2話
「うにゅ……」
あれ? 寝てた?
手足が自由になっている。毛布がかかっているのに気付いて、慌てて体を起こした。
「鈴鹿ちゃん? なんで? 1人にしないで……!」
部室には私1人だった。鈴鹿ちゃんがいない。
寂しさがこみ上げ涙が出てくる。何だか寒いような感じがして、自分の腕で少しでも暖まるように体を抱きしめる。外は大荒れ。暗雲が立ち込め、1人ぼっちの部室に激しく降る雨の音だけが響く。遠くでは雷の音も聞こえる。それが余計に孤独感を煽った。
「鈴鹿ちゃん、鈴鹿ちゃん……どこ? どこに行っちゃったの?」
静寂。答えは返ってこない。どうして?
「嫌だ……寂しいよ。鈴鹿ちゃん……」
「さやちゃんっ!」
息を切らした鈴鹿ちゃんが、やっと姿を見せた。駆け寄って抱きしめてくれる。
「ごめんね? 寂しかったね。れい、ちゃんといるからね。呼び出されちゃって、少しの間離れちゃったの。急いで戻ってきたけど……」
申し訳なさそうに言いながら、頭を撫でてくれた。
「いいの。急いで来てくれて嬉しい」
少し汗かいてるみたい。ふふっ。そんなに急いで来てくれたなら怒れないよ。嬉しいもん。
「ねえ、これからうちに住もう」
「え?」
あまりに唐突な発言だったので、ただポカンと鈴鹿ちゃんの顔を見上げるしかない。
「れいはやっぱりさやちゃんを愛してる。できる限り一緒にいたいし、これからも離したくない」
私は校内にある寮で暮らしている。両親は仕事が忙しく国内海外問わずあちこちを飛び回っている為、こちらでの状況を伝える機会は少ないし訪ねてくることも年に数回程度。つまり、私の方は全く問題ないのだけど……。
「でも迷惑じゃ…」
「れいが一緒に居たいって言ってるんだよ。両親も恋人ならって許してくれる。」
正直私には嬉しすぎる提案。でもやっぱり申し訳ない気持ちが勝った。それに私たちはまだ付き合い始めて日が浅い。なのにそんな近すぎる距離なんて。
「れいがそうしたいから決まり。さ、お家に帰ろっ」
「あっ、え、でも、寮が……荷物も」
「寮の手続きはお家の人に任せるから。荷物も明日か明後日に届けさせる。それくらいなら服もどうにかなるから心配しないで」
それでも言い淀んでいると、少しイラッとしたようにまた鈴鹿ちゃんに顎を持ち上げられ、彼女と視線がぶつかる。
「さやちゃんは何も心配しなくていいの! れいのわがままでさやちゃんはうちに来るの! 遠慮しちゃダメ。恋人なんだから。ね?」
「うん……」
これには頷くしかない。ギュッと抱きしめてくれるその腕に甘えるように、頭を預ける。そうしているうちに、喜びの気持ちがじわじわと胸に広がってきた。
「鈴鹿ちゃんとずっと一緒……ふふ、嬉しい」
「れいも、嬉しいよ。ずーっと、一緒だね」
鈴鹿ちゃんが、ずっと一緒にいて私を愛してくれる……寂しくない。もう忘れられる。それに、幸せになれる。
「さやちゃん、もう眠くない?」
「うん。眠くないけどね、鈴鹿ちゃんとこうしてると、安心するからウトウトしちゃうの」
「そっか。今から迎えを呼ぶから、もう少しこうしてよっか」
「うん!」
また寝ちゃうかも……でも起きたら、今度は絶対鈴鹿ちゃんがいるし、これからもずっとそうなんだ。なんて幸せなんだろう……。
「鈴鹿ちゃん」
「ん?」
見上げると鈴鹿ちゃんが優しい顔をして私を見てくれる。
「ちゅーしたい」
「うん。もちろん」
優しく、啄むように。ずっとこうして幸せでいたい。わがままかな。でも、彼女なら叶えてくれる気がして。つい、甘えてしまうーー。




