プロローグ
男は犬を飼っていた。
名をはるか。春と夏の字を合わせはるかと読む。男の好きな季節であったからとか由来はまあ諸々割愛。ともかく犬を飼っていた。
男は早くに身内を亡くし孤独だった。
はるかは捨てられていた。はるかもまた孤独だった。親に産み捨てられたか、ペットとして飽きられたかは定かではない。幼いまま狭く汚い箱の中で、悲しそうにきゅうきゅう鳴いていたのを男は見つけた。男はその頃身内を亡くしたばかりだった。同じような境遇で通ずるものを感じたからかもしれない。迷いなく拾い帰った。ところが男が身を寄せる親類には事も投げにあしらわれた。親類といっても名前すら記憶にない、誰の嫁の弟の友人だかの、ともかく男の保護を名乗り上げた存在として男は認識していた。男は当時幼く、とにかく生きる上で誰でも良いので大人の手助けが必要だった。
男の身内はかなりの富豪といえた。生前から病気がちで、苦労せぬようと愛息子のために死後の遺産をそっくりそのまま男へ譲るよう手配していた。親類連中はそれを嗅ぎつけていた。おそらく都合のいいことを言って代わりに遺産を食いつぶす気でいるのだ。男は薄々それに気付いていた。かといってそれについて言及しようとは思わなかった。亡くした身内の喪失感が、生きた屍のように男を投げやりにさせていた。
そんな中はるかに出会った。自分のように信頼できる相手もおらず、たった一人で届かぬ悲しみの声を上げている。男は自分とはるかを重ねた故に放っておけなかったのだ。
親類連中は遺産名義人である男のような価値のある存在以外受け入れなかった。犬一匹ごときにやる手間も金もないのだと。親類連中はそんな内容をやんわりと、愛想笑いを浮かべながら男に言い含んだ。
ーーーそんな汚い犬、ばっちいよ
ーーー病気うつったらこまるだろう?保健所に引き取ってもらった方がいい
男はそんな奴らの言い分を突っぱねた。自分が世話をするからと頑なな男に、連中も渋々折れた。
腕の中で震える小さな命を守る。男は新たな生きる糧を手に入れたのだった。
それからの男は見違えるように積極的に動いた。犬を名付けることから始まり、自分の生活も構わずはるかに捧げる献身ぶりであった。きっかけだったのであろう。男ははるかにのめり込んでいった。
はるかはわからなかった。どうして自分はここにいるのか。お腹も空いて、寒くて、なんだかあちこち痛い。大きな壁の中からでられなくって、ひとりぼっちで寂しくて悲しくって、とにかくわんわん泣いていた。
そんな中暖かな手が差し伸べられた。少年は真っ直ぐこちらを見、優しくその胸に引き寄せた。
はるか、と少年は自分を呼ぶ。はるか、はるか。私の名前ははるか。
「はるか、おいで」
「キュア!」
少年は支倉初也という。なんだか怖い大きなものたちが時々初也くん、と呼ぶのを聞いて覚えた。
わたしははるか。このひとは、はつや。
男は心からはるかを愛で育てた。汚い箱の中で縮こまり、薄汚れ怪我をしていた身体を丁寧に清め、手厚い看護をした。調べて分かったが、はるかは血統種であった。グレートピレニーズ、またはピレニアンマウンテンドッグという種類だ。柔軟剤のコマーシャルで真っ白な洗濯物と一緒に映る大きな犬を想像していただければわかりやすいだろう。はるかはまだ生後間もないので、少年支倉の腕に収まる程小さい。甲斐甲斐しく世話を焼かれたはるかは、もとの美しい白い毛並みと鼻艶を取り戻し、毎日元気に遊び、よく食べよく寝た。勿論支倉と限りなく共に。
