8話
「うっぷ……」
あー楽しかった〜!!
「ゆ、雪乃? ちょっとお手洗いに行ってくるわね……」
「え? うん。じゃああそこでジュース買って飲んでるー」
「はい、お金」
「ジュースくらいいいのに」
「ダメ」
カバンから取り出したお財布からお金を渡される。ゆゆはあんなこと言ったけど、ちゃんとお財布持ってきたんだもん。
ゆゆを見送ってから自販機に向かう。園内だとやっぱり外のよりも高いし、種類も少ないみたい。
「どれにしようかな……」
コーヒーも紅茶も飲めないし、炭酸も苦手だし。
「ねえ、君」
お茶かな? うーん。でも、お家に帰ったら常備してあるのにこんなとこで買うのはもったいないと思っちゃうんだよね。りんごジュースでいいや。ペットボトルだったらゆっくり飲めるし。
「ねえ、一緒に遊ぼうよ」
「きゃ!!」
突然肩に誰かが手を置き、びっくりして声が出る。振り返ると知らない男の人が3人そこに立っていた。
だ、誰……?
「あ、もしかして藍園学園の雪乃ちゃんじゃない?」
どうして知ってるの? 私この人たち知らない……。ゆゆ、戻ってきて……!! 怖いよ、この人たち誰?!
「やっぱりそうだよね? 俺、藍園学園のすぐ近くの男子校の生徒だよ。入野樹良。よろしくね」
来ないで! やだ……やっぱり知らない人だし……何で声なんてかけるの?
逃げたかったけど、すっかり足はすくんで動かなくなってた。歩いてくるその人に腕を掴まれる。
「ひぅ!」
「怖がらなくていいよ。ほら、一緒に行こう」
「ゆゆ!!」
「雪乃?」
はぅ! ゆゆ、遅すぎだよぉ!!
「あ、雪乃ちゃんの友達? 君も俺たちと遊ぼう」
「はあ?」
ゆゆ、怒ってる。明らかにいつもより声が低い。
「雪乃を放しなさい」
「別に喧嘩したいわけじゃないんだけど……」
困ったように笑うその人だったけどゆゆの目は本気。それを見てどう思ったのかは知らないけど、私を放してくれた。同時に自由なった足でゆゆのところへ走ってその背中に隠れる。
「ちょっと後ろ向いてて。目を瞑って耳を塞いでて? あたしがいいって言うまで」
こういう時ゆゆのお話聞かないと後が怖いことをもちろん知ってる私は言われた通りにしました。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
こいつら。よくも雪乃を泣かせたわね。あたしがちょっと目を離しただけでこうなっちゃうわけ。しかも誰よ。彼女に触れるなんて許さない。何なの。そのへらへらした顔。我慢しなくていいわよね。雪乃にここまでしたんだから。
拳を作って構えた瞬間に、向こうもやる気になったらしく真顔を作った。
あたしがどれだけ武術を鍛錬したか、あんたたちは知らないものね。暴れるのは簡単よ。
「ゔっ!」
弱い。これで立ち向かって来ようとしたわけ? 女だからって舐めすぎよ。ふざけてる。力づくで満足いくまで、としたいところだけど、問題になるのも面倒ね。傷を作らずに。痛みで悶絶すればいいわ。
時間はかからなかった。後ろの2人はビビって大人しくやられてくれたことだし。
「……いいわよ」
「何したの?」
「ちょっと懲らしめただけ」
こくっと首を傾げるその頬には、まだ涙が流れていた。その場を離れて外側から見えない木の陰で、雪乃をギュッと抱きしめる。
「ごめんね」
「……ううん。ありがとう」
ふわりといつもの笑顔を見せた雪乃だけど、あたしの服を掴んだ手と、足も小刻みにまだ震えてる。
「もう大丈夫だから」
「……うん…、ねぇ。どうして、あの人たち私の名前知ってたの? 近くの男子校の生徒だとか」
「言ってるでしょ? あなたはモテるのよ。校外でも有名になるくらい。ちょうど雪乃の家の前の道が通学路になってるっていうのもあるし」
学校へは朝のHRが始まる1時間ほど前に着くように登校してる。人が混むのを避けるため。本人は全く気付いてないけれど、目立っちゃうから。早く行って、勉強や雑談で時間を潰す。
「なんかやだな……さっきも、怖かった」
そうかもしれない。知らない人なのに、自分の名前は知られてるんだもの。しょうがないわ。でも、大丈夫よ。
「あたしがいるから。大丈夫」
潤んだ目で見られる。雪乃、分かってるのかしら。上目遣いはあたし以外に使ってはダメよ。こんな可愛い顔、他の誰にも見せたくない。独占したい。
「雪乃…………」
どうして目を閉じるの? 無防備にしないで。拒んでくれた方が止められたのに……。
しばらくあたしたちがそこを離れることは無かった。雪乃は拒まなかった。以前のように途中肩を叩いたり、「やめて」って抵抗もせず。ただ、あたしのキスを受け止めた。
……分からない。
どんどん、雪乃のことが分からなくなってく。ねえ、何を考えているの? あたしのこと、どう思ってるの? お姉ちゃんみたいな人じゃ、なかったの?
雪乃……!!