ハイ・アンド・ロー
王城の応接室。そこに、2人は対面していた。
「では、よろしいですね?」
クロムの正面に座るハートは頷いた。それを見たクロムの目が細まる。2人の間の机の上にはカードの束が置いてあった。
「では、始めますか」
クロムはその山札を手に取ると、それを切る。
切り終わると、山札の上から10枚を伏せて机上に並べた。
同じだ。
ハートは、ここに来る前、リリィに見せてもらったビジョンを思い出す。数十本のマッチを使い、選ぶべきカードを予知して貰った。そのカードは覚えている。
ハートは、束から、カードをめくる。
4。
予想通りだ。
今度は机上のカードに視線を移す。ハートは10枚の中から一番右端に向かって、先程のカードを置いた。
同じ様にクロムも、残り9枚の内の一枚に、自分が引いたカードを置く。クロムの引いたカードは……。
2。
「オープン」
クロムの声と同時に、両者は伏せてあったカードをめくる。
ハートは5。
クロムは9。
「ハート様が合計9。私が合計11ですね。私のリードです」
だがまだ終わりではない。
「ウィッチ?」
クロムが尋ねる。
「ワンモア」
そう、ハートが言い、束から新たなカードを引くき、裏側で伏せる。
「スタンバイ」
クロムが言う。さぁ、勝負だ。ここでハートは2以上のカードを引かなければならない。
ハートがカードをめくる。リリィの予知では、3が来る筈だ。
「(どうか、当たって!)」
ハートは心中で祈る。カードが表になる。
3。
「ほほう」
クロムが笑みを浮かべる。
「貴方が11。私は12。私の勝ちね」
「その様ですな」
ハートは息をつく。対してクロムは顎をさする。
「だが、まだ終わりではありません。まだ、2ラウンド残っています」
伏せられた、残り8枚のカード。そのカードの、どれを選ぶかだ。
このゲームでは、先に3戦を先取した方が勝利者だ。
「では、私から行かせて貰うわ」
ルールでは、次のカードを先に選べるのは、前の回の勝利者だ。
ハートが山札から、カードを引く。
6。
そしてハートは、目の前の8枚の内の一枚を選ぶ。
残されているのは、中央に2枚。左右に3枚ずつ。
ハートは、リリィの予知の幻影を思い出す。確かこの回では……ハートは中央から右のカードを選んだ。
「貴方の番よ」
ハートの言葉に、クロムはカードを引く。そして、こちらから見て、右手際のカードにそのカードを置く。クロムのカードは……。
10。
「オープン」
クロムの声に、両者、カードをめくる。
ハートは、2。対するクロムは8。
「私が8。貴方が13を超えて5」
クロムの表情が険しくなる。
「私の勝ちね」
「……その様ですね」
クロムは、惜しむ様に自分とハートのカードを見つめた。
「では、次に行きます」
クロムが、初めてテーブルに身を乗り出す。
「次は無いですよ」
「こちらこそ」
クロムの牽制に、ハートも答える。
「では、行きます……」
ハートがカードを引く。
5。
だが、ハートはそこで止まってしまった。
「どうしたのです? ハート様の番ですよ?」
「分かってるわ」
ハートは内心困惑していた。というのも、リリィの予知はここまでしか見せて貰えなかったのだ。ハートは横に並ぶリリィを見る。するとリリィが気付いた様に頷いた。
リリィはクロムの死角になる位置にそろそろと移動する。そうして、おもむろにマッチを取り出すと、その場で擦った。
マッチに映し出された数字は……ハートは、確信を得た様に、6枚のカードを見つめる。
そして、残された、左の3枚の内の一枚に重ねる。
クロムもカードを引き、残されたカードの上に置く。クロムのカードは、7だ。
「「オープン!」」
両者、掛け声と共に、カードをめくる。
クロムは微笑んだ。めくられたカードは、クロムが5。ハートが4。
「私が12。ハート様が9。私の勝ちです」
リリィの予知通り。「この回は見送れ」と、リリィの予知に出て来たのだ。
だが、ハートは終わらなかった。
「ワンモア」
ハートのその言葉に、クロムはハートの目を見た。
「ほほう。勝負をかけて来るという訳ですか?」
ハートの頷きに、クロムは微笑する。
「貴方が、ここで私に勝つには、4を確実に引かないと行けません。その確率の低さを知って、会えて勝負をかけると言うのですか?」
リリィは必死に、首を振る。何故ならば、リリィの予知通りに行動しないと未来は変わってしまう為だ。それは即ち、今後のゲームでリリィの予知が機能しないと言う事になる。
だが、ハートはひるまなかった。
「そうよ。勝負よ!」
そのハートの台詞にクロムの口角が上がる。
「よろしい! それでこそ女王! 良いでしょう!」
ハートは、静かに山札に手を置いた。
この一枚に、ダイヤモンドシティの、いや、この世界の全ての命運がかかっている。
この勝負に勝てばスペードキングダムは援軍を出してくれる。しかし違った時は……。
「そう言えば……」
「何ですかハート様」
「この勝負に私が負けたら、どうなるのかしら?」
「そうですねぇ……」
その言葉に、クロムはしばし考える。
やがて、思いついた様に不敵な笑みを浮かべた。
「貴方が、この勝負に負けた時は……」
クロムはハートを舐める様な目で見つめた。
「その時は、貴方が私の伴侶となる、というのでどうでしょう」
「なっ……!」
ここに来ての、ハイリスク。
ハートは、それだけは絶対に嫌だった。
それは、例え死んでしまっても、心に決めたたった1人の他に、自分の身を捧げる事は考えられなかったからだ。
ハートはカードを手に、呼吸を整える。その緊張感はヒマリ達にも伝わっていた。
「(お願い! ハートを勝たせて!)」
ヒマリは思わず、誰かも分からない人に祈っていた。
(ハートを助けたいか)
「(この声は!)」
(良いぜ。お前の力で、あいつを勝たせてやれ! 全てはお前の手の中にある!)
ヒマリは静かに目を開ける。その目はいつの間にか金色に光っていた。
その時、ハートの指が、ほのかに光る。
ハートは精神を集中させていた。
落ち着きなさい、私。
そう、自分に言い聞かせる。
「行くわよ」
「望むところです!」
「ドロー!!!!」
ハートはカードを引く。そして出た数字は……。
「4!」
それを見たクロムの表情が引きつる。
「なっ……」
周囲から歓声が上がる。
「やったー! ハートカッコいい!」
「流石です! ハートお姉様!」
「某、胸が落ち着かなかったです!」
「は、ハートさん……よよよ、良かったです!」
やんややんやと沸き立つ部屋。
「これで私の勝ちよ!」
勝ち誇って見せるハートに、クロムは唇を噛みしめる。
「さぁ、約束通り、援軍を出して貰うわよ」
すると、クロムは諦めた様に、肩を落とした。
「分かりました。おっしゃる通りに致しましょう」
ここまでは 金城暁大 さんが執筆しました! 大変お疲れ様でした!
https://kakuyomu.jp/users/Ai_ren735 しばらく療養していましたが2019年から再び活動を再開するそうです! 今後の活躍にこうご期待……!