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愛、確かめ愛。ハーレムノーマル

聖フローラ学院。歴史と伝統を重んじる純粋な女子高であった。過去までは。

現代の日本女性の風紀の乱れは深刻だった。時代の流れと共に清廉な気品ある女性像は見る影もなく失われていった。女子高と聞くと、お嬢様たちが集まるお上品な百合花の集いのイメージがあるだろう。ところが現実は違うのだ。女ばかりの集まりの場では、身嗜みや礼節もクソもないのだ。女しか見ていないのだから、平気で下着姿にもなるし、授業中に化粧をしたり、スカートのを下敷きでバサバサ仰いだり、下品な馬鹿話に花を咲かせたり。

この現状をに頭を痛ませた現理事長の華岡文江は打開策に踏み切った。

共学。つまり、男子生徒の受け入れを決めたのだ。

男の目がある中で、そう簡単に醜態を晒すことはないだろう。女は男の前では取り繕う生き物である。たとえ一時期に仮初めの行動になろうとも、わずかでもかつて己が学生の時分の頃を取り戻せれば、と苦肉の策であった。

しかし問題は男子生徒である。歴史伝統、それより制服が可愛いという理由で毎年無駄に人気のある当校は、多くの生徒の受け入れの為に相応の校舎の広さがある。つまり、生徒の数はとても多い。そんな中、枠を拡充したとしても入学した男子生徒の数はわずかだろう。大量の女生徒達の衆人環視の中、男子生徒ははてそてまともに学生生活を送れるのであろうか。当然常に視線を晒されるような生活なんてごめんだ。まずもって応募などーーー。


ひとり。いた。


たったひとり。我が校の現状を知ってかしらずか、入学を希望する生徒がいた。

学業、素行共に問題なし。これは哀れな子羊としては問題ない人材であろう。

理事長としても、学院の改革の為、悪いがその生徒には耐えて頂こう。

犠牲となる生徒は、果たして。

面接官として、理事長は生徒の入室を待ち構えた。どんな男だろうと、十中八九合格させる気でいたが、どうせなら、イケメンとかだったら望ましい。理事長とて、齢を重ねようとやはり女だった。色眼鏡で生徒が扉を開くのを待った。


「ーーー座っても、宜しいですか」


現れた男子生徒に、理事長はしばし口をあんぐり開けた状態で硬直した。慌てて詫び着席を促した。

男子生徒のあまりの美しさに、理事長は年甲斐もなく高鳴る鼓動を抑えきれずにいた。


「ねえ、聞いた?男子が入学してくるって。一人だけ!」

「はあ?ババア理事長何考えてんだよ」

「エロ目的のハーレム狙いにいっぴょおーう」

「ブサイクだったら死刑っしょ!」

「あっはひっでえー!」


たったひとりの男子生徒の入学の噂は瞬く間に学院中を駆け巡った。

この手の話題が大好物の女子生徒達は、こぞって噂に飛びついた。

花開く会話の内容はひどいものだ。男子生徒は散々な言われようである。

しかし、仮に男子生徒が入学したとして、男子としての意見は無に等しいであろう。力では恐らく勝てるであろう。だが集団になった女子生徒は恐ろしいものだ。一個の意思共同体となって襲いかかってくる。男子生徒がどのような容姿であれ、女子生徒達の興味関心から逃れることは不可能なのである。哀れな子羊とは、本当によく言ったものだ。


