付き人
「旦那様、ただ今戻りました」
グレイシアが床にふけっていると、唐突に部屋のドアが開けられた。
入ってきたカルマは片手に下げていた買い物袋を入り口の側に置いた。
「遅かったな」
グレイシアは、カルマが部屋入るとそう呟いた。窓の外にある太陽は、既に傾き始めている。
「どうだった。他の組の様子は」
その主人の問いに、カルマは首を振った。
「相変わらず、うちが脆弱なのは変わりません。3勢力の強さは揺るぎないですね」
「そうか……」
グレイシアは窓の外から目を離さない。ベッドに座り、中空を眺めている。
「頼んだ物は買ってきたか?」
「はい一応……」
「一応?」
その言葉に、グレイシアはようやくカルマを見やる。
「どういう意味だ?」
「はい。実はおまけが有りまして……」
「なんだそれは?」
すると、カルマは後ろに向かって手をこまねいた。
「おいで」
「はぃ……」
か細い返事とともに、カルマの背後から現れたのは、1人の少女だった。
「は?」
その少女に、グレイシアは目を細める。
「おいカルマ。なんだそのガキは」
訝しげに少女をみる主人に、カルマはやや決まりが悪そうに答えた。
「実は、商店街でこの少女を見つけたのですが、あまりに可哀想だったもので……」
「可哀想?」
「はい。この嬢ちゃん、いや、リリィはうちの組の人間なんですが、この寒い中、コートもマフラーもせずに、北風に晒されながら、マッチを売っていました。
それだけではありません。この子の父親は、大層な“借り”をうちに作っているようです。そして、帰れば父親が彼女に暴力を振るうとの話」
カルマは涙目で、リリィの事情を主人に説明する。
「極貧生活をこの子は受け入れてますが、その姿はあまりにも痛々しい! そこでです!」
カルマはグレイシアの側に近寄った。
そして、その前に膝を着くと、両手を床に付けて頭を下げた。
「どうか! どうかリリィの家族の借金を帳消しにしては頂けないでしょうか!
そうで無くても、せめて、もう少しマシな仕事を与える事は出来ませんか!?」
そう言って、カルマは額が床につくほどに何度も頭を下げた。
「某、一生のお願いでございます!」
だが、その話を聞いているグレイシアは鼻で笑った。
「あのな、いいかカルマ。この組に借りを作ってる奴なんてごまんといるんだ。このリリィってガキみたいなやつも大勢いる。それこそ、路上で飢え死にしたり、身売りで病気になった奴なんてざらだ。
こいつ1人を優遇する事なんて、出来ないんだ」
グレイシアはベッドから降りると、土下座をするカルマの前に座った。
「だから、あいつを帰らせろ」
「そんな……! そこを何とか! 旦那様!」
すると、懇願するとカルマに、グレイシアはカルマの顔を床に叩きつけ、激を飛ばした。
「ギャアギャアうるせえ!! いいか! あんな意地汚いガキを、俺の屋敷に入れるな!! そして、二度とその様な情けを、俺に求めるな!!」
それだけ言うと、グレイシアは、カルマの頭を放り投げた。
「分かったか!」
カルマの落胆は大きかった。
悪逆非道で通っているグレイシアだが、妹への愛情があるなら、少しはリリィへの情けもあると思った。だが、やはりこの男にとって特別なのは、シフォンだけの様だ。
カルマは悔しさと虚しさのあまり、顔に皺を寄せて、泣いた。
「メソメソうるせぇ! 泣くなら俺の見えない所で泣け!」
「そんな、旦那様! 少しです、少しでいいから、リリィの負担を減らしてはくれないでしょうか? これではあまりにも酷です! こんなのでは、彼女いつ死ぬかも分かりません! 確かに、貴方には取るに足らない命かも知れません! ですが、どうかここは! 某の面子に掛けて……」
「ああ、うるさいうるさい! ダメなもなはダメだ! 何度も言わせるんじゃねぇクソ野郎!」
だが、カルマも引かない。
この様な攻防がしばらく続いた。
何度目かの攻防だったのだろう。
ついに、グレイシアはついにカルマの押しに負けた。
「あーうるさい! 分かった分かった!
何とかしてやろう!」
「本当でございますか!?」
カルマは涙で濡れた顔を上げた。
「だが、条件がある」
「条件?」
グレイシアは人差し指を、窓の外に向けた。
「妹を……シフォンを追って付けろ」
「シフォン様を?」
「そうだ。それで、シフォンが面倒事に会ったら、裏から支えて欲しい。それが出来たら、あのガキの事を考えてやろう」
その突き付けられた条件に、カルマは頷いた。
「分かりました! 某、全力でお嬢様を死守します!」
こちらは 金城暁大 さんが執筆しました。
https://kakuyomu.jp/users/Ai_ren735 しばらく療養していましたが2019年から再び活動を再開するそうです! 今後の活躍にこうご期待……!