3話
「きゃあああああああああぁ!!」
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!
うぅ〜何でこんな時ばっか天気予報が当たるんだよ!
「うぅ……ひっく、リオン…………」
「はいはい。大丈夫ですよ」
約束通り、放課後の生徒会室でリオンが一緒に居てくれている。
外は激しい雷雨。連続して雷が大きく鳴り、稲妻が走る。
抱きしめられ背中を優しくポンポンと叩かれてるのだけど、あたしの方はちっとも落ち着く気配がない。怖い!
「ひっ!」
また鳴った!!
「るる。いっそ眠ってしまえばいいんじゃない? 雪乃ちゃんたちはそうしてるんじゃないかしら」
「きゃあ!! ……っ、こんな状況で、寝れるわけ、無いし……!」
確かに雪乃ならそれで何とかなるのかもしれないけどっ!
「試す価値はあると思うわ。ほら、こっち」
背中を押されソファに横になる。当然のように膝枕が。雷見るのは怖いのでリオンの方を向いてお腹に抱きつく。さっきと同じように、背中を叩いてくれている。
「うぅ〜……」
すると、怖がるあたしを見てかリオンがくすりと笑うのが聞こえる。
「なんだよぉー!」
「別に。誰かが見てたら、きっと驚く光景よね」
お、恐ろしいこと言うなよ……。
「誰かが見てたら困る……ひぃっ!」
「あら。でも、この学校の新聞部兼写真部。優秀なのよ? ここにもいたっておかしくないわ」
どこかに潜んでるっていうのかよ………。
「きゃああっ!!」
………………。
「ココアでも飲む?」
うん。
頷くとリオンが立ち上がったのでそれに習う。
「動きにくいわ」
「……」
離れたら怖いし。
わざわざ振りほどくようなことは勿論せず、リオンは2人分のココアを作り始める。
雷ばかりはどうにも克服出来ない。昔からずっと苦手なんだ。音も光も怖い。
「全く。雷で怖がるなんて。肝試しの時はどうするつもり? 私がペアになれるとは思えないけれど」
「ゔぅ……!」
忘れてた。
「頑張って、高熱出す」
「少なくとも小学校3年生の頃からは、発熱したことは無かったでしょう」
その通りです! 出会ったのが小学校3年生。それまでも病欠したことは一度も無い。憎らしいほどの健康体。
ゴロゴロと低く唸るような音が鳴り、反射的にリオンの制服を掴む。
「出来たわ」
掴んだままの状態で元の場所に戻ってくる。ソファで2人、体がくっつくくらい近くに座って、湯気がのぼるカップを手に取った。リオンの淹れてくれるものは全部美味しい。紅茶にしても、ホットミルクにしても。ココアは落ち着かない時にしか飲まないけど。
「美味しい」
「それは良かった」
少しの間、沈黙が訪れる。カップを持つ手が震えてる。何故か雷もまたどんどん酷くなってきてるし……。
「あの2人、遅いわね」
「きょ、教室で、イチャついてるんじゃ、ないか? ひゃっ!!」
「そう、ね……会長さんも遅いけど、そのうち来るわよね。ほら、後輩には見られたくないでしょ?」
「うん」
寝る。飲み終わったら、一旦寝て落ち着こう。うん。
その時、一際大きな音。そして稲妻が走り、それによる停電が起こる。
「いやああああぁ!!!」
暗い! なんだよもう! 何にも見えないじゃないかっ!
「るる、落ち着いて」
「おち、落ち着くとか! む、無理! だって雷、」
「ほら、おいで」
さっきの状態に逆戻り。怖いのは変わらないけど、多少落ち着くのも事実。
「震えてる」
怖いんだもん。鳴り続ける雷にまだ悲鳴をあげてしまうけど、「大丈夫、大丈夫」というリオンの声がだんだん子守唄みたいに聞こえてくる。
「大丈夫よ」
ふわりと温かい物が体に触れた時、プツリと意識は途切れた。
◆ ◆ ◆ ◆
るるがやっと眠った後。すぐに部屋のドアが開いた。
「あら、結柚里ちゃん」
腕には気持ち良さそうに眠っている雪乃ちゃんが優しく抱かれている。
「こんにちは。あの……放っておくんですか?」
「流石ね柚結里ちゃん。今から排除しようかと思って。やっぱり雪乃ちゃんはおやすみなのね。ソファに毛布を置いてあるわ」
「ありがとうございます。お手伝いした方がいいですか?」
「いえ。大丈夫」
柚結里ちゃんがこういうことに敏感なのには気付いていたけれど。
部屋の奥に設置されたクローゼットの方に足を進める。正直入ってきた時から気付いてたんだけど、るるがいる手前、そこには手が回らなかったし。
開けて、中に入っている服をかき分ける。
「やっぱりいたのね。園田さん?」
「ひぃっ! な、何で、分かったの……」
「勘かしら? さあ、カメラを渡して?」
「う、で、でも……」
「渡しなさい?」
「は、はい…………」
この学校の優秀な新聞部兼写真部。その部長が、今にも泣きそう顔をしている。
「盗撮なんて。しかもここで?」
「いや、あのう。その、月野恵さんの写真は高値でよく売れるので……」
それも、普段見れないレアな光景だものね。受け取ったカメラ、そのデータを一気に削除する。ほとんどるるか私が写ってるものだったし、他の写真だってとっくにコピーか何かしてるんでしょうし。
「あー……」
「はい、お返しします」
しょんぼりしてる。でもこれくらい当然だわ。
「次はありませんからね? 園田さん」
努めて軟らかく言うと、顔を引きつらせた園田さんが「すす、すみませんでしたあぁ!!」と一礼して生徒会室を出て行った。
外はまだまだ激しい雷雨。電気も点かないまま。るるは騒ぎに一切気付かなかったようで変わらず眠っている。ホッとしてから、私はソファには戻らず柚結里ちゃんと間もなくここに来るであろう会長さんの分の紅茶を淹れる準備を始めた。
新キャラ。
園田さんのお話も後々書きたいなーとか思ってたり。




