16話
それから1週間。ゆゆと学校であまり接する機会もなく、反対にクラスや同じ学年の子と仲良くなって名前もたくさん覚えた。1番話すようになったのは兎咲さんかな。嫌われたわけじゃなかったみたい。つい昨日、この間のことについて謝られちゃったの。ただ、名前を覚えられてなくてちょっとショックだっただけだ、って。好きな本や漫画が、同じだったことがあってお話も盛り上がった。名前で呼ぶ人も増えた。2人から離れて、みんなと一緒にお昼を食べたこともあった。
放課後は決まってゆゆにキスされてた。今週はもう夏休みの件は決まったし、集まらなくてもいい、と。2日目の放課後、会長さんが言った。だから鷹音先輩も来ることは無く。ただ、私たちのことを知ってか知らずか
「雪乃ちゃん、ここに来ることがあったらお花に水をやってくれる?」
と、いつもの笑顔で声をかけられた。
なるべく一緒にいたいから。2人きりで。だから、いつも鷹音先輩がしていた生徒会室のお掃除やお花の水やりに時間をかけた。
いつもより一緒にいる時間が少ない。そのせいか、逆にゆゆと近付いたような気がする。キスは全然嫌じゃない。激しくあっても、優しいところがあって……。放課後が楽しみなのは、ゆゆといること、それ以外にこのこともあるのかも。
土日を挟んで、月曜日。
朝会うと、あやちゃんは何故か冷たかった。挨拶は交わしたものの、目も合わせてくれず、その後話すことも無かった。その理由が分からずちょっと混乱する。だって、あやちゃんはいつもゆゆと話してたけど、それでも3人でいる時に話しかけてくれることがあった。突然冷たくなってる。ゆゆとはいつも通りなのに。
日曜日、2人でお出かけすると聞いてた。もちろん2日ともゆゆが家に遊びに来ることは無かった。それはあやちゃんに止められたから。しょうがないと思うし、久しぶりにお姉ちゃんとお出かけして楽しかった。ゆゆたちとは別の、少し遠いところにあるショッピングモールだったんだけどね。洋服を見たり、雑貨やペットショップに行ったりお食事したり…たくさんお買い物出来た。
……2人きりでお出かけなんて、あやちゃんすごく楽しかっただろうし。何でかな?
いつもの予習・復習の時間も、あやちゃんには徹底的に無視されてた。いないものにされてるみたいに。ゆゆは分からないところを教えてくれて、普段と変わりなかった。
でもあやちゃんはずっと冷たい目を向けてくる。なんとなく居づらくなって、ちょうど登校してきた英梨ちゃんの元に向かった。
「あ、英梨ちゃんだ」
席を離れ、勉強道具も片付ける。あやちゃんのことに気付いていたのかな。ゆゆは何も言わないでくれた。
「おはよ! 英梨ちゃん!!」
「おはようございます、雪乃。お勉強していたのでは? いいのですか?」
「うーんと……私、あやちゃんに何かしちゃったみたい。今日会った時からずっと冷たくて居づらかったから……」
英梨ちゃんが目を鋭くした。
「まだ時間はありますわね。ちょっといらして」
手を引っ張られる。教室を連れ出されて、ひと気の無い廊下に出てきた。ちょうど外には校門が見える。登校してくる生徒や、車がたくさんいた。
「どうしたの?」
「それはこちらのセリフです。能都さんに小野町さんをとられていいのですか? ライバルに手を貸すなどいいことではありませんが、私の方がモヤモヤしてしまいます!」
「ライバル?」
「そ、そこは気になさらないで! ともかく、貴方が小野町さんに抱いている感情は間違いなく恋ですわ! 誰の目から見ても分かります!いい加減気付いたらどうなのですか!!」
え、えっと……私の為に怒ってくれてるんだよね。英梨ちゃんなら、話してもいいかな。
「あ、あのね……」
腕を組んでむすっとした表情で、口を挟むことなく英梨ちゃんはちゃんと話を聞いてくれた。
「まあ、確かにそれは正論ですが……。あまり時間がかかるのはいけませんね」
「それはわかってるんだけど……」
「何かきっかけがあるはずですわ。私としては能都さんと一緒になっていただいた方がいいのですが……後悔なさらないように」
嬉しいな。こういうこと言ってくれるの。英梨ちゃん優しい。
「ありがとう! 英梨ちゃん!」
「なっ?! そ、そういうことは、ちゃんと解決してからおっしゃって下さい!」
あれれ? 顔が真っ赤だよ。私、何か怒らせちゃった?
「うん! そうだね!!」
足早に教室に向かう英梨ちゃんだったけど、少し先で立ち止まって待っててくれた。急いで追いかけて、今日の授業のことを話しながら一緒に戻った。




