その頃・後編
ここは、シャール村の外れた人気のない場所。
ここらの草は手入れが届いておらず道とも呼べぬ廃れた土地に1人の男が佇んでいた。
その男の頬には、数滴の涙が伝った跡が残っておりその顔には後悔や怒りの表情が見える。
「……何をやっていたんだ俺は」
彼の呟く声は掠れ、普段のような冷静さを感じられる知的な声では無く、後悔の念が強く残った痛ましい声だけがその場に留まっていた。
「ふざけるな……何が救世主だ。恩人すら助けられない奴が名乗る名じゃねぇだろ……」
彼は心に余裕を持っていた。
自分は前より強くなっていた。修行を経てそう思うのは当然な事だが、それでも真剣に相手をしていればこんな事にはならなかったかもしれなかった。
「深海……和尚。俺にもっと力があればあんたを救えたかもしれねぇ」
彼……ノア・ルクスは目を伏せ戦いの情景を思い浮かべていた。
「……俺にもっと力があれば、和尚だって死ぬことは無かった。トウラの……聖獣の力を持っていても助けられなかった……」
彼が目を開けた時、その瞳には力への執念しか残ってはいなかった。
何かに取り憑かれたように森へと向かうノア。去り際に呟いた一言に以前の面影は残っていなかった。
場所はシャール村、東の大森林に移る。
奥へ進む毎に草が多くなり道も悪くなる。何度かこけそうになりながらも急ぎ足で進む。
ノア自身、鬱陶しいこの森ごと異能で切り払えたら良いのにと思う事は何度かあった。それ程までに常人では入れないであろう荒れた道をかなり進むと。開けた草木のない場所が現れた。
その広さは中々大きく、シュートと剣技の修行を行った光景がフラッシュバックする。
少し唖然となったノアの顔もその光景を思い出すと再び力への執念に囚われるように表情を引き締め、また早足で進もうとしたその時、「おい、待てよ」と声がかかった。
思わずその方向を見てみると先程までには無かったはずの気配があり、そこには白いローブを全身に羽織った大男が佇んでいた。
「そんなに急いでどうしたんだ? なんか探しもんでもあんのか?」
野性味を帯びた口調に苛立つノアだが、気力で鎮めつつ問いに答えた。
「お前は誰だ? こんな場所に用がある人間なんて限られているしここに来れる奴も多くは無いはずだ」
ノアがそう問い返すと目の前の男は一度溜息を吐いてから答えた。
「おいおい、質問に質問で返すなんて常識がなってねぇな。なぁ転生者はみんなそうなのか?ノア・ルクスさんよぉ」
ノアはその言葉を聞いた瞬間、警戒レベルを大幅に引き上げ瞬時に臨戦態勢に入れるよう準備に入った。
「……もう一度聞くぞ。お前は何者だ。俺の名前を知って、かつ転生者の情報を掴んでいるのは殆どいないはずだが」
「……俺は神崇部隊の2番隊隊長のジェイド・ブローカスって者だ。仕事でお前に、用があって来た」
ノアはジェイドの言葉を聞いた瞬間に異能を解放、白騎士としての姿を現し臨戦態勢に入った。
「神崇部隊……なんだ? クズ神の宗教団体か? それなら俺も今、お前に用が出来た。今すぐここで死ね」
ノアは電光石火の如き速さでジェイドに懐に入り剣を振るう。
しかしその攻撃はいとも容易く躱されてしまった。その上
「クックックッ……良いな、その名前。クズ神なんて面白え名前をつける奴が人間に居たんだな」
ジェイドは笑いをこらえきれずに声を出して笑っているようだ。
その様子にノアは怒りと困惑の感情を覚える。
その戸惑いに気づいたのかジェイドはノアに聞こえるか聞こえないかの微かな声で一言零した。
「俺が軍に入ってなかったらそれなりの仲にはなってたのかもしれねぇな……」
その言葉を最後に彼は笑みを無くし本気を出した。
神崇部隊の隊長としての実力を発揮し任務を達成する為に。
敵のあまりの変わり様に戸惑うノア。
先程まで笑っていた敵が急に刺す様な殺気を放っていたらそうなるのも無理はない。
しかしノアもただの転生者ではない。【白騎士の救世主】の名前に恥じぬ力量を発揮する為、相手を分析し弱点や特性を戦いの中で探る。刺す様な殺気を浴びながら彼は敵の元へと刃を振り下ろしに駆けた。
激戦が続く。ジェイドの正体が人狼だと分かった瞬間にノアの動きを変わりそれに対応する様ジェイドの動きに奇怪さが増す。
「チッ、中々素早いし、力もあるな」
兜のせいでくぐもって聞こえる独り言を脅威の五感で感知、ジェイドは敵が焦りつつある事を把握し一気に攻め立てる。
だが、ノアも鎧の防御力と素の機動力を駆使して致命傷を事前に防いでいる。
「Scorching heat is danceing with a Thunderbolt so invite them death」
ノアが詠唱を終わらせると灼熱の業火が顕著しジェイドに向かう。それらを自らの血で作った武具でいなしていると。辺りが暗くなり雷雲が周りを覆う。
轟音と共に数多の落雷がジェイドに向かって降り注いだ。
まるで天変地異さながらの状態に晒されても敵は生きている。ノアはトドメをさすために魔法の詠唱を開始した。
「Ancient time Australian spear When transient world Appearanceall thing will Eaters and swallow The name is Gáe Bulg」
魔法による天変地異が収まり、無傷のジェイドが燃え盛る炎の中から現れる。
しかしノアは慌てずに詠唱を完成させる。
そして巨体な魔法陣と共に現れたのは周りに電気の走った豪槍。槍の持ち手には何か古代文字の様な物が書かれており、その穂先には何か悍ましい物が蠢いている様に見える。
「流石に貴様も禁呪の魔法を食らえばタダでは済まないだろう」
ノアの表情には少しの自信が見え、これで終わるという余裕も、持っている様に思える。
魔法で作られた槍を握る頃には、ジェイドはおびただしい数の血の盾を周りに張り巡らせている。だが、そんな光景を見ても無駄だと笑う様にノアは言った。
「その程度の装甲がこの槍に貫けないとでも思っているのか?」
ノアが槍を投擲した。
その瞬間辺りが槍が輝き発光する。
光の速さでジェイドの心臓へと向かった。血の盾を紙の様に貫通し彼の肉体へと突き刺さると槍は爆散した。
こちらの執筆は number さんが担当しました!
http://ncode.syosetu.com/n4381ed/ 小説家になろう にて『俺の前世は最強勇者』を連載。多忙な中執筆いただきました……! 今後の活躍にこうご期待!