罠・中編
トウラはタマと森に入り、シオンとシェロを探す。森は鬱蒼として木々が倒れていたり、倒れた木から小さな木が育っていたり。そして、オレンジ色の羽を持つ鳥がトウラの頭の上をスレスレで飛んでゆく。これを見送った頃、トウラの先を走っていたタマが急に立ち止まった。タマは上を見上げている。
「タマ、どっちだ?」
タマは、側にある銀杏の大木に飛びつき上へ上へとジャンプして上がっていく。目で動きを追っていくと、タマの上方に網が張ってあった。銀杏の大木から隣の杉の木に伸びた網はハンモックになっていて、中に人が居るようだ。
タマがハンモックにたどり着き止まっている所を、トウラは注視する。瞬間、トウラが消えた――転移でタマの隣まで移動したのだ。トウラはタマのすぐ横の枝に掴まりハンモックを覗き込む。
「……シオン!」
トウラは、ハンモックを揺らしながら、気持ちよさそうに眠っているシオンに近づいていく。タマはシオンの足にじゃれついているが、シオンは一向に起きない。トウラがシオンのところまで来て揺すりながら声をかける。
「シオン、なんでこんな所で寝ているんだ。おいっ、シオン、シオン!」
「ウ、ウーン。あれ、トウラ。レコアさんは?」
シオンの目は覚めたが、まだ、夢を見ているような顔をしている。
「シオン、なんでこんな所で寝てるんだよ?」
「レコアさんと剣の修行をしていて、やっと3つ目の門をくぐった所だったんだけど、なんでトウラがいるの?」
「誰だレコアって? つか、どうしてこんな高い所のハンモックの中で剣の修行なんか出来るんだ。夢でも見てたんじゃねえの?」
「……あっ!」
シオンは、下を見て目を丸くした。
「こんな高い所にいたんだ」
タマは、サッサと下に降りている。トウラがシオンを掴み、下に降りたタマを注視する。すると、トウラとシオンは一瞬にして、タマのいる地面に着地した。
「あー、ビックリした。トウラ、ありがとう」
「タマがシオンを見つけたんだぜ。すごいだろ」
「ありがとう、タマ」
シオンがタマの頭や喉元を撫でると、タマは気持ち良さそうに目を細めた。
「シオン、シェロは一緒じゃないのか?」
「うん、一緒じゃないよ。どうかしたのシェロ?」
「2人が昼食の時間に居ないのに気づいて、ノアが俺たちに探して来いと言ってな。まぁ、俺も心配だったからすぐにタマと探しに出たんだ」
「ごめんなさい、トウラ。心配かけて」
トウラが頷き、カラカラと笑う。
「まぁ、無事だったんだ。でも、シェロはどこに行ったんだろう?」
「ごめん、トウラ。僕のせいだ。シェロが心配してくれてずっと一緒だったから、ちょっと息が詰まっちゃって。こっそり抜け出しちゃったんだ」
「あーシオン、それ俺も分かる! 息が詰まるのはしょうがないさ。シオンのせいじゃない。まぁ、大丈夫だろう!」
トウラがシオンの肩を叩き、元気付ける。
「じゃあ、今度はシェロを探しに行こう。タマ、頼んだぞ」
タマは、ビュッと西の方へ駆け去っていく。トウラは、シオンを抱えてタマの後を追った。
川を三つ超えたところでタマが止まる。
「タマ、どっちだ」
タマは、北西の藪の中を睨んでいる。藪の中からガサガサと音が聞こえ、人が飛び出してきた。反射的にシオンとトウラは身構えた一方、タマは飛びついていった。
「おおっタマ! トウラ! シオンも!! 無事だったか」
「シュート! なんでここにいるの?」
シオンが不思議そうに聴くとシュートは、トウラを見て答える。
「俺もノアから言われて探しに来たんだ。良かったシオン、見つかって……ん、なんかシオン変わったな?」
「シュートも分かるのか!」
トウラが横から、口を挟む。
「さっきから、俺も、なんか違うと思っていたんだ。なんか成長したっていうか」
「さっきまで修行してたんだよ――それよりシュート、シェロは?」
「まだ、見つかってない」
シュートの言葉にトウラもシオンもガックリとしていると、タマが急に走り出し、大きな杉の木の下で一声鳴いた。
トウラ、シュート、シオンが駆け寄ると、杉の木の下で人が倒れていのを見つけた。
「シェロ、シェロだ!」
シオンは、シェロを揺らして起こそうとする。トウラもシュートも声をかける。
「シェロ、大丈夫か? シェロ!」
「シェロ、シオン見つかったぞ」
シェロは、ゆっくりと目を開き、3人を見る。
「よかった無事で。シェロがこんなところで倒れててビックリしたよ」
胸を撫で下ろしている間、シェロは何も応えない。生気の見られないシェロの瞳に覗かれたシオンから、笑顔が消えた。
「シェロ、大丈夫? 何があったの?」
「シオン……良かった……。無事で……」
シェロは、か細い声で答えた。
「まぁ、良かったじゃないか。シェロも無事だったんだから。とりあえず、戻ろう!」
トウラがでかい声で言うとシオンもシュートも頷く。タマはトウラの肩に乗り、シオン、シュートがトウラに触れる。トウラは、シェロの肩に手をかけると次の瞬間、そこから消えた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
所変わって、ここはシャール村。
教会の中にあるノアの部屋に、トウラ、タマ、シオン、シュートが突然現れた。
「トウラ、ここにいきなり現れるなといつも言ってるだろうがっ」
「悪いノア、シェロが大変なんだ」
「ああ、わかってる。シェロの部屋のベッドで休ませておけ。シオン、ついて行ってやれ」
ノアは、シェロを一瞥するとシオンに向かって指示した。シオンは頷き、シェロの手を握り歩いていく。
シェロをベッドに寝かせたシオンは、ベッドのすぐ横の椅子に座った。
「シェロ、なんであんなところに居たの?」
シェロは、咳き込みながら答える。
「シオン……あなたを……探しに……森に入って……行ったら……なかなか……見つからなくて……そこで小さな……女の子に……会ったんだけど……その後が……思い出せなくて……。明日……もう一度……あの場所に……行きたいんだけど……。一緒に……ついて来て……くれる?」
「一緒に行くのはいいけど、シェロが治ってからにしよう」
シェロは頷き目を瞑る。シェロの閉じた目から一筋の涙が流れる。
「シェロ、大変だったんだね。ごめんね」
シェロは、寝息を立てている。シオンは今まで、この世界に来てから随分とシェロに助けてもらっていたことを思い出す。
(シェロが居なかったら、僕はこの世界で仲間なんて出来ていなかったかもしれない。もしかしたら、もう死んでいたかもしれない。なんでシェロのことを鬱陶しいと思ったんだろう)
「――シェロ、ありがとう」
シオンが、寝ているシェロに向かって呟いたその時。布団の中でシェロの胸元が微かに光った。
こちらは K35 さんが執筆を担当しました。
https://kakuyomu.jp/users/K53 ただいま『タケルの書』という和風ファンタジーの連載を開始しています。これを機に是非ご覧下さい……!