「つかさ、本当に来んの?」

「え、だってマナが言ってたじゃん」

「あたしユイコから聞いたよー。あの子の言うことならマジじゃん?」

「ええー、だってアイツコトミの彼氏寝取ったらしいけど」

「はあ?サイアク、ビッチだったのかよ!」

「って男子は結局どうなの?」

「あー、そうそう。ゲロブスだったらマジでころ………す」

「フウカ?」


あちこち脱線しながら盛り上がっていた女子生徒の一人が、歩みを止めぱかっと口を開けた間抜けな表情になった。


「なにー、あっちなんかいるーーー」

「なんなーーー」



不審に思った女生徒達の達は、フウカと呼ばれた女子生徒の見る方向を同様に見つめた。


「な、なにあれ?」


フローラ学院は現在、春の初め。

時期的に新入生にとっては入学式、上の学年達は恒例の新学期である。全校集会に用いられる体育館につながる通路は一つだ。皆がそれぞれ時間前にポツポツと集合すべく歩いている。マンモス校故に渡り廊下そのものも幅広い。数人の女子生徒が大きく手を広げても余りあるほどである。校舎から体育館へと続く道も無駄に長い。先の女生徒達も仲良しグループで揃って体育館を目指していたのだ。

話し歩きながらフウカは体育館へつながる扉をカラカラと開け固まった。

長い渡り廊下は、フウカと同じく一点を見つめながら固まる女子生徒達が一様に並んでいた。その様はオブジェの如く、元からそこにあったとしても違和感ないほど長いこと固まっていた。異様なことに、その全ての視線はある一点、正確にはひとりの生徒の背へと送られていたのだった。

フウカは入り口で固まった原因を見た。

フウカが入り口で固まってしまったので、団子になった残りの女子生徒達はフウカの横から固まって女子生徒達を見て驚きの声を上げた。


「ふ、フウカ!なんなのあれ!」

「女子全員固まってんじゃん!なんなの!?」

「フウカってば!あんたもなんか見たの!?」


焦れた女子生徒一人がフウカの肩を激しく揺さぶった。ゴン、とかなり鈍い音を立て、揺さぶったせいで戸口に頭をひどくぶつけさせてしまった。


「ご、ごめーーー」

「ばい」


しまった、と蒼白になって女子生徒じゃフウカの安否を確認すべく顔を覗き込んだ。


「え?」

「やばい」


我に帰ったのか、痛みも感じさせない素早い動きでフウカは振り返ると、揺さぶった女子生徒の問いに対して簡潔に、迫真の表情で詰め寄った。


「男子、めっちゃかっこいいんですけど!!」


たあ!?

遅れて痛みに気づき涙目になり蹲ったフウカをよそに、残り女子生徒達はこぞって体育館へ駆け出していった。



あっけなさ過ぎる合格通知を受けた男子生徒ーーー支倉は、マイペースに入学式に参加するため体育館を目指し歩きながら、これからもずっとあるであろう動物園パンダ気分を嫌という程味わっていた。


ーーーくっさ。化粧濃い。香水かけ過ぎ。鼻おかしくなりそう。


表情には出さないものの、塗りたくられた上っ面の不快さに内心苛立ちを覚えていた。

たったひとりの男子生徒。注目されるのは当然として、皆が自分の顔を見て頬を染め阿呆面を晒していた。その意味を分からない支倉ではない。


成長を遂げた支倉は、日本人の平均身長を大きく底上げするほど高く、均整の取れた程よく逞しい身体は長い手足をもってより様になっている。本来女子生徒の制服に比べ、男子生徒の制服はブレザーか学ランかの違い以外全く面白みもないデザインが多くを占める。しかし本校初の男子生徒となれば、というか何を期待したのか、ブレザータイプの制服は細部かなり拘って作られていた。漫画やアニメに出て来るアイドル高校生さながら、黒と藍色のストライプ模様のネクタイの先は銀糸が縫い付けられ、淡い水色の上着の胸ポケットにはフローラ学院の校章ーーー芍薬、牡丹、百合の三つをモチーフにした宝塚ばりの装飾であるーーーがラメ入りの黒い線で描かれている。袖、裾先と下ポケットも校章と同じ色で統一されている。シャツは灰色で、目立たない程度の青い線で網目状に模様が織り込まれている。首まで閉じられたボタンはやや濃い灰色で存在を主張していた。ベルトや下履きはシンプルなものであれば指定はないとのことなので、支倉はそこだけはせめて無難な目立たない品を選び身につけていた。

