12話
「ようやく揃ったか」
数十分して月野恵先輩が生徒会室に来ました。
「大会当日の話がやけに長くてなー」
「お前部員じゃないだろ?」
「エースが骨折して出られなくなったから出てくれって依頼された」
月野恵先輩はすごく運動神経が良くて、いろんな運動部のお手伝いをしてるらしいです。
で、夏休みの話は……。ちょっと、気になります。
「本題に入るぞ。まず、昨日決めた、肝試しのルールの案はほとんど変わる」
夜遅いもんね! お昼にすればちょっとは……。あ、あれ? この時点で肝試しをすることは確定してる…。
『そんな早い時間にしても面白くないでしょう! 先生方に協力していただけばいいのです。9時ごろから、例えば場所は学校か、それとも雰囲気を出すために墓地や病院の前…。そこで怪談話でもしてからスポットに向かえばいいのです。0時ごろに……』
「……とまあ、大方こんな風なことを言われた。先生がいれば保護者だって安心だろうと。あのババアやる気だぞ」
ふぇ……?
「チェックポイントの係は先生が担当だな。それぞれのペアが録ったビデオを観てから解散になる」
「行きたくないよぅ……」
「だーめ」
「あぅ…お姉ちゃんと行けばいいんだよ……?」
「冬華ちゃんはここの生徒じゃないでしょ。大丈夫よ、あたしがいるから」
出たらやだし……。ゆゆと一緒ならいいのに。それでも、怖いものは怖いけど。
「日にちももう決めてあるぞ」
そこまで! 早いなあ…
「おお! その日も部活の手伝いの予定が入ってる!!」
すごーく嬉しそうに声をあげる月野恵先輩。先輩も行きたくないよね、でも逃げようとするなんて酷いよ。
「夜中まで活動する部活なのか?」
「うっ! ……そういえばその日から家族旅行が…」
「うちにそんな予定は無い。逃げるな」
「行きたくない!!」
「ダメだ」
「うわああああああああぁ!!!」
「アホかお前は」
「嫌だ! 絶対出る! スポット行くとか絶対出る!! 憑かれる! 乗っ取られる! 死ぬ!!」
うんうん! 月野恵先輩の言う通り!!
「生徒が安全でいるにはせめて怪談話で終わらせるべきですっ!」
「本当にそんなことがあると思うの? じゃあ、悪いものが出ないような場所にすればいいじゃない。廃ホテルとか、廃校になった学校とか」
うー! ゆゆも敵だ!!
「良いお化けなんていないよっ! 心霊スポットはぜーんぶ危ないの!」
「そーだそーだ!!」
「まあ、決まったことだしな。当日はバスを借りれるようにして下さるそうだ。詳しいスケジュールや準備のことは、夏休みに入ってからの話になるからよろしくな。今日は以上! 終了!!」
「逃げた!」
「会長さん!!」
やだやだ行きたくない!
「楽しみだわ」
やーだー!
お膝の上でジタバタしたら、さっきよりきつくギューされたの。
「うーっ!」
「あたしたちでペアになれたらいいのにね…」
それは同感。そうじゃないとやだよ。
まだ先の話とはいえ……。
腕が緩んだのを逃さず、ゆゆを振り返って抱きついた。背中を優しく撫でてくれる。
「にゃ…………」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「あら」
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
先輩たちは紅茶を飲みながら談笑してる。まだ帰るつもりは無いらしい。暗くなってるし、迎えを寄こすかしら。雪乃も寝ちゃったし。鷹音先輩がすかさず毛布を差し出してくれる。
「お前も大変なんだな。甘えられてるのに。本人が気付いてないだけじゃないのか?」
おそらく先輩は新聞を見たのだと思う。それであたしたちのことをおおよそ分かってる。それで言ってるんだと思う。
「いいんですよ。……ただ、他の人に渡ることは絶対に許しませんが」
「それは大丈夫そうに見えるがな」
「すごく仲良しじゃない。それに、あまり他の人と話すことって無いんでしょう?」
「まあ……そうですね」
先輩たちに励まされるなんて。なんか複雑ね。
でも、もしなれるなら……。
あたしだって、雪乃のお姉さんじゃなくて、恋人になることを望んでる。




