3話 小夜音編(1)
「……はぁ〜…」
花恋と別れてどれくらい経ったっけ……。元気かなぁ。あの子の小説も読まなくなったし、連絡はもちろんとってなくて、電話番号もメアドも知らない。もう知る術もない。
最近は鈴鹿ちゃんがいっぱい愛してくれるから学校でもだいぶん明るくなって、甘えれるようになったと自分では思ってる。
でもやっぱり思い出しちゃうんだよね。会いたかったな。一回でいいから。でも私には鈴鹿ちゃんがいるし。それに、花恋のことは純粋に好きだったけど、鈴鹿ちゃんとは、その……体の関係もできちゃったわけで。こう言っちゃなんだけど、花恋とのあの恋は純粋なままにしておきたいというか。まあきっとあのまま続いてたって、あのことは純粋な恋人関係が崩れるようなことはなかったと思う。そういう想像が出来ないし。
「はぁ……」
「さやちゃん!」
「ふえ!? 鈴鹿ちゃん! どうかした?」
いつの間に戻ってきてたんだろう。全然気づかなかった。
「今度さ、生徒会主催で肝試しがあるんだって。行かない?」
肝試し。しかも、
「生徒会主催、なんだ」
そういえば私、まだるるたちに鈴鹿ちゃんとのこと話してないんだよね。なんか恥ずかしくて。一緒に行くと必然的に話さなきゃいけないわけで。でも、そのタイミングは今じゃない! 私は首を横に振った。
「やめとく。それより今日、近くで夏祭りがあったよね。そっちのがいいかも」
「いいね! 花火も見れるんだよね。ちょっと待っててね! お母様から浴衣借りてくる! ついでに着付けもしてもらおう!」
言い終わらないうちに鈴鹿ちゃんは部屋を飛び出してしまった。
「夏祭りに花火、か」
あの子と付き合ってた頃より、本当に恋人っぽいことしてるな。考えたら会ったこともないんだよ。もちろんデートだってしてない。数えるほど電話したのと、あの遊園地に一緒に行けたら楽しいだろうなって想像するだけで。でもそれもすっごく楽しかったな。夏の楽しみなんてお話しする前に終わっちゃったし。どちらにせよ学生の自分たちが会ってできることなんてたかが知れてるよね。私は鈴鹿ちゃんみたいにお金持ちじゃないもの。
「花恋……」
乱暴にドアが開けられ、鈴鹿ちゃんが戻って来た。
「さやちゃん! 早速着替えるから来て!」
「うん。ねえ、鈴鹿ちゃん」
「何?」
「私たちって、将来それぞれ結婚したりするのかな」
男女の交際の場合は結婚して子どもを産んで家庭を持つ。でも私たちは女同士である以上それは不可能で。やっぱりこの関係は限りあるもの?
「それぞれ?」
「うん……自分の子供って、やっぱり可愛いのかな」
わわっ、何言ってるんだろ!
「そりゃあそうでしょ! なに、もしかして男がいいの? それともれいとの子ども欲しい?」
「ち、ちがっ、そういうわけ、じゃないけど……鈴鹿ちゃんとの子どもかぁ。それはちょっと楽しそうかも」
結婚ならともかく、それは更に夢のまた夢。
「ねー! 産むのはやっぱさやちゃんかな?」
「そうなの?」
「れいはこう見えて力あるよ! だからさやちゃんを支えられるもん」
私に鈴鹿ちゃんを支えるのは確かに難しいかも。今だってやっとここまで、って感じなのに。
「そうだね。高校卒業した後のこと、そろそろ考えを固めないと」
前を、向いて。
小夜音ちゃんが出てくるタイミングって作者が初恋を思い出して憂鬱になってる時なんだよねぇ(← どうでもいい