こんなにあれやこれやあしらわれた制服を平凡な男子生徒が着たとなれば、まあ制服に着られてしまうだろう、つまり似合わない。校章が花をモチーフにしていること以前に、フローラ学院である。名前からして男の通う学校名ではない。どう考えても男子生徒を集める気なんてあるのかと思われてしまうであろう。

しかし支倉は来た。そして着たが、似合っていた(本人は全く趣味ではないデザインであるが)。

イケメンは何を着ても似合うとはこのことである。

イケメン、そう、支倉はとても格好よろしいのである。まさに漫画にある女子生徒の惚れ惚ける描写が現実で起こり得る程の顔の整いようだ。

やや吊り上がった切れ長の漆黒の瞳は、女顔負けの長い睫毛が揃い踏みで、瞬きするたびばさりばさりと音が聞こえてきそうだ。一切の曲がりを許さぬような眉は一筆で真っ直ぐに描かれ、瞳に近い位置にあるそれは彫りの深さを際立たせていた。綺麗な斜線が絶妙な角度で折れ曲り、高い鼻を作り出していた。やや色白な肌はしみかすみくすみの欠陥は見当たらず、程よく厚みのある唇は赤く艶めき、溢れ出る色気に皆が釘付けになった。

支倉自身、自分が如何に整っているか自覚している。はるかは可愛い。誰よりも。その隣に立つ男が不格好で良いわけがないのだ。もとより与えられた顔立ちを更に磨き上げ、そこらの有象無象の女が目にすれば石になってしまうほどの壮絶な魅力ある男へと仕上がっていた。しかしまだ高校一年生。成長とともに更なるグレードアップが期待できる。

決してナルシズムに浸っているわけではない。

支倉が自分が容姿に自信が持てるなによりの根拠は、愛してやまない少女の太鼓判があるからだ。


ーーーはつやすーうごくかっこいい!どんな男のこよりも、はつやがいちばんなの!


ーーーああ、はるか。今頃どうしてるんだろう。


ーーーはるか。ここにいる女どもがどう足掻こうがはるかの可愛さの爪先にも及ばない。


女だらけの花園など、支倉にとってただのうるさいメスの巣としか思えなかった。自分がこの下らない場所で心乱されることはないだろう。

心配なのははるかだ。行き先を聞けば、かなり悪名高い底辺高校だとか。とんでもない。襲われでもしたらどうするんだ。そうでなくともあの愛らしいかんばせを野獣どもが欲の吐け口とするに違いないのだ。

頭の中ははるかのことばかり考えながら、重たげな足取りで体育館の中を歩いた。


全校生徒全員が収まる体育館だったが、生憎本日全員揃い踏み、とは叶わなかった。そもそも全員ぴったり揃うことなどないかもしれない。大量の生徒たち。体調不良だったりサボりだったり、不登校だったり。必ずどこか綻びは生まれてしまうのだ。今日は比較的ましなほうだろう。それなりに人で体育館が埋まりつつある。


「ああ、支倉くんはこっち」


新入生と同じく並べば良いのだろうか、とぼんやり考えていた支倉の肩を軽く叩く声があった。


「ども。これからキミのクラスを担当するよ。青坂いとみ。宜しく」


にかっと人好きそうな笑みを浮かべるジャージ姿の女性。ざっくばらんな口調で遠慮なくしっかし男前だねえと無遠慮に観察する姿は飾らず、支倉は今までで一番好感が持てた。少なくとも担任ともなれば頻繁に顔を突き合わせる機会があるだろう。変に色目を使ってくるような教師でなくて安心だ。


「………どうも」


さんざ容姿に対する賞賛を受け、支倉は素直に受け止めながら、サクサク歩くいとみの後をついて行った。


ーーーえ、うそ

ーーーやば

ーーーマジで、やばくない?


