5話
このお家では、お風呂は全部メイドさんにお任せです。体も頭も洗ってくれるってこと。これはもう慣れたかな。落ち着かないけど、だんだん眠くなっちゃう。
丁寧に洗われて、やっとお風呂に。
「あ〜…」
気持ち良い〜。
お湯に浸からないようにまとめ上げた髪がちょっとだけ重たいのです。
程なくしてゆゆが隣に並ぶ。
「雪乃、明日は遊園地に行きましょ? 近くに出来たけど、まだ行ってなかったし…」
「遊園地!!」
行きたい!
そうだね。電車で2駅くらいだし、近いのに行ったことなかった! お小遣いもずっと使ってないし貯まってるから余裕もあるし。うん、行ける!!
「ただし、全部あたしの奢りで」
どうして? 流石にそれは悪いよ。高いだろうし。
「お小遣い、ちゃんとあるから大丈夫だよ?」
「違うの。……初デート、だから」
!? もうっ! 耳はダメだって言ったのに! 囁くのもアウトだよ!
しかも、は、初デートって……。2人で遊びに行ったことはいっぱいあるのに、何か緊張しちゃうよ。
「意識はしてくれてるのね」
そりゃあ! だって、キスとか、しちゃったし……。しないわけ、ないじゃん。
「でも、奢ってもらうって」
いいのかな。
「いいの。遠慮しないで、欲しい物があったら何でも言って」
遠慮するって。いくら何でも。
「あたしがデートしたいから誘ってるんだし」
ちょっ!? 言葉がストレート過ぎです!
甘えてもいいのかな。
「だから、ね?」
「……うん」
あまり納得いかないけど……。
「じゃあ、そろそろ上がる?」
「うん。そうだね〜」
すごく気持ち良かったです。さすがゆゆのお家のお風呂です! 広ーいお風呂に2人で入るって、何か贅沢だし。
お腹も空いてきたな。ご飯も楽しみです!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
食事を終えた後は少し雑談をしながらティータイム。と、言っても雪乃は紅茶が飲めないからホットミルクなんだけど。パンフレットを眺めて楽しそうに目を輝かせてた雪乃は可愛く欠伸を洩らしてウトウトしている。明日の話、まだ途中だったけど仕方ないわね。もう9時だし。
「雪乃。ここで寝たら風邪引いちゃうわ」
「でも…まだ……」
「明日でもいいから」
「寝るぅ……」
抱き上げて部屋に向かう。着いた頃には頭をあたしに預けて、寝息を立てて気持ち良さそうに眠っていた。ベッドに寝かせて、一緒に入った。彼女の手はあたしのパジャマの袖をキュッと握っていた。可愛すぎる。無防備だし。抱きしめると天使のような笑顔を浮かべた。
雪乃が、こんなだから……。
今日だけで、いろんなことしたり、言ったりしたけど。冬華ちゃんにも自信があるなんて言ったけど。もちろん不安が無いわけじゃない。
だってきっと、いや、間違いなく。雪乃はあたしのこと、恋愛対象だなんて思ってない。今も。前にお姉ちゃんみたいだって本人に言われちゃったし。意識してくれてるみたいだけど、今は混乱してるだけ。そこから、恋人として見てくれるだなんて思えない。
幼馴染でいられるだけで、あたしは幸運だと思う。変な虫がくっつかないようにって、他の奴になんて絶対に渡したくないからって。力で、周りを押さえつけてた。でも、あたしがそんなことしなくたって、雪乃はどこにも行ったりしない。何故だか男は苦手にしてるらしくて、あたしがいない時に話しかけられてた時は、怖かったって泣きつかれたし。人見知りだから元々あまりたくさんの人と話すタイプじゃない。ずっと、あたしの後ろに隠れてた。
ひたすら不安だった。気持ちを伝えてスッキリしたけど。それまでと変わらない雪乃の態度にはホッとした。
でも。だけど。
欲しい。雪乃の全てが。
幼馴染なんかじゃ、足りない。
不安だらけなまま。
満足、出来ない。