支倉は変わった。親類連中の良いように付き従った操り人形とは見る影もなかった。まず親類連中の遺産着服を取りやめさせた。子供ながら大人顔負けの頭脳と力を秘めていた支倉は、どんな手を使ったのやら、次の日には広い屋敷の主として君臨し、親類連中を屈服させ、というか追い出した。
屋敷は支倉の身内が生きていた頃からある生家だ。散歩も済ませられる程広い広い敷地。子供と一匹では余りある屋敷と庭であった。
支倉は人が何人も一生遊んで暮らせそうな遺産を駆使し、身の回りの世話を任せるハウスキーパーを雇った。主には広い敷地の管理であり、自分たちの生活には干渉させなかった。
はるかの世話をつきっきりでこなし、下働きを雇う支倉は学校など通うはずがなかった。元々英才教育として自宅学習で教養を蓄えていたので、小学生の黄色いお帽子などとは全く関わり合いがなかった。独学では些か心許ないだろうか。近々かつてお抱えであった教育係や世話役なども呼び戻そうか、と支倉は考えていた。
はるかははつやが大好きだった。いつもそばにいてくれ、優しく、美しい笑みを向けてくれる。美味しいご飯もくれ、目一杯遊びに付き合ってくれる。何より支倉といる時間そのものがしあわせであった。あたたかくって柔らかくって、なんだかポワポワして、もうとにかく毎日うれしくってたまらないのだ。
「…眠い、はるか?」
ボール遊びに明け暮れた昼下がり。支倉の太腿に身を凭れさせたはるかは、緩やかな日差しを浴びながらうとうとと微睡んでいた。一定のリズムで頭の上を和らげに前後する手の感触を心地よく思いながら、支倉に身を任せすうすうとお昼寝タイムに突入した。
気持ちよく眠りに浸りながら、はるかは少しだけ悲しく思っていた。
はるか、はるかと支倉は自分の名を呼んでくれる。自分もはつや、はつやと答える。しかし口から出るのはワンワン。キャンキャン。はつやのはの字も言葉に表せないのだ。
どうやら自分と支倉は違う生き物らしい。支倉は黒い毛をもち、毛のない部分の多くは布で隠れている。自分は全身真白い毛で包まれて、支倉のように器用にものを掴む手はないし、布もないからはだかんぼだ。
支倉は自分のことをすっかりわかっているようで、目が合っただけでも自分の望みを理解し、ごはんをくれたり遊んでくれたり、いっぱいいっぱい可愛がってくれる。はるかは支倉の言っている言葉がわかる。とっても大好きって言ってくれてるのがすごく伝わってくる。大好き。
はるかは悲しい。はるかも支倉のように言葉をもって支倉とお話ししたい。ワンキャンだけでは、どうやったって相手に全てを伝えることができないのだ。こんなにはつやがだいすきだと、とってもとってもだいすきっていうのを伝えたいのに。
はるかは人間になりたかった。人間になって、思い切りぎゅうてしたい。
ーーー良い子。かわいい。採用。
誰かの声が聞こえた。
すぴすぴ眠るはるかの寝顔を暫く、数時間ほどを全く飽きることなく微動だにせず眺め続けていた支倉は、日が傾きほんのり冷え込んできたのを肌で感じた。ひざ掛けでも用意して、はるかを包んで部屋へ入ろうと、一旦目当てのものを探しにはるかを一度ひと撫でしてからその場を離れた。
「ーーーはるか?」
ほんの数分足らず。
はるかはいなくなっていた。
ーーーだあれ?
ーーーわたしはねえ、神様だよ。
ーーーかみさま?
ーーーそうそう。はるかちゃんが良い子だから、ご褒美あげたくなってきちゃった。
ーーーごほうび?おやつ!?
ーーーんーん。かわいいけど違う。おやつよりもずーと良いこと。
ーーーいいこと。はつや!
ーーーそうそう、近いよ。はるかちゃん、人間になって、はつやくんとお話しできたらいいと思わない?
ーーーほんとう!?にんげんになれるの!?
