忘れられた栄華
真っ直ぐな木の棒が一本、盛り土の上に立てられている。クイーンさんはその前にしゃがみこみ、右手を胸に当てると静かに礼をした。
「……フィフス、他には何かありますか?」
「私達の家があるよ!」
「……行きましょう。案内してください」
続いて、私たちはフィフスの家に来た。家と言うよりは小屋で、僅かな家具とシーツの変えられていない薄汚いベッドがあるだけだ。そして若干、獣臭い。
「これは……」
クイーンさんが手に取ったのは、机らしき物に置いてあった写真立て。色がだいぶ褪せてはいるが、幸せそうな優雅な装いの夫婦と、二人の女の子が写っている。
「クイーンさん、それがどうかしたの?」
クイーンさんは、写真をじっと見つめて動かない。その唇が、ゆっくりと動いた。
「私と、トゥエルブです」
「ッ!?」
私は思いっきり唾を飲んでしまった。二人共、子供のころからものすごい美人だ。
じゃなくて、ここに一緒に写ってるって事は……!
「そう、私とトゥエルブは実の姉妹なんです。そして、恐らくフィフスも……」
クイーンさんは写真立てを置き、私に向き合った。
「ヒマリ、ダイヤシティが元々王政だったのは説明しましたね?」
「え? あっ、はい。」
なんかいろいろ忙しくて忘れちゃってたけど、そんなこと言ってた気がしないようなするような……。
「ダイヤの騎士は、かつて王の側室だった者の子供たちなんです。そして、私とトゥエルブは正室、つまり「本当の妻」の娘だった。しかし王は身を追われ、私達を置いて行方を眩ませました。私たちは、父の無念を晴らすために集まったようなものなのです。」
……どうしよう、クイーンさんの話が思っていた以上に重い。というかクイーンさんもトゥエルブさんも、めちゃくちゃ苦労してたんだ……。
「側室だった者たちは街に残りましたが、私たちの母だけは王とその身を共にしました。私たちはかつての使用人に預けられ、それ以降、父と母の消息は掴めなかった。それが、まさかこんな形で再会するなんて……」
感傷に浸るクイーンさん。こういう時って、どんな言葉をかけてあげればいいんだろう?
「……ん? あったー!!」
すると、部屋の中をガサゴソとさばくっていたフィフスが、何かを掲げて叫んだ。
「フィフスちゃん? どうしたの?」
「あったよ! お父さんからの預かりもの! あと私の名前!」
何だか色あせが凄くて、引っ張ったら今にも破れてしまいそうなボロボロの紙。クイーンさんはフィフスに手を差し出して渡して欲しいと求めると、フィフスは快くそれに応じた。
「……これは!!」
「ねぇーヒマリ? ちゃん。私読めないから読んでー?」
「えっ? 私? 私もこの世界の言葉は……」
恐る恐るフィフスちゃんから紙を受け取ると、カタカナによく似た形でなんとか読めそうではあった。
「フィフス=ララ・アマリリス。でいいのかな?」
「ほえー。そんな名前だったんだー」
……この子、本当に今まで自分の名前を知らずに生きてきたのか。
「……フィフス、ありがとう。でもどうして、私が姉だとわかったんですか?」
「へ? 知らない。年上の女の人はみんな、「お姉ちゃん」って呼んでるよ?」
「そ、そうですか……」
クイーンさんと同様に、私も鳩が豆鉄砲を喰らったような顔になった。この子、無自覚妹だったのか。いや、違和感はないんだけど。
「ですが、フィフスが私たちの妹であることに間違いはないようです。でもそうすると……13人目になるのですか」
「……クイーンさん?」
何かを考え込むようにだんまりするクイーンさん。ふと何かを探すようにフィフスを観察し始め、やがてフィフスの首を飾るネックレスに目を止める。
「……フィフス、あなたもしかして、「アイデンティティーナンバー」を持っているのですか?」
フィフスの首飾り、よく見れば石板に五つのひし形が刻まれている。クイーンさんはもしかしてこれの事を言っているのだろうか。
「これ? これはね……」
ちゃり、と可愛らしい金属音が流れて、胸元で輝いてみせる首飾りに触れるフィフス。何かをしたそうにキョロキョロするが、首を傾げて渋い表情をする。
「ここじゃ危ないから、外でいい?」
こちらの執筆は 美島郷志 さんが担当しました。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054883742775 連載をスタートさせた『拝啓、クソガキの皆様。』を始め、多数の作品を執筆中。これを機に是非ご覧下さい……!




