20話
「そういうわけだから」
「そう。雪乃が自分で決めたなら仕方ないわ。でも、諦めはしないけど。昨日ずっと幸せそうにしてたわ。納得は出来る」
雪乃が少し席をはずした隙に、冬華ちゃんに昨日今日のことを話した。夕食は一緒に食べるとは言ったものの、お金は渡そうとした。
「いいわよ。奢るから」
そのお言葉に甘えて、持ってきていたお金はしまった。ちょうどそこに雪乃が戻ってくる。
「お姉ちゃん、今日はどこ行くの?」
◆ ◆ ◆ ◆
「雪乃は何食べたい?」
「ん〜……あ、パスタ食べたい!」
「じゃあ駅前のとこね。まだ早いし、私少しお昼寝してるわね」
「はぁーい!」
ということで、リビングには私とゆゆがの、残されてしまった…!
「さて」
くるりと私の方を振り返って、そして近付いて来ます。あぅ、えっと……。
「ゆゆ?」
「2人になったんだから。当然でしょ?」
ななな、何が、当然なのでしょうか!?
怖いよゆゆー! うあ、逃げられない……!!
後ろで待機していたのはソファでした。ここまで来て逃げることも出来ず、そのままぽふっと座ってしまう。覆い被さるゆゆ。あわわわわどうしよう!
首筋にちゅっと音を立て、キスされる。その音だけでも恥ずかしくて、かあ〜っと顔が熱くなってしまう。うぅ、ゆゆ笑ってるし。
「そんなに嫌?」
「ちが、……でも、だって…」
「なぁに?」
耳元で囁かないで!
ゆゆはグッと顔を近づけてくる。
そんなこと言わせないでよ……。
「だって、なに?」
「だって……は、恥ずかしいんだもん…………だ、から、んっ」
「可愛すぎ」
繰り返し唇が重なり、何度も何度もゆゆは飽きずにキスをする。好きって分かった今となってはもう、拒むなんてこと考えもしないし、むしろ……。
「んぅ」
そろりと、舌を入れてみる。自分からしたのって初めてだけど……こんな感じで、いいのかな……。
ゆゆを見上げると少し驚いた顔をしてた。でもすぐに綺麗な笑みを浮かべて、ギュッときつく抱きしめられたかと思うと激しく舌を絡ませてきた。
「んっ……ゆゆ、」
苦しくなる息とは反対に、私の心は大きな幸せを感じてる。腕をゆゆの首にまわした。
こうしていられることが嬉しい……。ほんの少し前までは、全然わかんなかった。
優しくて、面倒見のいいお姉ちゃんみたいな存在。でも、それらが嘘ではないにしても違うところもあった。ちょっぴり意地悪なんだもん。さっきみたいに。
やっと離れた2つの唇は、透明な糸で繋がっていた。あぁうぅ〜……
「そんな顔、あたし以外に見せちゃダメだからね」
「ゆゆのせいだもん……、こんな顔に、なっちゃうの……」
言いながら鼓動が大きくなるのを感じる。
「そうでなきゃ」
着替えたばかりの服がゆゆによって脱がされていく。
はぅ……。
肌を撫でられる度に、自分でもびっくりするくらいに甘い声が出てしまう。こんなの、誰かに見られたら……。
ガチャ
「!?」
い、言ってるそばからドアが開いて、あわわわわ……、た、ぶん……ママ、だと思う…………う、どうしよう……。
私が内心あたふたしている間も、ゆゆの方は気付いているのかいないのか止める様子は無かった。う、えっと、どうすればいいの私……。
「あ、あらあらごめんなさい邪魔しちゃったわ。続けてどうぞ」
再び、バタンと閉められたドア。呆然とそこを見てるしかない私です。
「こら雪乃。あたしを見て」
「ゆ、ゆゆ! だって、ママに見られ……ひゃっ!」
「続けてどうぞって言ってたわ」
「で、も……!!」
完全に生まれたままの姿になり、いたるところにキスを落とし始めたゆゆ。
ふぁ……そんなこと、したら、もう……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「全く! 見たのがママだったから良かったものの、お客様だったらどうするつもりだったの!? 人が来る心配をしなかったの? 学校ではいいのかもしれないけれど、一般には同性愛は変に見られちゃうんだから、少しは場所を選びなさい!」
おばさん、激怒ね。まあ当たり前かしら。
疲れてしまったらしい雪乃は、あたしの腕の中でうとうとしている。
「意地悪ですね。おばさん、しばらく見てたでしょ?」
「そりゃあだって私の大好物だもの!!」
開き直ったみたい。あの時ドアを開ける前から、おばさんはその向こうにいた。雪乃は気づかなかったみたいだけど。邪魔をする風でもなかったから続けた。
「ままぁ……私たちのことはなにも言わないのー?」
「当たり前じゃない。むしろ雪乃ったら鈍感だから、柚結里ちゃんに申し訳なかったくらいよ」
「ほえ?」
小学校の頃のあたしは同性に恋をすることが変だとは思わなかったし、それよりも雪乃に気付いてほしかったから所構わずアタックしてた。おばさんはそれを分かっててすごく応援してくれてたのよ。
「やっと、って思うわ。そこまできたならここでいくらでもヤっちゃいなさい!!」
「さっきと言ってることが違いますよ」
「や、や……!」
雪乃、また顔を真っ赤にしてる。可愛いわね。ほっぺたにキスすると、目を潤ませて頬を紅潮させた雪乃が、あたしを見て口をパクパクと動かし始めた。
「ぁう……う、ゆゆぅ……!!」
「あらまあ♡」
そこへ昼寝から覚めたらしい冬華ちゃんがリビングに入ってきた。
「何やってんの?」
「冬華ちゃん冬華ちゃん!! やっと2人が付き合うんですって!」
「ママ!?」
「まあ、知ってるけど」
「あら」
また慌て始めた雪乃。忙しいわね。
「雪乃、疲れたでしょ? 出かけるまで時間まだあるし、少し眠ったらどう?」
「はぅ、でも、お姉ちゃんまで、え? えっ??」
腕の中でじたばた暴れる始末。そんなに驚くことなのかしら。
「雪乃! 柚結里ちゃんが嫌になったらいつでもお姉ちゃんのところに来ていいんだからね!」
「うっ?」
頭の上にたくさんのはてなマークを浮かべてなおも混乱している彼女は、やがて考えることを放棄したらしい。
「ふわぁ……ねるの…………」
「おやすみ」
「おや、しゅ……」
既に疲れていたせいもあってか、すぐに体をあたしに預けて眠ってしまった。
「ママ、私たち夕食は外で済ますのよ。来るでしょ?」
「ええ! お話いっぱい聞かせてもらわないとね!」
おばさんに認められるのはいいことだけど、なんだか面倒なことになりそうね……。




