雨の日と月曜日は
僕が彼の部屋を訪れたとき、彼はソファに寝転んでビールを飲んでいた。傍らの灰皿には何本かの吸殻があり、吸いかけも一本、置いてある。
「昼間からビールとタバコをやって寝転んでいるなんて良いご身分だな」
僕は椅子を引き寄せながら言った。コートを脱ぎ、駅前のコンビニで買ったタバコに火をつける。流れ出る二本の煙は天井近くで交わり、雲のようになってからどこかに消えていった。
しばらくの間、部屋にはビールを飲む音と、屋根に水のあたる音だけが響いていたが、突然彼がポツリとつぶやいた。
「今日は月曜日なんだ」
知ってる、と僕は答える。
「なのに大学に現れないから様子を見に来てやったんだ」
煙とともに吐き出す言葉は少し、刺々しい。別に彼に怒っているわけではなく、来る途中に傘を盗まれたせいだ。
「しかも雨が降っている」
それも知ってる、と答える。
「こんな天気なのに傘を持っていない間抜け野郎が僕の傘を持っていったせいで、雨だってことは充分身に染みてわかってる」
こうして言葉に出してみるとひどく不快な気分になり、ビールでこの気持ちを洗い流そう、と思った。僕はキッチンへ行き、冷蔵庫に入っているコロナを四本持って彼のもとへ戻る。ラベルの向きを揃えて縦列に並べ終わったと同時に、ソファの向こうから栓抜きが転がってきた。
「雨の日と月曜日は気が滅入るもんなんだ。知らないのか?」
彼は新しいタバコを手の中で弄びながら言った。僕は答えずにビールを一気に流し込み、あまりの冷たさに顔をしかめた。しかし、気分は少し晴れた気がする。
「どちらか一方でも気分が落ち込むのに、今日はそれがいっぺんにきた。そりゃあ大学に行く気も起きないさ。そうだろ?」
「僕はちゃんと行ったけどな。プリントが欲しいなら後で自分で写せ」
そう言う僕の右手は二本目のビールに伸び、左手はタバコのボックスをつかんでいた。
雨の日と月曜日は気が滅入る、と瓶の栓を抜きながら呟いてみる。確かに、ビールとタバコがなければやっていられない気分だった。
「どうだい、雨が止んだら駅前の店へ一杯やりに行こうじゃないか」
じっくりとタバコに火を付けながら彼は言う。僕もタバコに火をつけ、
「雨は明日まで降るって言ってたぜ」
と返す。
「じゃあ雨が降っていてもわからないくらい酔ってから行けばいい。今酔うか、後で酔うかだ」
そう言って彼は煙を吐き出す。僕も煙を吐きながら、相変わらず無茶苦茶なことを言うやつだ、と思った。しかし、今日は不思議とその無茶に付き合ってやる気になっていた。 おそらく、雨と月曜日のせいだろう。
そういうことにしておこう。