「ごめんねー。良い男には目がないもんでさあ」

「いえ」


端を歩く支倉の近くでだべっていた女子生徒たちはすぐさま支倉を認め騒めいた。そんな彼女らの好奇の目を一身に浴びながらも、一度たりとも彼女らの方を向かずして、軽快に歩くいとみの背中を言葉少なに追った。


体育館のスピーチの場、壇上へと上がる裏方の倉庫に連れられた支倉は、いとみにここで待つように言われ立ち尽くす。当のいとみはさっさちどっかへ行ってしまい、見慣れぬ狭い空間に取り残された支倉は暇を持て余すーーーことなく、空いた時間の中はるかのことばかり考え、はるかの可愛さを思い描きひとり口元を緩ませた。


「………お待たせして悪かったわね」


暗がりを裂くようなはっきりとした声が響き支倉は口を引き結び振り返った。


「生徒会長の宇和沙耶絵よ」


宜しくね、と微笑し手を差し出す沙耶絵が思いの外近距離だったため、支倉は思わず身を引きつつ握手に応じ手を出した。


するり。


支倉はこめかみをぴくりと震わせた。整えられた爪のせいか、僅かに鋭利な印象を受ける細い指が、支倉の手に触れた瞬間、蛇のように片手も重ね支倉の手を堪能するように滑らかに撫ぜ上げた。


「ふふ、これが男の人の手なのね。思ったより細いけど、私より大きくて、硬くて、指も長いわ。あら、でも色は割と白いし肌もすべすべね」

「ーーーあの」

「あら、ごめんなさい」


やっちゃった。と舌を出す沙耶絵。生徒会長、と重きを置かれる役職に相当するであろう生徒の模範となりそうな容姿であった。黒髪のボブヘアはやや内巻きで、ノンフレームの眼鏡の奥の焦げ茶の瞳は悪戯っぽく輝いていた。支倉と比べればどの女性も当てはまるだろうが、沙耶絵は殊更小柄に見受けられる。握手をした際、支倉が少し屈まねばやり辛いほどに。全体的に華奢で、肉の薄そうな手足は胴を支えるには頼りないように思えた。

支倉は撫で回された手を摩りながら沙耶絵から目を逸らし言った。


「それで、このまま待てばいいんですか」

「ああ、もう少ししたら壇上に立ってもらうわ。理事長に聞いたわ。あなた、入試テストを満点で通過したんですって。すごいわ。だから新入生代表として挨拶。一言だけでいいから考えておいてね」

「わかりました」


支倉は静かに首肯した。

神様にガラ悪く喧嘩を売っていた姿とは思えぬ大人しさである。

支倉は敬語が好きではなかった。

回りくどい上、取り繕うような言い回しが気に入らなかった。です、ますと余計に添えられた言葉が多く面倒だ。余計会話に手間がかかる。本音で話している気になれないのだ。

支倉はだが敬語を使った。

少なくとも全ての人間に対して平等な態度をとれる点は認めていた。

好かないことに変わりはないが。

前者の理由も含むが、支倉はこも学院にいる全ての人間に対して心を開く予定はなかった。のであくまでも他人行儀に、品行方正を装うための手段として用いるのだ。


「新入生代表、支倉初也くん。前へ挨拶をどうぞ」


進行の声が聞こえたー支倉は壇上へ繋がる短い階段をゆっくりと登った。


「………?」


その後ろを関係ないはずの沙耶絵がにっこり笑いながらついてきたが、支倉はさっさと済ませようと気にせず壇上へと歩いて行った。

支倉が女生徒たちの前に立つと、軽く歓声が漏れ上がった。

支倉控え倉庫に入っている間、支倉の姿はその場の全員にあっという間に知れ渡っていたのだ。


「これから文武共に両立できるよう、励みます」


本当に一言だけで呟くと、支倉はさっと踵を返し戻り始めた。


ーーー声もやべえ!