ーーーなれるよ。今から変えてあげる。ほれさーん、にいい、いーち、っと。
「ーーーはわ!?」
はるかはぱちりと目を開けた。いつもより高い目線。自分の口から出た言葉。そう、言葉である。にんげんの。起き上がる。に手。紅葉みたいなぷにぷにのちいちゃな手がふたっつある。真白くない肌色のおててだ。
「はつや、」
口から出る、最愛のひとの名前。話せる。人間の言葉が話せるのだ。はるかは人間になったのだ。
「はつや!!」
はるかは支倉の元へ走った。
「はるか!?」
どこに行った。
支倉は全身冷や汗で真っ青になりながら消えた愛犬を血眼で探した。
ーーーくそ、ちょっと目を話した隙に。
ーーー誰か誘拐したのか。はるかかわいいから。
ーーーああ、はるかかわいい。
思考が脱線しながらも、はるかの居所を全力で駆け回りながら探した。こんな時に広すぎる我が家が恨めしかった。
ーーーはつやーーー
支倉の足がぴたりと止まった。自分の名を、誰か、声からして女の子が呼んでいる。人間の幼女の知り合いに心当たりなどない。だが、何故だか、この声が、どこかで聞いたことあるような気がして。
ーーーそう、今までお昼寝をしていた彼女に似たーーー
「はつやーーー!!」
どーん!とひと、ふたまわり小さな白い物体が支倉の腹の辺りに突進した。支倉は不意を突かれ仰向けに倒れこんだ。声の主は、彼女らしい。
「誰ーーー」
「はるかなの!」
「え?」
女の子の年の頃は支倉より幾分下だろうか。それよりも口調やいでだちがもっと幼いように思える。いでだちというか、女の子はすっぱだかであった。支倉の腹の上にのしかかる女の子は裸体を隠すことなく、支倉からはいろいろなところが丸見えであった。女の子の裸を見たのはこれが初めてであったが、そんなことよりも、この女の子ははるかという。はるかはまず、犬だ。この子は女の子で、しかもーーー
「かみさまがごほーびくれたの!はつやとおはなししてぎゅーてしたいってゆったらにんげんにしてくれたの!」
「は、」
支倉が口を開く前に女の子は望み通りぎゅー、と支倉に飛びつきうりうり頭を擦りつけた。
なぜどうしてさっぱりだ。
されるがまま口をぽかんと開けたままの支倉だったが、たっぷりした足まで届きそうな長い髪が顔にかかり、何となくどけようと手をやる。
「こ、の感触ーーー」
すう、とひと束の髪の毛を手から滑り落とした支倉は、驚愕に目を見開いた。この柔らかくてボリュームある馴染んだ感触。はるかの毛並みそのものであった。女の子は感極まった状態のまま未だうりうり身体を擦り付けている。ふわあと女の子から香りが漂う。これは、腹に顔を埋めたときみたいな匂いーーーはるかの………。
「ーーーはる、か」
「はつや!!」
ぱっと起き上がる支倉にのっかかったままの女の子。お互い向き合う形で、支倉に跨った女の子は支倉の呼びかけに名を呼び返してじいと支倉を見つめた。
女の子は真っ白だった。正確には、身体を覆い尽くさんばかりの長い長い髪の毛。嬉しそうに股上でぴょんぴょん跳ね、瞼の上程の前髪がふわんふわん浮かび上がる。そこにはまんまる麻呂眉と、下に位置するお目目を縁取る分厚い睫毛。これらも真っ白。ぱちぱち瞬きする瞳は黒曜石のように真っ黒で輝いている。透き通るような白い肌は血色良く、頬や手足がほんのり赤みを帯びていた。
声、感触、身体的特徴。
共通する箇所は探せば探すほど、次々と出てきた。そして心の奥底で、この女の子ははるかだ、という確信が支倉を支配していった。
「はるか、はるか!」
「はつやあ!!」
気づけば支倉は涙を流していた。
支倉自身も、この子犬がヒトだったら、もっと違っていただろうか、と秘めた願望を持ち合わせていた。あふれる涙。はるかもつられたようにポロポロ泣いた。お互いの名を呼び合い強く抱きしめる。
支倉は泣いた。はるかは小さな舌でぺろぺろと涙を舐めとった。
はるかも泣いた。支倉は指で優しく涙を拭ってやった。
涙はそれでも止まらなかった。
暫く二人で、なんだか訳も分からなくなってわんわん泣き明かしたのだった。
「ぷちゅん!」
はるかがくしゃみした。
そういえば、この子、裸だった。
