9話
あの後。私は何度も怖い夢を見た。ゆゆと一緒だったからそれはすぐに終わったけど。苦しそうにしてたって言ってた。男の人ってやっぱり怖い。泣きそうになったけど、その度にゆゆはギューッと抱きしめてくれてすごく安心した。
月曜日。やっと落ち着いた、って感じ。それはいいんだけど……。
ダメだな、私。ゆゆがいないと何でも怖くて、動けなくなっちゃう。
ちょっとだけ暗い気持ちでゆゆと合流した。
「おはよう、ゆゆ」
「おはよう。大丈夫?」
「うん」
「嘘」
一瞬で見抜かれちゃった。私ってそんなに顔に出ちゃうタイプなのかな?
頭を撫でられて、またギューされた。
「あたしには分かる。まだ怖いの?」
「ううん。そうじゃなくてね……私、ゆゆがいないと何も出来ないなーって」
「嬉しいわね。いいのよ? いくらでも頼って」
それで、いいのかな?
何だか不安だよ。それで正しいのかな。
「……んっ」
ほえ?!! ゆゆ?
「はぅ! 見られたらどうするの!」
家の前。こんなとこでキスなんてしてたら、お掃除とかお散歩とかしてる人に見られちゃったりとか……!
「いいじゃない。別に。どうせ見られてないんだから。……そんなことで悩まないでいいの。今は深く考えないで。頼って」
そんなこと、なの…?
「……うん。分かった」
あんまり腑に落ちないけど。
手を握られて、やっと私たちは学校に向かって歩き出した。
「そうだ、雪乃。今日のお昼休みに生徒会室について来てくれない?」
「え、うん。いいよ?」
「ありがとう。生徒会役員にね、スカウトされたのよ。この間行麻先生に言われて断ったのに。生徒会長さんに呼び出されちゃったの」
行麻先生っていうのは担任の先生です。
「入るの?」
「そんなわけないじゃない」
即答だね。でも、生徒会って進路で有利になるし、やって損はないんじゃないかな?
「雪乃といる時間が減るもの。嫌よ」
「確かにそうなったら寂しいな…」
クラスの人、まだほとんどの人話したこと無いし…兎崎さん……には、多分嫌われちゃってるもんね。何か怒ってたし。他には用がある時に少しだけ話した人が何人かいるくらいだし。やっぱりゆゆと一緒にいるのが1番落ち着くのかも。
「だから。入るなんて絶対にしないわ」
そっか。
何か、嬉しいな♪
コン、コン
「うぅ……」
生徒会室って、緊張しちゃいます。
ゆゆの背中にひっついてるのです。ゆゆは背が高いから、私なんてすっぽり隠れちゃいます。「そんなことしなくても…」って笑われたけどきにしません。
「あら。ええっと、貴方が小野町柚結里さん?」
「はい」
「会長さん、まだ来てないのよ。中で少し待っててね」
ちょこっとだけ顔を出して見ると、ハーフさんみたいで綺麗な金髪の女の人が見えた。目が合うとにこっと微笑まれました。優しそうです。
「あっ。桜咲雪乃……です」
「私は2年の鷹音リオン。副会長をしてるの。よろしくね」
「はい」
「よ、よろしくお願いします…」
うぅ。優しそうな人だけど、先輩だからやっぱり緊張するのです。ゆゆはいつも通り。すごいなぁ。
「飲み物を用意するわね。そこに座ってゆっくりしてて」
高そうなソファー……。お部屋も大きいです。会議に使うのかな。広いお部屋の端から端まである机。あそこに飾ってある時計もキラキラで……。う。あんまりキョロキョロしたらダメだよね。すごく落ち着かない。
「うーんと…。コーヒーと、ホットミルクでいいかしら?」
「「はい」」
子供扱いされた感じがしますがホットミルクは大好きだし、断るのも申し訳ないのです。
少しして先輩が3人分のカップを運んできました。中からは湯気が。飲み方、お上品だな〜。やっぱりお嬢様だもんね。ゆゆもそこは同じ。私だけ場違いな気がしちゃうな。
「2人とも、朝は大変じゃなかった? すごい騒ぎだったわよね」
「?」
「そうですね。すごく鬱陶しかったです」
「???」
なんのことかな?
それにしても、すんごく美味しいのです……お昼ご飯の後だし、ポカポカして眠くなっちゃいます……。
「ふわぁ…………」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ふふっ。でも貴方なら、彼女が気付かないように払うことが出来るでしょう?」
「まあ……近付かせなくは無いからそうするしかないし。そういえば、会長さんはどうしてあたしを役員に?」
雪乃は鈍いから、ああいう時には助かる。先輩が話してるのは一昨日の遊園地のこと。バッチリ写真付きで、今朝新聞が貼ってあった。
で、理由はどうなのかしら。
「ああ。それは、貴方が学年トップの成績だからよ……あらあら。寝ちゃったみたいね」
先輩の言葉で、隣で眠ってる雪乃に気付いた。
「それだけで? 担任の先生に言われた時にちゃんと断ったはずなのですがこういうことになったので、ちゃんと理由があるのかと」
2人きりの時間を邪魔されたんだもの。
「はい、毛布よ。使ってね。……そうね。会長さんは気まぐれなところがあるから。どこか気に入られたんじゃない?」
どこからか持ってきたらしい毛布を雪乃にかけてあげる。
「ありがとうございます。……そうですか」
「お、来てたか」
やっと登場ね。会長さん。
「まあ、内容は分かってるだろう。あ、俺は月野恵ららだ。よろしく。で、役員になれ」
自己紹介はついでみたいな言い方ね。単刀直入に言い過ぎよ。そんな風に言われたって、答えは決まってるわ。
「嫌です」
「何故?」
「この子を一緒の時間が減ります」
「じゃあ2人で入ればいい。こいつも友人と入ったからな」
それでいいの? あたしを入れたがる理由も分からないし。
「俺が会長、こいつともう1人が副会長。お前らで会計と書記をすればいい。仕事はさほど無いし、役職なんて名前だけだからな。そう難しいことはない」
一緒に入ることが出来て仕事が難しくないなら、断る理由は特に無いわね。ここにいたって、あたしは人の目は気にならないから何だって出来る。むしろ、ここの方が雪乃も気にしないで済むのかも。あたしは、雪乃といられる時間が減らないのならそれでいい。だから……そうね。
「分かりました」
「おう! じゃあ、早速放課後ここに集まってくれ」
何をするのかしら。早めに終わって欲しいもだわ。