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ファンタジック・アイロニー[現在停滞中]  作者: なぎコミュニティー
第三幕・外伝
102/129

ジェイド ブローカス・1編



 灼熱の太陽が爛々と輝き、大地を照らす時間帯に一つの集団が砂漠のど真ん中で休息を取っていた。

 その光景は誰が見ても異様で、人類の敵とされている強大な魔獣の体に背中を預ける人間の姿がちらほらと見える。

 彼らの服装はそれこそ貴族のように豪華なものでは無かったが、只のローブとも言い難く何か魔法の力を発揮している様に感じる。

 それを表すよう彼らの表情には疲労というものが見えない。訓練されている兵士でさえもが顔を顰めるほどの暑さだというのに。

 これには2つほど理由がある。


 1つ目は彼らの身につけているローブが熱変動無効の効果を持っているためである。

 つまりこのローブさえ着れば、どれだけ暑かろうと寒かろうと関係ないという事だ。

 2つ目が彼らの所属する部隊が神崇部隊の第3隊の精鋭達である事だ。













 屈強な肉体を持ち精悍な顔の男、しかし、男の肌は見えず代わりに灰色の深い体毛が風になびくのが見える。

 側から見れば人間では無く人狼だと答えるだろう。その証拠に男の頭には狼のような耳が2つくっ付いていた。そんな強者の雰囲気を漂わせる男……神崇部隊第2隊の隊長、シェイド ブローカスはある悩み事を抱えていた。


「ブローカス隊長! 次のお告げはいつになりますか!?」


「隊長! お告げの時にはこの、ライセン ヘムがクレード様に命を捧げてお守りするとお伝えください!」


 今のように【お告げ】という仕事がやってくると隊員の頼み事を聞き流さなければならないのが彼の悩みだ。

 そもそも【お告げ】とは隊長である身分の彼にしか出来ない技能で、神から渡された能力を使い神の次の指示を受けるという極々簡単なお仕事である。

 しかし、彼にとっての1番の問題は指示を受ける前の状態が非常に危うい事である。


 本来この部隊は【神の為に使命を果たし神の為に命を使う】がモットーであり彼を除く第2部隊全ての隊員が神の事を崇拝している。

 なので、もし彼が地雷を踏むような発言をした場合、神を崇拝する隊員達になぶり殺しにされる事も心配している。

 実際、実力ではこの隊では1番なものの信仰心ではランキング付けするならばダントツで最下位の彼が隊長になったのも彼自身よく分かっていない。

 もしそれがあの神の()()()なら黙って受け入れるしか生きる道は無く、最早彼に残された手段は1つも無いに等しい。


 なので今回のお告げで神からこの事について一言貰えれば彼の遠征ライフは精神的に楽なものになるが神がそのような事を言わないと知っていた為、ため息と共にその理想を吐き捨てた。


「そう……上手く行く事は無いよなぁ」


 これから続く最悪な遠征に思いを馳せながら彼は、仕事を片付ける為に姿を消した。




 神崇部隊の休憩所から南に300メートル、シェイドはお告げの準備をするためかなり強力な結界を張る。

 その理由は単純で、お告げの邪魔をする不届き者を断罪するのが目的だ。

 勿論、断罪というほどだから攻撃を防ぐ効果だけでは無く“じどうげいげきしすてむ”という物を搭載しているらしい。結界を攻撃した奴は大抵死ぬ程のとんでもない効果だ。

 しかしリスクも高い為、結界を張ると数日間は酷い倦怠感に陥りろくな戦闘も出来なくなる。

 シェイドにとってこんな結界なんて必要ないのだが貼らないと不敬罪として部下達になぶり殺しにされてしまう為毎回結界を渋々張っている。


「うぉぉー来たなぁ」


 まるで竜巻の中でグルグルと回されているような感覚に陥り、頭痛と共に酷い吐き気と倦怠感が襲ってくる。

 これこそがこの結界のデメリットでありお告げの正念場でもある。


「この気持ち悪い気分の中どれだけ信者を演じられるか……【我は主神グレードにお告げを戴く事を願う】」


 お告げの能力を発動させると同時に周囲の音が一切途切れる

 砂が吹き荒れる音も小さい生物が砂を駆けずり回る音も意識すれば微かに聞こえる部下達の喋り声も全てが耳に入らず、次に聞こえてくるのは神と呼ばれる雲の上の存在の声だった。



