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ファンタジック・アイロニー[現在停滞中]  作者: なぎコミュニティー
第三部・ヒマリside
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幻影の炎《ファントム・ファイア》




「一つみんなに聞いていいかな?」


 唐突に、ヒマリが尋ねる。


「今の、リリィちゃんの浄化の力。その力もそうだけど、そういう力って、この世界の人はみんな普通に使えるの? ハート、シフォンも、魔法みたいなものを使ってたけど……」


 すると、その質問にハートが答えた。




「魔法、とは少し違うわね。似て非なる存在とでも言うのかしら?」

「違うの?」

「そうね。私たちのこの力は、贈り物(ギフト)と言って、魔法とは少し違うのよ。

 魔法というのは、基本的に、もう一つの世界……異世界で使われる力を言うのよ。“魔法”は、学習と、必要最低限の魔素があれば、誰でも使えるわ。“魔素”というのは、人間が生きていくうえで、必須の物質なのよ。生命力とでもいうのかしら?

 けど、贈り物(ギフト)は違う。この世界において、贈り物は、その所有者のみにしか扱えないのよ。つまり、誰でも使える力ではないの。でも、この世界の住人は、まず間違いなく万人が“贈り物”を使えるわ。まぁ、魔法よりも、“贈り物”の方が上位に当たるのかもしれないわね」

「ほえ~。なんだか凄い力なんだね」


 話を聞くヒマリは目を輝かせていた。




「じゃあ、今のリリィちゃんの浄化の力も、“贈り物(ギフト)”なの?」


 すると、リリィは首を横に振った。


「いいえ。今のは魔法です。贈り物ではありません。この世界でも、魔法は使えないことはないんですが、あまり一般的ではありませんね。それと言うのも、魔法は基本的に、異世界の人間の使うものだという認識があるので、この世界の人間たちは、好まないのです。ですから、私も、浄化するところは、あまり人に見せませんね。浄化の仕事をするときは、基本的に、自宅で誰もいない時を狙って仕事しています」


 そのリリィの話に、よほど異世界の人間は、この世界の住人に嫌われているのだなと、ヒマリは心中で思った。




「そうなんだ。でも、じゃあどうしてリリィちゃんは魔法が使えるの?」

「これは、おばあちゃんが教えてくれていたものです。私のおばあちゃんは、まだ、異世界とこの世界が良好な関係を気づいていた時に、覚えたと言っていました。そのおばあちゃんから、私も習ったのです」


 その話に、ヒマリは首を傾げる。




「じゃあ、リリィちゃんの“贈り物(ギフト)”はなんなの?」

「あう……それは……」


 リリィはチラリと横に座るシフォンを見やる。


「大丈夫よリリィ。この人たちは信頼していいわ」


 その言葉に、リリィは安心したように頷く。




「私の“贈り物(ギフト)”は、これです」


 そう言うと、リリィは懐から、マッチ箱を取り出すと、その一本を擦り、火を着けて見せた。

 するとどうだろう。そのマッチの先端の炎から、照らされるように、一つの映像が浮かび上がった。

 それは、雪がはらはらと降りしきる中、一人、街路で弱弱しい声を上げながら、マッチを売り歩くリリィが映し出されていた。




 程なくして、マッチの火が消える。


 すると、その映像も、ほんの数十秒で煙のように消えた。




「これが私のギフト、“幻影の炎(ファントム・ファイヤ)”です」

「“幻影の炎”?」


 ヒマリの問いに、リリィは答える。


「はい。私のこの能力は、マッチに火が灯っている間だけ、好きな未来を見ることができるのです」

「と言うことは……さっきのは……」

「はい、私の未来です」


 その話を聞いたヒマリは。目を輝かせた。


「すごいすごい! じゃあ、私の事も見れるの?」

「はい。知っている人であれば、誰でも……」

「本当! じゃあ、私の事も見て欲し――」




 しかし、歓喜するヒマリを、ハートが抑止した。




「それならば、一つお願いがあるの」

「はう! お願い……ですか?」


 リリィは、前のめりになるハートに、若干怯えながらも聞き返した。


「ダイヤシティの、未来を見せて」

「ダイヤシティの……ですか?」

「そう」


 その時、ヒマリは思い出した。


 そうだった。私たちは、そのダイヤシティを救うために、はるばるこの国にやってきたのだ。そのハートの願いは必然だった。

 今、ダイヤシティが、敵の手によって崩壊すれば、あの基本世界の者たちは、たちまちこの世界を滅ぼすだろう。端からそれが目的のはずだ。そうすれば、ハートの母国のハートアイランドも無事ではないだろう。




