13話
「おっはよー! 雪乃ちゃん! 柚結里ちゃん!!」
朝の誰もいない教室に、一人机に向かって何かを書いてたらしい能都さんが私たちに気付いて挨拶してくれる。
「おはよ〜」
「おはよう」
「2人は早いんだね!」
「能都さんも。私たち、いつも早く来て勉強してるから」
「あやは、お手紙書こうと思って。昨日、帰りに靴箱に3枚入ってて……。すごいねー! あや、勉強なんて学校の授業以外でほとんどしないよ〜」
能都さん、クラスでは盛り上げ役って感じだったよね。楽しそうにみんなと話してたし、好きになる人なんてたくさんいるよ。でも、偉いな。ちゃんとお返事してるんだ。私なんて、入ってても読んだら終わりだし。一応取っておいてるけど…。
カバンを置いてから道具を持って、ゆゆの席に行く。今日は数学の復習です。昨日の授業全然わかんなかった……。
「ねえ。あやも教えてもらっていい? 前の学校よりちょっと進んでるみたいで。昨日の授業さっぱりだったんだ〜」
はぅあ! お仲間がいらっしゃった! ……って、この学校での授業が始めてだったせいだよね…能都さん、頭良いのかな〜。
「ゆゆ、能都さんも一緒にいい?」
「ええ。いいんじゃない?」
「ありがとう! あや、でいいよ」
あやちゃん、か。ゆゆ以外に名前で呼ぶ人なかなかいないから緊張しちゃいます。
「始めましょ」
ゆゆのおかげでちゃんと理解出来た数学の時間はおしまい。
2限目は日本史の授業です。歴史のお話を聞くのは面白いんだけど、だんだん眠くなっちゃって結局いつもノートを取ってから寝てるのです。でも、今日はあやちゃんとのお喋り時間になってました。
「ねえねえ、雪乃ちゃん」
「なあに?」
「雪乃ちゃんってさー……柚結里ちゃんと付き合ってるの?」
「なっ……!?」
おっと! じ、授業中なのを忘れるところだった…。
「どうなの?」
えっとえっと!! ……付き合ってるかって言われると、答えは、
「……ううん」
でも。早く……お返事、しなきゃだよね。まだわかんないんだよね。断る理由は無い。ゆゆが大好きって思ってることも分かってるんだけど。それがゆゆの言う好きと、同じなのかはわかんない。それをどうやって判断すればいいのかもわかんないし……。でも断る理由が無いからってOKしていいものとも思わない。
手紙をもらったことはたくさんあっても、はっきりと付き合ってって言われたのは初めて。どれも友達になって下さいっていう文章で締めくくられてた。人見知りな私はそう言われてもなかなかの難易度で。名前を覚えるのも苦手なのに、先輩だと顔も知らない人ばかり。結局何もできないまま、ただ、受け取った手紙を読むだけになってしまうの。
「あのね、雪乃ちゃん」
あやちゃんは、まだ何か言いたいことがあるようで。
「あやね、ずっと前に柚結里ちゃんと仲良くしてたの。小学校の時引っ越して行っちゃったからそれからは連絡も取れなかったんだけど」
ゆゆは小学校2年生くらいの頃に引っ越してきた。出会ったのもその時。大人っぽくて、すごく綺麗に見えて。私なんかとは全然違うなって思ってた。家が近いおかげでママたちが仲良くなって、だからゆゆとも一緒にいるようになったんだ。
そっか。じゃあ、あやちゃんの方がゆゆの幼馴染なんだね。でも、そんな風には見えなかったけど……。
「あや、ずっと柚結里ちゃんのこと好きだったの。お友達としてじゃなくて女の子として……恋愛の、好き」
そう、なんだ。あれ? 何で、その話を私に……??
「だからね。あや、柚結里ちゃんが欲しい。お付き合いしたい。雪乃ちゃん仲が良いみたいだから、協力してくれたら嬉しいなって」
ああ。なるほど。だから。
う。何か告白されたとは言いにくい雰囲気……。いいのかな。だって、それって……。
でも、私が気持ちを確かめる手助けにもなるのかな。まだ、すぐに告白しようってわけじゃないみたいだし。お返事、ずっと先になっちゃいそうだけど。でも軽い気持ちでなんてやだよ。大切なお友達でもあるんだから。ちゃんと、答えを見つけたい。うん。だから。協力、私もしてもらうんだ。
「いいよ。私、何も出来ないかもしれないけど」