ーーーまじイケボ、濡れる

ーーーあーんかっこいいぃ〜


もう今日はこのままばっくれてしまおうかと思った。

初日で慣れなかったとはいえ、ここまで女たちから注目を集めることに疲弊した。はるかに会いたい。


「あら、待って。あと一つあるのよ」


その歩みを止めたのは沙耶絵であった。支倉の腕に自らのそれを絡ませ引き寄せる。館内には悲鳴が響き渡った。


「皆さん。もう分かっているでしょうけど、我がフローラ学院初の男子生徒よ。たった一人しかいなくって、皆女の子ばかりで何かと困ること、わからないことがあるでしょう。その時はみんなで助けてあげましょうね。改めて、宜しくね、支倉、初也、くん?」


コチラコソ。


支倉は言い出しっぺから動揺を隠せなかった。入学、もとい新学期は早引けで授業もなく、その日は軽く各クラスごとに顔合わせ程度で、お昼も超えることなくその日の学業は終了した。


生徒も、教師も、皆女である。支倉ーーー未来の男子生徒のため、真新しく作られたばかりの男子トイレの個室の中。支倉は下も下ろさずに蓋をされた便座の上に座り、胸焼けだか寒気だか、はたまた頭痛だか、とにかく気分の悪さに喘いでいた。


ーーー気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。


いとみに肩を叩かれた時は違和感はあれど気にする程ではなかったが、沙耶絵との何度もあった接触は心のそこから目の前にいる女に対しての不快感と殺意の衝動がこみ上げていた。片言の敬語になってまでその場をやり過ごしたが、ともかくはるか以外女に触れられた事実が自分の予想を凌駕する気分の悪さであった。


ーーーあの糞眼鏡。ねちっこく触りやがって。死ね。気持ち悪い。


はるかのあの柔らかくふわふわな、どこを触っても甘くとろけるような快楽を得られるあの感触が恋しい。

はるかに会いたい。泣きそう。

支倉は用も足さず、個室に暫く篭ったまま唸っていた。

トイレから出る。一応、手は洗って。


ーーー女怖い設定でいこう。


支倉は極力女子と触れ合うことのないよう、新たな要素を踏まえ明日へと備えた。


ーーー泣きたい。


聖フローラ学園は、全寮制であった。

これまた新設された男子寮で、備え付けられたベッドに飛び込みながら、うつ伏せで枕をぶん殴った。

神様は離れ離れといった。まさかプライベートまで制限されるなんて。


泣いた。


コンコン、


本当に泣き、少しほとぼりも冷めた頃。静かにしていなければ気づかないであろうほどの小さな、控えめなノックが支倉の耳に届いた。


「ーーーはい」


男子寮と言ってもトイレ程には急に用意できなかったらしい。恐らく支倉お試し期間なのだろう。来年度から入学希望の男子生徒の数を見越して作られるのかもしれない。支倉の個室は女子寮とまるまる隣り合わせだった。というかそのまま空いた離れの女子部屋を再利用されていた。どうりで微妙に女臭いと思った。消臭剤と換気は欠かせないと思った。


「失礼します。あの、ごはん、学食あるけど、どうする?」


ノックの主は声も小さかった。比較的耳のいい方だった支倉ではなかったら聞き逃すところだ。

これまた小さくドアを開けた隙間から見えたのはこれまたまたドアの陰に埋もれそうな地味な女子生徒であった。


「ああ、今日は持ち合わせているので、結構です」

「わかった。それじゃあ」


ぱたり。


女子生徒はすんなり引き下がると、静かにドアを閉め去って行った。

この学院の女子生徒だと思う。多分。それにしては、支倉を目にしても無反応な上、確認を終えたらすぐひっこんでしまった。


ーーーまあいいか。


別に全ての女を虜にしたいなど思うわけないし、はるかにだけ好かれていればそれで十分だ。むしろいとみや今の生徒のようにあっさりした対応の方が有り難い。このままあんな感じの女だけだったらすぐ一年も終わるだろう。


明日は学校は休みである。入学案内は一式渡されている。校則から校内構造のおおよそは頭に入っているので、先ほどの生徒がわざわざ声をかけてくる必要はないのだ。

本当は何も持ち合わせていなかった。しかし腹は空いていないので、支倉はその日は部屋に閉じ籠ったまま終えることとなる。


思うのは常に、彼女だ。


ーーーああ、はるか。会いたい。


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