「今、ダイヤシティは窮地に立たされているわ。お願い。ダイヤシティの未来を見せて」


 その真剣なハートに、リリィは怯えながらも、了承した。




「わ、わかりました。でも、全ては見せられないですよ?」

「かまわないわ。少しでも手がかりが欲しいのよ」


 リリィは頷くと、マッチを一本擦った。




 シュッ! という音とともに、マッチの先に炎が灯る。


 そして、それに照らされるように、映像が現れた。








 その映像には、一人の少女が映し出されていた。だが、その顔は靄のようにけむり、うかがい知ることはできない。




 そして、その少女が、大勢の人間の前に立っている。




 すると、その少女は、体から黒い気を放ち始めた。




 その気は、瞬く間に巨大化し、やがて一つの巨人となった。




 そして、その巨人が両手を目の前に翳すと、そこから強烈な紫炎、否、闇の光線を放った。




 その一撃は重く、禍々しく、たちまち敵を蹴散らした。




 一撃を放った後、黒の巨人は煙のように消え、少女は、力なく倒れた。








 映像はそこで終わっていた。


「今のはいったい」

「間違いなく、ダイヤシティの未来です」


 リリィは申し訳なさそうに言う。


「あの女の子は?」


 ヒマリの頭の中に疑問がわく。


 右隣を見ると、ハートも同じようだった


「もしかして、ヒマリ?」

「ううん。ハートかもしれないでしょ?」

「あるいはクイーンかも」


 疑問は尽きない。


 困惑する4人は、しばし黙ったままだった。




「そうだ。ヒマリも見てもらいなさいよ」


 ハートが最初に開口した。


「え」

「あなたの事、気になるの。凄く」

「そうなの?」

「そうよ。それに自分の事だもの。知っておくべきよ」


 そのハートのあまりの強気な推奨に、ヒマリは圧倒さかけたが、たしかにヒマリも自分の未来については気になっていた。


「わかったよ」




 そのヒマリの容認を確認すると、リリィは再び、マッチを擦った。




 か細い炎が、穏やかに燃える。


 そして、その炎に照らされ、映像が映る。


 ヒマリはそこに映し出されていた人物を見て、仰天した。




 自分より少し背の高い少年。


 七三に分けられた黒い髪は、彼の利発な雰囲気を醸し出している。


 そして、その端正な顔立ちには、見覚えがあった。




「お兄ちゃん!」




 見間違える筈が無い。


 夢にまで見た、兄の姿だ。




 そして、その傍らには自分がいた。






 間違いない。






 ヒマリは確信した。






 兄は生きている。






 これは、私たちの兄弟の未来だ。


 そうして、もしこれが真実ならば……






 会える。






 生き別れになった兄と。






 それだけで、ヒマリには十分だった。


 思わず、ヒマリは泣いていた。


 映像の兄に向って、何度も兄の名を呼ぶ。




 だが、どこか様子がおかしい。




 兄弟二人は手を結んでいるものの、その表情は険しい。


 それは、まるで何かと対峙しているようだった。




 そして、その視線の先。




 そこには、自分たちよりも二回りも幼い、少年の姿があった。


 白い髪は腰ほどまで伸び、とても幻想的な雰囲気だ。


 そして、その幼い顔に、不敵な笑みを浮かべている。




 映像はそこまでだった。




 マッチの火が消え、元の部屋に戻る。




「今のは……いったい……」


 ヒマリの困惑に、ほかの3人も頷く。


「お兄ちゃんと会えるのはわかったけど……」


 その場の誰もが同じ意見だった。




 あの白髪の少年は、いったい。




 また、新たな謎が生まれた。


 すると、ハートが開口した。




「もしかすると……」

「え?」


 ヒマリに、ハートは頷く。


「あの少年は……“神”」


 その突拍子もない発言に、一同は目を丸くした。




「神様?」

「そうよヒマリ。あれは恐らく神だわ。前に本で見たことがあるの。たぶん間違いないと思うわ」

「じゃあ、あの場所は、天国?」


 ハートは首を振った。


「それはわからないわ。現世に降りてくる事だってあるかも知れないでしょ?」

「そうだけど……」


 するとシフォンもハートに便乗した。


「ともかく。ヒマリちゃんとお兄ちゃんは会える。そして、あの少年と対峙する。そういう事で間違いないのね? リリィ?」




 突然声を掛けられ、リリィは肩を跳ねさせた。




「は……はい! まちがいナイでしゅ!」




 その時、頭上の時計が、時刻を知らせる金を鳴らした。

 同時に、時計の中から、銅造りの鳩が飛び出、羽をはばたかせる。




「あら。もうこんな時間」


 時刻は既に夜を迎えていた。




「とにかく。私たちの未来は分かったわ。……ぼんやりだけど」


 ダイヤシティ、そしてヒマリの未来が分かったハートの目は、使命感に燃えていた。


 それはヒマリも同じだった。


「その未来を良きものにするためにも、絶対に、この国、スペードキングダムの王に書状を渡すのよ」

「そうだね、ハート」


 未来に希望がある。それだけで、今の二人には十分だった。





「なるほど。二人はそんな目的があったのですね」


 頷くシフォン。


 シフォンにも、ようやくこの二人がなぜこの国に来たのか分かった。




 改めて、結束を固めた一行。


 明日には、この国の王都へ赴かなければならない。


 そんな一行に、夜の帳は、静かに降りた。




こちらは 金城暁大 さんが執筆しました。

https://kakuyomu.jp/users/Ai_ren735 しばらく療養していましたが2019年から再び活動を再開するそうです! 今後の活躍にこうご期待……!

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