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ファンタジック・アイロニー[現在停滞中]  作者: なぎコミュニティー
第三部・ヒマリside
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新たな同行者



「ついたー!」


 列車から降りたヒマリは、駅のホームに立つなり背伸びをして見せた。長旅だったとは言え、ヒマリにはとても楽しい鉄道の旅だった。思わす、アフロ頭の音楽家の曲がBGMに流れてきそうな心境だった。


「疲れましたわね」

「全く同意です」


 ハートとシフォンはと言えば、常時ヒマリのハイテンションにつき合わされていたため、列車に乗っている疲れだけでなく、倍疲れる要素があったのだ。



 駅の出口には、真っ直ぐに街道が通っており、その先に、大きな城壁が見える。そのさらに向こうには、巨大な城がそびえ立っているのが見える。建物は皆、錆色の鉄で出来ており、建物のあちこちから伸びた煙突からは、白い煙が上っている。


 王都というよりも、工場地帯。

 ヒマリが最初に感じた感想はそうだった。



「さぁ、ここからが正念場ね」


 ハートの言葉に、ヒマリの旅行気分が消える。

 シフォンも気持ちを入れなおした様子で、後ろ髪を纏め直した。


 はたして、スペードキングダムの王は、書状を受け入れるのか。

 兎にも角にも、行ってみない事には話は始まらない


「ここからはあれに乗って行きます」


 シフォンが指差した先には、レトロな自動車があった。二つのライトは丸く、車輪のカバーは、きれいなアーチを描いている。座席の上には屋根はなく、代わりに折り畳み式のホロが後部についていた。

 ドアは、前方と後方が其々対になって開くようになっている。そのドアの外には、燕尾服を着、シルクハットを被った、男が構えていた。


「自動車だ! しかもかなり初期の!」


 ヒマリは、またも自分の世界にあったものを見つけ、テンションが上がる。


「ヒマリちゃんの世界では、あれは自動車と言うのですね。あれは、“スチームライド”と言うのですよ」

「スチームライドか……」


 訂正されたそれは、前衛的ではあるが、どう見ても自動車である。

 シフォンがそれに近づき、横に構える紳士のような男に何かを話すと、男はドアを開けてくれた。


「さぁ、行くわよ」


 シフォンが乗り込むのに乗じて、ヒマリとハートも、スチームライドに乗り込んだ。


「行先は王都の中心、スペードキャッスルで間違いありませんでしたか?」

「ええ。お願いいたします」

「そうですか。失礼ですが、観光かなにかで?」


 すると、ハートが会話に割り込んできた。


「いいえ私たちは、王に会いに行くのよ」


 その彼女に男は驚いた様子を見せた。


「貴方は! ハート様! ハートアイランドの女王様がどうしてここに……!」

「その呼び名はもう捨てたのよ。今の私は、ただのハートよ」

「え? それはどういう……」

「いいから。私たちはこの国の王に用があるのよ」

「王? と言うと、デュアル様に謁見で?」


 その男はそれを聞くと、申し訳なさそうに首を振った。


「残念ですが、それは叶わないでしょう」

「何故?」

「それは……」


 男は、一瞬躊躇った様子を見せると、重々しそうに答えた。


「それは、今のこの国から、スペード・キ(スペード)ングダムの王(・キング)、デュアル王が消えてしまったのです」


 その台詞に、一同は思わず範唱した。


「なんですって? それは本当なの?」

「ええ、本当です。もう数か月前になりますか。なんの伝言もなく、突然この国の王、デュアルが忽然と姿を消したのです」

「理由は?」

「わかりません。市民には理由が公表されていないのです。ですが、王室の者ならば分かるでしょう。……ハート様でしたら、それを聞き出すことが出来るかもしませんが」


 その話に、一同は顔を見合わせた。


 何という、自分勝手な王なのだろう。民の事を放り出し、居なくなるとは。

 いやしかし、誘拐されたという事かもしれない。何かの事件に巻き込まれたと考えても不思議ではない。そのことが、王室から民に公表されない理由なのかもしれない。


 ともかく、確認する必要がある。


「今は、側近のクロム様が取り仕切り、何とか平穏を保っていますが……」


 そこまで聞いて、ハートは男に頷いた。


「いいわ。私達を王城まで連れて行って」


 ハートの真剣な目が、男を見る。その彼女の雰囲気に、男も緊迫した状況を察知したのか頷くと、乗り物を発進させた。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 どれくらいスチームライドに乗っていただろう。車は、いくつもの街道を、悠々と走っていた。


 この王都の情景を見ていてヒマリは気が付いたが、この国は、どこもどこか殺伐としている。

 ダイヤモンドシティも、確かに活気と言うものは薄かったが、それはこの国も同じだった。


 ちょうど、仕事の終りなのだろう。作業服姿の老若男女が、とぼとぼと、北風に吹かれながら、コートの襟に手を添え、帰路についている。空を見れば、工場の廃気で灰色の曇天模様となっていた。窓から入る北風が、どこか酸のような痛みを、喉と目に感じる。