「やぁ、ジェイドブローカス君。お告げを始めようか」













 ジェイドが神に忠誠を誓うようになったのは一昨年の気温が低い時期。

 ジェイドの種族、人狼(ワーウルフ)は分厚い体毛に覆われている為体温が保たれやすく、身体能力も人間の数倍も高い為食糧難も少なく危険も無い平和な暮らしが続いていた。

 しかし、彼らの平穏な生活も唐突に終わりを告げる。

 人間達……それも武装した戦士達が人狼達を捕らえようとやって来たのだ。


 彼らは人間達に全くと言って良いほど危害を加えてはいない。それは先人達が残した知識の中に【人間には手を出してはならない】というものがあったからである。

 それなのに何故、人狼達を捕らえようと人間達が動いたのか……それは欲の深さからであると後ほどに知った。

 人狼は戦力としても使えるだろうし女は性奴隷としても利用できる。子供も育成や洗脳を施せば強力な戦士として様変わりだ。

 そして亜人であるために他の国からも睨まれる事は無い、だから人間達は自分達の利益の為に自分達を襲ったと……


 なんにせよ当時の彼らは何故ここに人間達が来たのかも知らない為ただ呆然としている合間に大半の人狼が捕まってしまう。

 僅かな人狼は反抗する仲間達が惨殺されるのを見て逃亡するが、追っ手に捕まり見せしめに殺された。


 ジェイドを含む全ての人狼が捕まり馬車の中に詰め込まれる。

 馬車の中に入れられた人狼達は諦めの表情を浮かべ村のリーダーであり1番強い族長でさえここから抜け出そうと抵抗さえしなかった。

 族長の意思が村の意思であるここの人狼達は最早、抵抗する事さえも考える事はしなかった。


 馬車に揺られ何刻か過ぎた辺りで突然人間の悲鳴が上がった。

 手足を金属で縛られている為何もする事は出来ないが高い五感を駆使して情報を集める事は容易である。

 悲鳴と怒号が鳴り響き金属のぶつかる音が多く聞こえる状況は人狼でなくとも予想は容易い。

 その予想を裏付けるよう1人の人間が馬車の堅牢な扉を壊して馬車の中に入ってきた。

 その人物は黄金の鎧と返り血に染まった剣を握り【圧倒的強者】の雰囲気を漂わせた狂気の表情を浮かばせている人間だった。


 人間は捕まっていた人狼達を見ると何かを察したのか剣を収め手を差し伸べて来た。


「お前らが人狼か……主神の命によりお前達を助けに来た」


【助けに来た】、その言葉をジェイドが理解するまでに時間が掛かるのは仕方のない事なのかもしれない。

 人間に捕まった筈の自分たちが同じ人間に助けられ、そいつは神の命令で助けに来たという。この出来事を瞬時に理解できるのは人狼にはいないとジェイドは感じていた。

 しかし人間はそんな事御構い無しにそこらにいた人狼の手を取り言い放つ。


「さぁ早くしろ、ここら一帯が砂漠になる前に」


 その言葉を聞いた人狼達は余計混乱しているようだった。




 外に出て見ると辺りは血の海と化していた。

 鉄の白いチェストプレートをつけている人間が人狼達を襲った人間だろうか、足元にはその装備を着けていたと思われる人間が地に伏していた。


「なぁ、これは全てあんたの仲間がやったのか?」


 黄金の鎧を身に纏う人間に近くの人狼が聞いた。

 男は何事も無いような口調で「ああ」と返す。

 会話はそれだけしか続く事はなかった。

 何分歩いただろうか? 血の匂いが無くなる場所まで来た所で人間が言った。


「人狼よ、よく聞け! 今からお前達を転移させる! だからそこを動くな!」


【転移】という聞きなれない単語を聞いた為か辺りがざわめき出すが、その人間は咎める事はせず何か一言呟くだけだった。


 その瞬間光が人狼達や男に纏わりつき周りの景色が見えなくなった所で光が消え、新たな景色が広がった。


「やぁ、君達が人狼の種族かい?」


 それがジェイドと神との初めての対面だった。




こちらの執筆は number さんが担当しました!

http://ncode.syosetu.com/n4381ed/ 小説家になろう にて『俺の前世は最強勇者』を連載。多忙な中執筆いただきました……! 今後の活躍にこうご期待!

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