支倉ははるかを抱きながら立ち上がると、速やかに室内へ連れ暖かな毛布でぐるぐる巻きにしたのだった。
それから犬はるか改め人はるかは、ますます支倉とべったりに時を過ごした。
支倉は幼児程度の理解力と言語がはるかにはあると数日過ごしてわかった。
ヒトとして苦労なく過ごせるよう、支倉ははるかを一から全てを教えていった。
ハウスキーパーも解雇した。
遺産の全ては、はるかのために。
というか自分以外にはるかの世話をさせる気はない、させたくない。はるかを見るのは、自分だけでいい。
はるかのために。
これが原動力なのか、火事場の馬鹿力というか。
とにかくはるかのために支倉は、屋敷の管理もはるかの世話も自身の成長も、何もかもを驚きの処理能力でそつなくこなしていった。
はるかにとっては支倉が全てだった。人となってからは、ごはんの食べ方からトイレの仕方まで何もかも教えてもらった。何でも知ってて、何でも出来る支倉はスーパーマンみたいだ、とお気に入りの番組の戦隊ヒーローに重ねながらはるかは思った。時とともに成長するはるかだったが、根幹は犬なのか、物事を多く学びこなしても、精神的には人間になったばかりの単純さ、幼さのままであった。
屋敷には、それからずうと支倉とはるかのふたりきりだった。
二人は、成長した。
支倉、15歳。
はるか、幾つかは不明。とりあえず同じ年ってことにする支倉だった。
ーーーすごいねえ。まるで現代のアダムとイヴだ。
声が響いた。誰だ。
支倉ははるかの髪をブラッシングしてやりながら、険しい顔をして周囲に意識を配った。
「かみさま!」
はるかは反対にぱあと顔を輝かせる。支倉以外の相手にこのような顔をするのは初めてだ。支倉は嫉妬も加わりより見えない相手を睨み上げた。
ーーーちょ、はつやくん顔怖い。大丈夫、大丈夫だから。とったりしないから。
見えない声は慌てたように取り繕った。姿はない。
「かみさまー!」
はるかは支倉の形相に気づかず嬉しそうに名を呼んだ。
「はるか、神様って」
成長期を迎えすっかり青年の装いになったばかり支倉。声変わりも済ませ、落ち着いた低音を装いながら神様とやらの警戒を続けた。
「かみさま!はるかをにんげんにしてくれたの!」
ーーーそうそう、僕です。神様です。
「ーーーはるかを」
ふ、と強張っていた身体を弛緩させ、支倉は姿を現さぬままの神様への警戒を解いた。
「そうなのか。はるかを。ありがとう」
ーーーやだ素直。照れちゃう。
ちょっと鬱陶しい口ぶりだったが、目を瞑ってやる。はるかの話が本当なら、こうして人としてのはるかがあるのも神のおかげだと言える。
「はるかもおれい!ありあとー!はつやといっぱいらぶらぶできるの!」
きゃあ!と歓声を上げるはるか。かわいい。神様と支倉は同時に心を緩ませた。
背後に立つ支倉に寄りかかりうきうき楽しそうなはるかもまた、順調に麗らかな少女へと成長を遂げていた。口を閉じ大人しくしている姿は美しく、神々しささえ感じる美少女だ。その実拙い口調と無邪気な笑顔が見た目をだいぶだいぶ幼い印象に受け止められる。手足も背丈とともにぐんと伸びた。立派な女性である。何よりも、成長したと明らかに分かる心臓の近くにある二つの丸み。大きい。とっても。そしてもっすごい柔らかそうである。きゃあきゃあはしゃぐはるかの動きに合わせ豊かな双丘はぽよぽよ揺れ動いた。その感触を知っているのは、楽しんでいるのは支倉のほかない。なにせロリ時代から手取り足取り、女の子としてのあれこれもしっかり教えてやっているのだ。支倉、すごく調べた頑張った。
はるかの可愛さに絆され思わず本題を忘れかけた神様。声は改めてこほんと咳払いし居直った。
ーーーあー、ヴン。ところでね、神様考えたんだ。君たちの絆を確かめるべくね、考えたんだよ。
「何だ。というか見えねえよ」
ーーーうーん、神ってばそう簡単に降臨できないの。声だけでそこはよろしく。それでさあ、試練を課そうと思うんですよ。
「ーーー試練?」
「しれん?」
ーーーそ。まあ、とりあえず君たちを離れ離れにしようかと思ってさ。
「死ね」
ーーーえええええ不敬罪!一介の人間が言っちゃダメよそれは!
