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ファンタジック・アイロニー[現在停滞中]  作者: なぎコミュニティー
第一幕・一部
13/129

2つの世界



「これが、この世界、“ヒューマニー”だ。だが、俺達もまだこの世界については分からない事の方が多い」


「そうなんですか」


「だが、それ以上に分からない世界がある。それが、“メルフェール”だ。

 メルフェール。つまり童話メルフェンの世界という意味なんだが――」


「どうして“童話”なんですか?」



 シオンの問いに、トウラは頷く。



「それはメルフェールの世界構成に由来する。

 彼らの世界は、このヒューマニーの世界の中で生み出された、お伽話が原型となっているんだ」


「えっ? それってどういうことですか? お伽話が世界を形造る?」


「俺達二人も、その理由についてはよく知らない。それについては、シェロのほうが詳しいんじゃないか?」



 そう言ってトウラはシェロの方を見た。



「えっ、私?」


 自分を指さして困惑するシェロに、3人はそろって頷く。

 その様子を見たシェロは、曖昧な表情で俯く。



「はぁ……そうね。でも残念だけど、私もメルフェールについてはよく知らないの。(ただ)、知っていることもあるのよ」


「それで良いよ。話してよシェロ!」


「ええ……私が聞いているのはこんな話よ――」




◇ ◇ ◇



昔、この国にはある一つの国が存在した。


その国の王は、暴君として名を知らしめていた。


そして、その句の貴族たちは、民から高い税を搾り取り、


その金で豪遊をして暮らしていた。




貴族たちの贅沢は、民を虐げ、腐敗した世界を生み出した。




ある時、一人の子供が、その辛い生活から目を背けるために、


1つのお伽話を作った。




その話は、民にとても受け、たちまち国中に広がった。




その噂を聞きつけた王都貴族たちは、その子供を王城に呼び出した。


そして、自分の為にお伽話を作れと命じ、それが面白ければ、褒美と


ご馳走を与えると約束した。




子供はその小さな頭で必死にお伽話を考え、


一週間後、王や貴族たちの前でその話を言って聞かせた。




その話は彼らに受け入れられ、その子供は見事、褒美とご馳走に


あり付くことが出来た。




その話もまた、瞬く間に国に広がった。




「お伽話を作れば、ご馳走が食べられる―――」




そこで国の民たちは、こぞってお伽話を作っては、王城に足を運んだ。




そうして、いつしか、国には無数のお伽話が生まれた。




そして不思議な事に、そのお伽話は形を結ぶようになった。




そのお伽話を生み出す人々の思いは、この世界とは異なる世界、


『異世界』、メルフェールを生み出した。




そうして、この世界には2つの世界が、まるで兄弟のように


存在することになったという。



◇ ◇ ◇






「――私が知っているのはこんな所。これは、このヒューマニーに伝わる、 有名な『お伽話』の1つよ」


お伽話(・・・)、なんだ。でも、そのメルフェールは確実に存在するんでしょ? お伽話じゃ無いんじゃないの?」


「そこなんだ」


 トウラが突然言った。


「そこがこの話の肝なんだ。

 神が戦争を起こす理由。それは、メルフェールの存在(・・・・・・・・・)が神の意志に反した存在に他ならないからだ。」


「じゃあメルフェールのは本当に存在するんですね? お伽話ではなく」


「ええ。それは間違いないわ。

 確かに私が今した話は、ヒューマニーのお伽話として伝えられているものだけれど、メルフェールは確かに存在するのよ。その証拠に、数千年前に、このヒューマニーとメルフェールが互いの覇権を賭けて争ったという文献が残っているのよ」


「そんな物が?」


「へぇ、そいつは初耳だな。俺の聞いている話では、メルフェールを裏付ける証拠は、この世界のお伽話しかないって話だぜ」


「俺もそう聞いてるな」



 シュートが半笑いしながら言った言葉に、トウラも同調する。



「ところがあるのよ。嘘偽りない、本物の(・・・)証拠がね」


「シェロ、お前それ何処で見つけた」


「4年前に遺跡調査をしているときに偶然ね。あれはへブラニア調査の時だったかしら……」


「へブラニア……聞いたことはある。神の降りたとされる地だな」


「あらシュート。あなた意外とこの世界について詳しいのね。転生者なのに」


「フフ、そうかい? これでも情報収集は欠かさないんでな。

 良かったら君の事も――調査させてくれよ」



 そのやや緩んだ表情のシュートにトウラはため息を吐いた。



「おいシュート。またお前って奴はこんな時に……」


「ああ、悪い悪い。大丈夫だ。このお嬢さんには手を出してないさ」


「手を……」


「気を付けろよシェロ。この男は相手が美人だと踏んだらすぐに手をだす癖があるからな」


「美人? 私が?」



 シェロはトウラの言葉にやや頬を赤く染めたが、すぐに元の飄々とした表情に戻り、ごめんなさい、と告げた。



「私の恋人は空と冒険って決まってるの」


「そうか。そいつは残念だ」


「お二人さんそこまでにしてくれ。今はシオン君に大事な話の途中なんだからな」


 シュートがやや苦笑しながら答えた所を、トウラは拍手を打ち、割って入った。

 それに二人は、少し悪びれた様子ではにかむ。



「……話を続けてくれ、シェロ」


「そうね。その文献には、非常に興味深いことが書いてあったわ。なんでも、そのメルフェールは4つの国の総称の事を言うらしいのよ。その4つの国には、それぞれ異なる王様が居て、それぞれの国を統治していたそうよ。

