3話
「いだだだだだ……」
思わず年寄りくさい声を上げてしまうほど、腰が悲鳴をあげて仕方なかった。昨日は鈴鹿ちゃんのお家に来たばかりで緊張してて寝れなかった……っていうのと、彼女が寝かせてくれなかったのとでやっと4時頃に眠りについた。腰が痛いのは初めてだったから。
ろくに彼女がいた事なんてなかった私は、もちろん経験も無く……。うー。
とりあえず体を起こすだけだけど、それでも下腹部がジンジンして……。
鈴鹿ちゃんは隣でまだ寝てるけど、時計を見るともう11時。せっかくの休日なのになんともったいない。寝て過ごしてしまうなんて。
「あ"ー」
「さやちゃん?」
「ご、ごめん起こしちゃって、こ、腰……」
こんなにダメージをくらうイベントだったのか……。
「いいんだよどうせ今日はお休みだから……はい、ゴローン……」
お腹をちょんと押され、そのままベッドに逆戻り。
抱き寄せられて、背中をポンポンと優しく叩かれる。
「……にゃんにゃん~にゃんにゃんーにゃ〜」
子守唄? よく分かんないけど可愛い。
おでこにキスすると、唄(?)が止まった。
「鈴鹿ちゃん?」
心配になって声をかけると、ニコッと笑顔を浮かべる。怖い。何か変なスイッチ押しちゃった……?
「初めてさやちゃんからしてくれたね」
「そ、そうだっけ?」
勢いというか、流れでしちゃったけど、そういえばそうだったかも……。
うわああああ恥ずかしい……!!
「やめてもう忘れて恥ずかしくなってきちゃったっ」
手で顔を覆って背を向けると、後ろからギュッと抱きしめられる。
「忘れるわけないよ。だって嬉しいもん」
ふわぁ! ダメだよ耳元でそんなこと言われたら……。
「さやちゃん? ねえ、こっち向いて」
うー。
「……」
「んもうさやちゃん可愛いっ! うりうりうり〜」
両手で顔を挟まれる。何か小動物の扱い?
「犬とか猫じゃないんだから……」
鈴鹿ちゃんすっかり目を覚ましたみたい。
「だって可愛いんだもん。朝ごはん、何か作ってもらおっか。下に行こ?」
「うん、お腹空いた〜。もうお昼ご飯になっちゃうけど」
顔を挟まれたまま、チュッとキスされる。
「これからは毎日おはようのチューができるね♪ さ、行こっ」
嬉しそうだな〜。そこまで喜んでくれるなら、私いっぱい鈴鹿ちゃんに甘えてもいいのかな。
そんなことを考えつつ立ち上がるも、体がふらついてペタンと床についてしまう。
ていうか裸のままだけど、このまま行こうとしてるわけじゃないよね?
「鈴鹿ちゃん、服……」
「あー忘れてた」
「忘れないで!」
危ない危ない。鈴鹿ちゃん相手でも恥ずかしいのに。
「さ、洋服持ってくるからベッドに戻ってね〜」
ペタンとしたままの私の元に駆け寄ってきて、お姫様抱っこされてまたベッドへ戻る。
「鈴鹿ちゃん元気だね。慣れてるの?」
「うん。妹がいるからね」
「そっか妹さん……え、」
「多分今日は家にいると思うよ。後で紹介するね」
仲がいいんだろうな。いっぱい遊ぶから、その分体力がつく、ってこと?
◇
「……で、なんでこんなことに?」
「可愛いでしょ?」
私が今着ているのは絵本で見たことがある不思議の国のアリスを思い起こさせる水色と白のワンピース。
「それあげる。お母様が作ったんだけど、あたしも妹もそういうの着ないし」
「私だって着ないしっ似合わないし!」
「可愛いよ! 本当は誰にも見せたくないんだけどね。はい、チーズ」
パシャッ
「ちょっ、ちょ、」
「送信完了、と。さ、今度こそご飯食べに行こうね。お腹空いたでしょ」
「なっ、この、格好で?」
「当たり前でしょ。何の為に着替えたの?」
そして私が文句を言う前に、また軽々と私をお姫様抱っこ。
「あぅ〜」
恥ずかしいけど、腰が痛くてなるべく動きたくないのが事実。連れてってくれるなら、甘えます。
って! スルーしちゃったけど写真誰に送ったの??
「鈴鹿ちゃん写真誰に?」
「お母様よ。安心して。これを見たら更にさやちゃんのこと気に入ってくれるよ。服も、あたしたちじゃ似合わなくて、身近に理想のモデルがいないからって嘆いてたから。さやちゃんすごく似合ってるから」
うーん、じゃあ、いいのかな?
「取られないように気をつけなきゃね」
「……」
何でそんなこと心配するの、って、もう考えるの止めよう。うん。




