入隊日
暑い。
とにかく暑い。
イージスゼロの入隊式を迎えていた雅は色気のない黒シャツの首元を伸ばしひたすらに考える。
暑い。熱い。
遥前方ではガタイの良い岩のような男がひたすらの辻舌鋒。岩男、賢清は新人に喝を入れたいのか性格なのか声を荒らげている。
四月の半ば。気温でいえばまだまだ寒さ漂うが、1000人近い新人をすし詰めにした館内は熱気と湿気で蒸し返す。
外でやればいいのに、
現在ここは母艦イージス。
総収容人数5000人。
全方位砲撃完備。
潜水可能。
アコウスキー領の反映に大きく貢献したこの船は今ではガラクタ同然。このように新人教育の場として有効利用さらている。
「これで俺の話は最後だ!」
やっと終わる。話自体は10分もないしょうもない叱咤だったがなにぶん熱い。軍が気を利かせたストーブが私から離れた場所にあり本当にありがた迷惑だ。近くの人は化粧もドロドロだろう。
「ではここで総括の話を聞く。」
そう言うと賢清は私からみて左の出入り口に目をやった。
統括。
つまりイージスゼロにおいての最高権力者だ。彼を筆頭に軍が動き彼の指示で兵士は戦う。ほのかにざわつく室内に、例年のことなのだろうか?賢清はこわばった顔つきで壇上を降り統括と呼ばれた男にマイクを渡す。
「あ、あーブツッ」
いきなりのマイクテストにさらにざわつく館内。
「えー、聞こえまる?後ろの方の人さ。」
見た目はまだ若く25程にみえる。背丈も平均的な高校生程度だがなにぶん気だるそうな声。それに猫背と汚ない身なりがあいまって第一印象はあまりよろしくなかった。
「このあと賢清から指導がある。その中で全て語られるだろうから俺から言うことは、まーない。けどひとつだけ。これだけは毎年言うが、」
賢清の話は全く耳に入らなかったがこの人の話には聞き入っていた。
「努力は報われない。以上」
さらにざわつく館内でわたしはなんか、笑っちゃいました。