1話
「るる、今から買い物に付き合え。飯奢る」
と。その強引さに押され、結局毎度の如く姉さんの買い物に付き合わされることになった。珍しく部活の手伝いも無く真っ直ぐ家へ帰って来てみればこれだ。それももう慣れたことなんだけど。疲れたからゆっくりしたいってのはあるけど買い物も楽しいし。
姉さんの買い物というのは、服や化粧品がほとんど。意見を聞かれるけど、正直姉さんは何でも似合うのでちょっと困る。元々センスもいいから否定をすることは無いし、アドバイスくらいは少しすることもあるが役に立っているとは思ってない。いっぺんにたくさん買うから、荷物持ちになることが一番役に立っているんだと思う。自分も姉さんと一緒に見て回るから気に入ったら買う。それで毎回両手いっぱいになることが分かっているのに、姉さんが侍女たちをそこへ寄越さないのは、きっとあたしとの時間を大切にしてくれてるから。
小さい頃からずっと姉さんはあたしを可愛がってくれている。学校では学年も違うし……。姉さんは生徒会長として、あたしは運動部の手伝いを。あたしも生徒会に入っちゃいるけど何かある時に少し顔を出す程度だし、つまり一緒にいる時間は少ないのだ。少なくとも中学部の頃より。
「そろそろ出られるか?」
「うん」
出掛ける場所はその時々で違う。同じなのは移動手段が車であること。今日は近くのショッピングモールに行くらしい。そこなら食事も出来るし、ついでに本屋にも寄れるし便利だよな。
そういえば昨日、気になってた本の発売日だったんだ。チェックしないと。
◆ ◆ ◆ ◆
いつもお世話になってる店を回って満足し、あたしは本を予想以上に買ってしまう。まあ、いっか。そうだ、本棚も欲しいところだな。まあそんなこんなで時間も夕食時。パスタを食べたいとリクエストした。ここで食事をするのは初めてかも知れんな。
「ここ、クラスの奴らと前に一度来たんだが、美味かったぞ」
「あたしは初めて。外食もあまりしないし」
ご飯の時間はあまり合わないんだよ。姉さんは受験生でもあるから。勉強をした先で済ませてくることが多い。
「決まったか?」
「うん」
注文した時、ふと窓側の席に目を向けると見知った2人の横顔が見えた。あいつらもここに来てたのか。
「雪乃に柚結里だな」
「相変わらず仲が良いんだね」
生徒会室と同じ、雪乃の定位置は柚結里の膝の上らしい。正面に座ってるのは母親だろう。
「しかしあの2人、付き合う事になった時は相当の騒ぎだったなー」
入学当初から話題になっていた。特に雪乃の方が。あれだけ目立つ容姿をしていれば仕方ない部分もある。この学校だからこそ、彼女に狙いを定める人も多かったはず。
「柚結里、本当に雪乃想いだよね。自分にだってファン多いくせに」
雪乃しか目に入っていないせいで気付かないのかもしれないが、柚結里も容姿端麗で大人びているところが一部の生徒に評判だ。彼女に誰かが告白した何て話は聞いていないが。
「いいことだな。一人の人間を想い続けるなんて難易度の高いことをやってのけるなんて俺にとっちゃすごいことだ」
「あたしは人を想う感覚すらよくわかんないよ」
「いずれその時は来るさ」
そこへ料理が運ばれてくる。あたしはカルボナーラ、姉さんは野菜がたくさん乗ったものを。姉さんのもすごく美味しそうだ。
「「いただきます」」
◆ ◆ ◆ ◆
「あ! 会長さんたちだ!」
「こんばんわ」
「あらみなさん。奇遇ですね」
食事を終えて姉さんと次の定期テストについて話していると、雪乃と柚結里があたしたちに気付いた。同じタイミングで店内にリオンも入って来たのだ。
「こんなところで集まるとはな」
「お父様がたまには外食でもって」
「パスタ食べたかったんです〜! 会長さんたちもですか?」
「ああ。ちょうど買い物してたんだよ」
雪乃はかなり機嫌が良い。そんな彼女と手を繋いでいる柚結里も同じく。
「おばさんたちが待ってますから。私たちはこれで」
「また明日な!」
「あの、ご一緒させてもらっても?」
リオンは珍しく少し言いにくそうにしている。
「どうした?」
「その……私、あそこに居づらいので…」
視線の先を追うと、リオンのご両親が向かい合って座っているのが見えた。
「あー…」
何度かリオンの家に行った時もあんな感じだったな。2人はすごく仲が良い。キスやハグだっていつでも人目を気にしていない様子なのだ。
「料理が運ばれるまででいいので……」
「もちろん俺はかまわんぞ」
「あたしも」
「ありがとうございます」
リオンも2人には大切に想われて育ってる。でも、最近は特にあの雰囲気の中に自分が居るということに居心地の悪さを感じているようだ。
断る理由も無いよね。急がないといけない理由があるわけでもないし。リオンはあたしの隣に座った。
「雪乃ちゃんたち、すごく仲良いですよねぇ……」
しみじみと言うリオン。何か暗い表情だな。
「どうかした?」
リオンはいつも笑ってるから、表情が曇るのはかなり珍しい。
「…………知らないもんっ」
え。
少しの間じっと見つめられた後、むすっとむくれて目を逸らされた。しかも怒ってる? あたし何かした?
「言わないもん。なんで気付かないの。るるが気付くまで、言わない」
「あー。リオン。こいつ多分気付かんぞ」
「は?」
「酷い」
「まー、確かにるるが悪い」
「え?」
「では、失礼します」
「おう。明日な」
「明日」
いつも通りの笑顔を浮かべて静かに席を立ったリオン。ご両親と合流し、楽しそうに会話を始めている。
「何であたしが悪者扱いなんだ?」
「それこそ、自分で考えるべきだな」
姉さんはリオンの言わんとしていた事が分かっているらしい。考えて分かるものなのかもあたしにはさっぱり分からないというのに。
さっきのリオン、おかしかったしな。明日には機嫌をなおしてくれていればいいんだが。




