、今までにない1番の笑顔を浮かべてみせた。
「それじゃあ、今から急いでデカフォニック渓谷と隠者の森を抜けて、そのままスペードキングダムに向かうわよ。このまま行けば、今日の夕方には到着できるはずよ」
「ハート、張り切ってるね。あたしも頑張るぞぉ!!」
「ハートお姉さま、私が引き続き、道案内をします。もうすぐデカフォニック渓谷と隠者の森を抜けることが出来ます。ほら、まだ小さいですけどスペードキングダムが見えますよ」
昨夜は、全く気づかなかったが、スペードキングダムの街並みが遠くに見えていた。
目を細めて目的地を見やるハートの片手を、ヒマリが両手で強く掴み、目的地に向かって引っ張ってみせる。
「ハート、早く行こうよ!!」
「あら。やる気になったのね、ヒマリ」
「だって、もうすぐでこのデカフォニック渓谷と隠者の森とお別れ出来るし、久しぶりの大きな国だよ? あたし、楽しみなの。『スペードキングダムには、何があるのかな?』、って……」
「ヒマリちゃんも楽しみにしているみたいですし、ハートお姉さまも早く行きましょう。私は、もうヒマリちゃんとハートお姉さまを裏切りませんから」
シフォンが、ハートのもう片方の手を優しく握った。
ヒマリとシフォンの笑顔に包まれたハートは嬉しくなり、歌を歌う。
その名も『勇ましく堂々たれ』
今のヒマリたちを表した歌は、デカフォニック渓谷と隠者の森に名残深く、綺麗に響いた。
この物語は 鈴鹿歌音 さんが担当しました。 https://talkmaker.com/author/clanon213/
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