 そして、その4人の王をまとめていた、さらに上の王がいたそうなのよ。名前は、“ジョーカー”と言うらしいわ」


「ジョーカー……」



 3人は思わず揃ってその名を呟いた。



「そのジョーカーは、この世界の代表者である王都非常に良好な関係を築いたそうよ―――一時的にはね……」


「一時的には?」


 問い返すシオンにシェロは頷く。


「その両王は、友好の証として、2つの世界を繋ぐ橋を作ったそうよ。この橋は、文献では“バベルの橋”と書いてあったわ」


「バベル……」



 シオンはその名前によく聞き覚えがあった。

 自分がもといた地球での神話に出てくるバベルの塔に酷似している。



「それの挿絵の写しがあるわ」


 そういうと、シェロは腰のポーチから1つの蒔かれた羊皮紙を取り出した。



「この塔がバベルの橋。そして、その上に描かれているのがメルフェールよ」



 彼女が広げた、その紙に描かれた絵を覗き見た瞬間。シオンはもちろん、身を乗り出して眺める2人も目を疑った。



「こりゃ驚いた。ブリューゲルの『バベルの塔』そっくりじゃないか」


 シュートの言葉に、シオンとトウラも頷くしかなかった。

 絵には、地球の神話に出てくるものと全く同じ(・・・・)ような、巨大な塔が描いてあったのだ。


 塔に作られた螺旋状の階段を、小さな人が昇っていく様子が見える。そして、その塔の上空に、惑星のような丸い『世界』が描かれていた。




「僕も博覧会で見た事があります。本当にそっくりです。

 ……もしかしたらこのヒューマニーは、地球のあった世界と、何か裏で繋がっているのかもって。そう思えてきました」


「その可能性は大いにあるな。

 俺達も不思議だったんだが、この世界の人間は、俺たちが転生した当時、殆どの価値観が共通していた。価値観だけじゃない。さっきも言ったが、殆どの要素が俺たちの元居た世界と酷似している。

 不思議なのは魔法とかもあるが、こうして普通に人と意思の疎通が測れるっていう事だよな」



 トウラの憶測に、シュートも「全くだ」と零す。



「そればかりは、いくら情報を集めても分からなかったな」


「ああ。こりゃもう少しこの世界の事を深く探る必要がありそうだな」


「そうすれば、俺達の元の世界に通じる道が見つかるかもしれない」



 2人の言葉に、シオンも同意した。



「話の続き、良いかしら?」


 シェロが羊皮紙を腰のポーチにしまいながら、そう口にする。いつのまにか熱くなっていた3人は、再び席に座りなおした。



「ところが、ある日、ジョーカーがヒューマニーの人間に暗殺されてしまったのよ。それに怒ったメルフェールの住人たちは、このヒューマニーに戦争を仕掛けたの。その過程で、ヒューマニーを纏めていた王も死んでしまうのよ。

これに、互いの世界の住人は、両者を憎むようになったの。そして、バベルの橋は壊されてしまったのよ。二度と、2つの世界に互いの人間が渡れないようにね」


「そんな……。そんなの悲しすぎる……」



シオンの呟きに、シュートとトウラも頷いた。



「私が知っているのはここまでよ。これ以上メルフェールに関して知っていることは何もないわ」


「ありがとうシェロ。大分この世界の事が分かってきたよ」


「どういたしまして、シオン。

……それでシュート。さっき言っていた事について教えて。

どうしてシュートは、マキナを知っているの?」



今度はシェロが質問を投げかける。

それを聞いたシュートは、軽く息を吐いてから答えた。



「あいつは俺がこの世界に転生してから初めて戦った相手なんだ。あいつは表向きは軍人なんだが、その裏ではある組織に居て、俺達転生者を目の敵にしている」



 そういえばそうだ。

 シオンが転生者である事が判明したあの時、マキナの視線は張り詰める寒気のような鋭さだった記憶がある。

 だからこそ、シオンは聞かずにはいられなかった。



「どうしてその人は、僕達転生者を敵視するようになったんですか? 確かに、この世界の人達とは違う所はありますけど……」


「――あいつは語ったよ。過去に家族を転生者に殺されてた。だから俺は、転生者を消す為に戦い続ける、ってな」



 シオンが言葉を詰まらせる。

 まさか、自分達以外の転生者が、大切な家族を殺す様な行動をするとは。シオンには到底考えられなかった。しかし、ああ語ったシュートも、静かに頷くトウラも、嘘をついているようには思えない……。




「ねぇ、マキナが居る“ある組織”って、どんな組織なの?」



 この世界の闇を覗き見た気がしたシオンの横で、シェロが身を乗り出してシュートに問う。



「……いずれ分かるさ。運が悪かったらな」


「運、ね……」



シェロはこう呟いたきり、シュートが追及されることはなかった。

それを感じ取ったシオンが、トウラに向き直る。




「で、トウラさん。さっきも言っていた、戦争の理由、メルフェールが神の意志にそぐわないって話ですが……」


「そう。それが本題だ」



 トウラの真剣な眼差しが、シオンの目を見つめる。



「さっきも言ったが、神はメルフェールを認めていない。

メルフェールだけじゃない。ヒューマニーの存在も、認めてないんだ」



この物語の執筆者は 金城暁大 さんです。

https://kakuyomu.jp/users/Ai_ren735 現在、今まで執筆してきたハイファンタジー小説を改稿中です。再開までこうご期待!

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