3話
「雪乃」
「ふにゃ……?」
んー………。
ねむいのー…。
いろいろ考えてるうちに、寝ちゃった、のかな…?
「帰るわよ?」
「へ? ……HRは?」
「とっくに終わった」
「そーなの……?」
帰る気まんまんのようです。
うー…ねーむーいー。
「ほら」
手を繋いで、帰るです。
「一旦家に戻るでしょ?」
「うん……」
欠伸が止まりませんー
「お待ちになって!」
?
後ろに2人の女の子を連れた人が話しかけてきました。
「なにかしら?」
「貴方! 前からずっと言いたかったのですけど、雪乃さんを一人占めにし過ぎではなくって?」
「幼馴染と一緒にいて、何がいけないのかしら。それに……あなた誰?」
「クラスメイトの名前も覚えていらっしゃらないなんて!」
「雪乃、知ってる?」
「………ごめんなさい」
人の名前を覚えるのは苦手なのです。話したことがあまりない人も多いし…
真っ赤にした顔が、私の言葉で真っ青に変わる。ごめんなさい!
怒っちゃったかな。
「い、いいのですよ? お話ししたことありませんでしたし、仕方ありませんわ…」
申し訳ないのです…。
「兎咲英梨、ですわ」
兎咲さん……よし、覚えた、はず。
「さ、さようなら……」
あれ? 用があったんじゃなかったのかな? フラフラだよ? 大丈夫なの??
「雪乃!!」
ほえ?
ど、どうしたの? いきなり大きな声出して…?
「だめ」
? 怖いよ、ゆゆ??
いつもより低い声をして、言いました。私、何かしたのかな。2人とも変だよ。
突然腕を掴まれて、…また、キ、ス……?
「あたしだけ、見ていればいい」
「きゃー!! 小野町さん、雪乃さんに何をしていらっしゃいますの!」
まだ教室を出ていなかったらしい兎咲さんたちが悲鳴をあげて、私ははっと我に返る。
「ゆゆ、どうしたの?」
「……いえ。ただ。雪乃は、あたしだけ、見ていればいいの。他の人の心配なんて、しないで」
「うん……?」
よくわかんないけど、気をつけます。
「ただいまー」
「おかえり雪ちゃん!!」
ドアを開けた途端、いつものように自室から出てきたお姉ちゃんの強烈なハグが待って…と、思ったらゆゆにぐっと引き寄せられてお姉ちゃんドアに激突! 今日のゆゆは変だな。いつもはしばらくして離しにかかるのに。
「いつもこうしていれば良かったわ」
鼻を押さえながらゆっくり振り返ったお姉ちゃん、いつものニコニコ顏です。
「あら〜。久しぶりね、柚結里ちゃん」
「久しぶり、冬華ちゃん」
桜咲冬華というのがお姉ちゃんの名前です。 忙しそうにしてばっかりだったけど、今日はやっと仕事のお休みもらえたのかな?
「ママ、帰って来てる?」
「ううん。まだよ。……ちょうどいいわ。クッキーを焼いてみたのよ。二人とも、食べない?」
お姉ちゃんのクッキー! お姉ちゃんはお菓子作りが上手で、小さい頃から美味しい物いっぱい作ってくれるの! ゆゆも時々持って遊びに来てくれるから、お菓子パーティーもよくやったんだよ。今日は久しぶりなことばっかりだね。
「じゃあ私準備してくるね! お姉ちゃんたち、私の分もちゃんと残しておいてよ!」
今すぐにでも食べたいところだけど、何もしないで待たせるわけにはいかないもんね。二人が食べてるうちに準備終わらせないと。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「……準備って何」
雪乃が準備のために2階へ上がるのを見送った後。低い声で冬華ちゃんが言った。
「今日はお泊まり会をするの。雪乃と、久しぶりに」
「チッ」
あからさまな舌打ちね。でもそんなの昔から。慣れてるし、痛くもかゆくもない。
「あたし、今日告白もしたから」
このことは話しておかないとね。もう少しで、雪乃への手出しは一切出来なくなるわ。
「はあ? ……返事は」
顔を歪め問うてくる。雪乃には絶対に見せない本当の顔よ。別にシスコンを否定するわけではないけれど、冬華ちゃんの場合は異常だわ。
「まだ。でも、絶対にあたしの物にしてみせるわ」
そう。雪乃は絶対に誰にも渡さない。小学校の頃から頑張ってきたんだもの。変な虫が付かないように、頑張ったのはあたしよ。
「まさか。私がそんなことさせると思う?」
思わない。でも、そうなるのよ。雪乃は絶対にあたしを選ぶ。今はまだ、ただの根拠の無い自信だけれどね。間違いないわ。