3話
気付くと目の前のテーブルにティーカップ。湯気がのぼっていて、私が好きなアップルティーの香りがした。るるとリオンの前にも同じようにカップがある。いつの間に。
「しまった。お財布カバンの中だわ」
教室にまだ置きっ放し。部活に行くのは諦めようかしら。
「いいのよ。久しぶりに小夜から面白い話を聞いてるんだもの。奢りよ」
リオンにはよくいろんな物を貰うんだけど、手作りのお菓子すらお店に売ってる物といい勝負……いや、リオンの方が美味しいかも。だからこういう時くらい自分で払わないとすごく申し訳ない。
「……後で返すから」
「そう?」
「うん」
冷める前に飲まなきゃ。喋ることで乾いてしまった唇を湿らす。
「それにしても、お前変わらないよなー。会った時から」
そうなんだ。見た目じゃなくて、中身のことよね。これでも変わりたいとは思ってるっていうか、変わろうと頑張ってるんだけど。
「そうかしら? 会った時よりずっと明るくなったと思うわ。でも、今のお話聞いてたら恋愛に対してはその頃と全く変わらないのね。相手優先だしひたすら穏和に終わらせようとするし。自分の考えは言わない」
リオンの言葉には時々傷ついたりする……。普段優しいだけに、ピシャリと言い当てられると痛い。
「まあ、否めない……」
いつ嫌われるかわからない。花恋にだけは絶対、嫌われたくない。
花恋に気持ちを言ったのは、初めての通話……告白の時だけ。その時ですら、はっきり好きとは言えなかった。遠回しな言い方しか出来ない。
「あまり我慢し過ぎないようにね」
「うん。大丈夫」
「で、今日はなんであんなにテンション高かったんだ?」
るるの言葉に、思い出してかぁっと顔が熱くなる。
「あのね! 名前呼んでくれたの!」
「電話で?」
「ううん!!」
スマホを取り出し、アプリを開く。これくらいなら見せてもいいかな。
「これ!!」
チャットで、花恋が私の名前を呼んでくれたの! 昨日は執筆のお話をしてたんだけど、その時に。それが嬉しくて嬉しくて!!
「普段は呼ばないのか?」
「あんまり。だって恥ずかしいじゃん」
「それだけで喜べる貴方が羨ましいわ……」
そうなの? 私、今でこそ普通に名前で言えるけど、声に出して呼んだことない。チャットで言うのにやっと慣れたところだし。
そういえば2人は生徒会に入ってて頭もいいし、親切だし、恋人いそうだけど。そんな話を聞いてないな。
「るるとリオンはいないの? モテるでしょ?」
「えっ!?」
「欲しいと思ったことないぞ? 告白されても半端な気持ちで付き合うのは相手に悪いし」
平然と答えたるるとは対照にリオンは顔を真っ赤にしてあたふた。
「ま、まあそうよね! よく知ってる人でないとつ、付き合うだなんて!!」
なるほど。確かに2人は他学年の子にも告白されてそうだし、知らない子も多いよね。るるなんて普段あまり関わることがない人だと顔と名前が一致するのに時間がかかりそうだし。
「小夜が私たちより先をいくとはねぇ〜……」
リオンったらしみじみしちゃって。まあ、確かに私ってずっと2人の後ろを歩いてる気がするけどさ。
「リオンも好きな奴はいるんだろ?」
「え!?」
「そうなの? 告白すればいいのに。だってリオンだもん。フラれるわけないよ」
「あたしもそう思う」
彼女は、いつもの微笑みを浮かべている。
「まだその時ではないの。ほら、タイミングって大事でしょ?」
さっきと違ってすっかり落ち着いたみたいね。
「なるほどなー。リオンは慎重だからなー」
「そ・う・ね!! 慎重になっちゃうのよね!」
「良いことだよねー。すごいよ。私じゃ絶対気付かないところにリオンはいつも気付いてるんだもん」
「そ、そう?」
リオンは大人だもん。るるは後先考えずに突っ走るタイプだし。
「この3人の中で1番落ち着いてるしよく気付くし」
「それは間違いなく貴方たちが鈍すぎるのよ……」
「そう?」「そうなのか?」
「はぁ……」
ため息つかれちゃった。
「まあ、私はタイミングを見計らってるだけで別に悩んでるわけでもないの」
それなら大丈夫ね。って、私も別に悩んでるわけじゃ……。
「小夜はいっつも1人で抱え込むんだから」
「そうだぞ。恋愛相談ならお役には立てないだろうけど、話くらいならいくらでも聞くからな」
「ありがとう」
頼りになるのはやっぱりこの二人です。でも今は毎日幸せであまり心配もないし!
ただ、話を聞いてくれる人がいるのは本当にありがたいです。
短いし中途半端かもですが小夜ちゃん花恋ちゃんカップルのお話はここで一旦終了です! ただ、時々挟んでいくつもりですので是非見守ってあげててくださいな〜