「死ね。はるかと離れるだと?ふざけんな死ね」
「やーん!はつやといっしょじゃなくなっちゃうの!?」
ーーーごめんなさい睨まないで!神様ね、あんまりはるかちゃんが可愛かったもんだからついうっかり無条件ではるかちゃんを人間にしちゃったの!神の恩恵をえこひいきしちゃうのはあかん言われちゃったのお上から!
神様にも階級があるらしい。なるほど先から聞いてみればまるで出世しなさそうな頼りない印象を受ける。
「そっちの都合を押し付けんなよ。はるかがかわいいんだぞ?それだけで贔屓に値するだろうが」
ーーー言ってることかなりめちゃくちゃなんですがそれは………。ま、まあ神様怒られちゃいました!減俸です!ぐすん。それどころか降格しちゃいそうなの!助けて!
「知るか」
ーーーいやいやはつやくんも他人事じゃないのよ。神様が処分されちゃったらはるかちゃん恩恵も取り消し!犬に逆戻り!結構時間経ってるよね、ねえ。犬って寿命、短いよね?
「ーーーお前」
ーーー怖いよお。でもさ、そういうわけでやらないと君にも都合悪いよね。
「………何、すればいい」
ーーーわかってくれてよござんした。そう、君らの愛を確かめるんですよ。まず、そう。
ーーー学生生活を送ってもらいます。
「ーーーは?」
ーーー君たち二人ずうとここに篭ってチョメチョメしてたよね。まずこちらで用意するので、学校に通ってもらいます。
支倉ちはるかは神様の言う通り、年の頃では高校入学を果たす時期である。そんなものに微塵の価値を見出さなかった支倉は、はるかここで一生過ごそうと腹に決めていたのだ。
ーーーはつやくんは女子高。はるかちゃんは男子校に一年間通ってもらいます。
「は?」
ーーー厳密には共学が始まって以来の異性の生徒っていうことでね。それぞれハーレムコースへ突入してもらいます。
「どういうーーー」
ーーーたくさんの異性がいます。そうするとあれこれ誘惑がありますね。お互いの愛が確かならば、それらを跳ね除けて過ごせるはずです。
「俺はいい。はるかもか。こんなかわいい女の子がオスどもの巣に放られるのか!」
ーーー例外は認められません。とりあえず、一年はそうです。お互いそれぞれの場所で違う異性と懇ろになってしまえば、そこで終了。全て終わります。僕は左遷です。やめてね。
「ーーー。一年、は?」
ーーーお、察しましたね。高校生活は三年間です。一年ごとに、ある条件のもと過ごしてもらいます。三年間無事過ごせたら、終了。そしてご褒美!詳しくは僕の上司から!
「…………………」
ーーー無理だから!多分やだって言っても上司強制すると思うから!もう、あと数日くらいで始まるんじゃない?
「ーーーやる、しかないのか」
「はつや、お顔のまゆゆがしわわなの。どーしたの?」
支倉と神様の会話をじっと聞いていたはるかは、よくわからなくて、眉根にしわを寄せ厳しい表情をする支倉の服の裾をくいくい引きながら不安そうに見上げた。支倉は思い切りはるかを抱きしめた。支倉の腕の圧迫を受けもごもごいうはるかに、支倉は深刻な表情で伝えた。
「はるか。これから、頑張らないといけない」
「がんばる?」
「頑張らないと、はるか死んじゃうかもしれない」
「はわ!?やーん!はるかがんばる!死んじゃわない!」
ーーーそんなわけで、詳しいことは後で言うから。
それでは、第一の試練、始まりです。