「ねぇハート」


 ヒマリは徐に隣に座るハートに口を開いた。


「どうしたのヒマリ?」

「なんだか、この国の人達、辛そうだね」


 そのヒマリの台詞に、運転する燕尾服の紳士が答えた。


「この国の者たちは、女子供老人関係なく、皆仕事をしているのですよ」

「そんな……かわいそう。それじゃ自由なんてないじゃないですか」

「おっしゃる通りです」


 男は頷いた。


「ですが、これも富国の為。この国の豊かさは、皆あのような労働者が影にいて成り立つのですよ」


 その男の言う事が本当ならば、こんな酷い国は無い。国民はまるで奴隷だ。その、労働者達の後ろ姿に、ヒマリは胸が詰まる思いだった。


「おや?」


 運転手の男が声を上げた。


「あのスチームライドはいったい……」

「え?」

「ほら、後ろのあのライドです」


 運転手がバックミラーで確認すると、そこには一台のライドが、後続していた。


「あのスチームライド、私たちが出た所から、ぴったりつい来ているんです」


 その時だった。

 突然、そのライドはスピードを上げて、ヒマリ達の横に並んだ。そして、そこには(ライフル)を構えた男がいた。


「危ない!」


 ハートは、唐突にヒマリの頭を押し込んだ。刹那、銃声と共に、自分たちのライドのフロントガラスが音を立てて割れた。


「きゃああああ!」


 ヒマリが悲鳴を上げる。


「なんだなんだ!」


 運転する男も、あわてふためき、ハンドルを切る。同時にライドは大きく蛇行する。


「敵襲です!」


 シフォンが声を上げ、頭を下げる。運転手は、半ばパニックになっている。


「ひいいいい! たすたす助けて!」


 すると、シフォンは向こうの車に向って、手をかざし叫んだ。


氷の城(アイス・パビリオン)!!」


 頭上に暗雲が現れ、そこから冷気と雪が相手に振りそぐ。それと同時に、シフォンの眼前に氷壁が現れる。

 敵からの銃弾が止まる。だが、それも一瞬だった。敵の一人が口から炎を吐きだしたのだ。その炎は、氷の雨と氷壁を一瞬で溶かす。


「不味い!」


 そしてその炎は氷の壁を貫きシフォンに襲いかかる。


「きゃああああっ」


 シフォンが熱に飲まれる、その瞬間だった。



 ブォン!! という音がシフォンに触れる寸前の炎をかき消したのだ。


「何ですか!?」


 シフォンはその何かが飛んできた、自分達の後ろを見る。

 そこには、もう一台のスチームライドが、ヒマリ達の車を付けていた。



 そして、その車に、彼はいた。


 その彼をシフォンは良く知っていた。




「シフォン様には、指一本触れさせません!」

「カルマ!」


 今のシフォンにとって、その彼の登場は、正に英雄的だった。その彼に気付いた敵は、攻撃の対象をカルマに移す。



 ダンダンダンダン!

 ブゴオオオオオオ!


 ――無数の銃弾と火球がカルマに迫る。だがカルマは怯むどころか、その場で構えの姿勢を取った。

 そして彼の手に握られていた“それ”によって、敵の攻撃は容易くいなされる。


 刹那、カルマはそれを抜き放ちながら一閃。


 その剣風により、全ての攻撃はカルマの眼前で弾かれた。




 刀。


 それは恐らくそう呼ぶ方が正しいだろう。だがそれは普通の刀では無かった。ヒマリでもそれは見た目で分かった。


 刀の鍔に当たる部分、そこには銃のトリガーの様な物が付いているのだ。


 カルマは、抜き放った刀を横に構えると、そのトリガーに指を掛けた。


「今度はこっちから行くぞ」


 そう言うな否や、カルマは刀を一閃、同時にトリガーを引く。するとその軌道が一つの形として敵に飛んで行った。


「なっ!」


 敵が回避しようとするも、間に合わない。その斬撃の衝撃波に男達の車は一刀両断された。敵の車がばらけながら後部に流れる。


 やがて、敵は道の彼方に、姿を消した。



「一件落着!」


 そう言うとカルマは刀を鞘に収めた。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「カルマ! どうしてここに!」


 車から降りたシフォンは、真っ先に、後から来た謎の男――カルマの元に行った。どうやら敵では無いらしいと分かったヒマリは胸を撫で下ろした。


「実は某、お嬢様を影から守る様、旦那様に仰せつかったのですよ」

「グレイシアお兄様が?」

「左様でございます」

「どうしてそんな事……私はお兄様を、スペアニアを裏切ったのに……」


 そのシフォンの疑問に、カルマはややはにかんだ。


「その辺が、“お兄様”ですなぁ」

「どう言う意味よ?」

「いえ。別に……」


 はぐらかすカルマにシフォンの疑問は募る。


「ねぇ、シフォン。この人誰?」


 ヒマリは我慢出来ずにシフォンに尋ねた。


「この男は、お兄様の側近なんです」

「側近!? じゃあ、かなり偉い人なんじゃ」

「まぁ、そんな所ね」


 ヒマリは、その丁寧で清楚な男に、そんな極悪非道な組織の重鎮であるとは少しも連想出来なかった。

 そういう立場の人は、サングラスを掛けてスキンヘッドだったり、葉巻煙草を吸っていたり、もっといかつい顔をしていたりするのではと思った。しかしそのイメージはこの男から全く湧かない。差し詰め、紳士と武士を掛け合わせた様な男だ。


「という訳でこれからは某も、動向致します」

「え?」


 ヒマリの声に、ハートとシフォンは嘆息する。


「まぁ、そうなるわね」

「確かに、女だけでは、心伴いと思っていた所ですね」


 こうして、スペアニアの右腕、カルマが一行に加わった。




こちらは 金城暁大 さんが執筆しました。

https://kakuyomu.jp/users/Ai_ren735 しばらく療養していましたが2019年から再び活動を再開するそうです! 今後の活躍にこうご期待……!

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