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恋姫無双~黒龍の旅~  作者: forbidden
第一章.黒の一行
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賊掃討作戦3

「流石に見張りは置いているか」


小声で呟く。

曲がり角越しに数人の気配を感じ取る。

この先が牢屋だ。

六、七人くらいか。

その中の一人だけ、どこか気に欠けただらしない気配を感じる。

ということは、残りの怯えた気配の数人は娘の言っていた五人の捕虜か。

見張りの賊は一人か。


「あまりうるさくさせたくない。増援が来るかもしれん」


まずは見張りの賊を無力化して、牢屋の鍵を拝借しないと。


「──ならさ」


黒希がにやりと笑い、俺に近づく。

気配を察知するのに神経を使っていた俺は、それを気に留めなかった。

いきなり黒希が俺の胸元を掴んで、服を脱がしにかかった。


「ちょっ、黒希なにをむぐっ」


驚いて小声で言うのに黒希が口を塞いでくる。

それを見ている黒永と娘は頬を赤く染めている。

それに気づいた俺も恥ずかしくなってくる。

見るなっ! 助けろっ!


「あん? 誰かいるのか?」


俺の声で見張りが気づいたらしい。

黒希はささっと俺の小袖を脱がして上半身を裸にさせると、曲がり角に俺を寄せてちょっと肩を覗かせる。


「うほっ」


賊の気持ち悪い声が聞こえ、こちらに寄ってくるのがわかった。

その気配が曲がり角に達した時、黒希の腕を振りきって賊の胸ぐらを掴んで引き寄せる。

前に体重を乗せ、その勢いのまま賊の鳩尾に拳をのめり込ませた。


「ぐえっ」


蛙が踏み潰されたような声を出して、賊は痛みに気を失って崩れ落ちた。


「……黒希~」


他に賊の気配がないことを確認して、小袖を着直しながら恨みがましく黒希を呼ぶ。


「いやぁ。こんなに上手くいくとは思ってなかったよ」


しかし黒希は笑っている。

黒永と娘はまだ俺の着替えを見ている。

赤くなるほど恥ずかしいなら見るな!


「こんな色仕掛け、俺じゃなくて黒希か黒永がやればよかっただろう」


「嫌です。私の身体を見ていいのは黒薙様だけです」


「ボクもやだよ。それに、いいもの見せてもらったしぃ。綺麗な体してるよねぇ」


黒永に続けた黒希がにやにやしながら俺の着替えを見つめる。

ピンッ。


「きゃうっ!」


そのおでこ目掛けてでこぴんしてやる。

黒い上着を羽織る。


「後で黒永にきつく、お仕置きしてもらわないとな」


「ひどいよ黒薙様! 何事もなく見張りを倒せたのに。それに痣になったらどうしてくれるのっ」


黒希がわめくのを無視して倒れている賊の腰から鍵を探り当てる。

まったく、あんな嬉しくて恥ずかしいことをよく言えるね。


───────────────────────


「本当にあったな。たまには星の言うことを信用してもよいな」


「ほう、それはどういうことかな?」


愛紗の言い様に口を尖らせる。

まだ夕陽の沈まないうちに、洞窟の前に辿り着いた。

荷車を奪われたところからそれほど離れていない。

しかし森の深い、木々に覆われているために見つけづらい。

賊もよいところを見つけたものだ。


「んじゃ、さっさと退治してお金をたっくさんもらうのだ!」


鈴々が張り切っている。

まだまだ子供だな。

庄屋の話では村から連れ去られた娘もいるという。

それに気を配りながら戦うとなると、思い切り暴れられないだろう。


それを指摘することはせず、洞窟に入る。

入口付近に明かりはなかった。

洞窟の中から明かりが見えれば、そこが賊の拠点と割れてしまうかもしれない、それを警戒しているのだろう。

しばらく進むと、流石に小さな篝火が左右に乱雑に突き立つのが見えてきた。

奥から賊のものだろう、男が怒鳴り散らす声が聞こえてくる。


「見つかったか?」


「まさか。入口からここまで、人の気配は感じられなかった」


愛紗に言う。

賊に気配を消せるほど力量のある者がいるとは思えない。

騒ぎはだんだんと近づいてきた。

三人がそれぞれ得物を構える。

しばらくして、奥から十人に満たないくらいの娘たちが走ってくるのが見えた。

連れ去られた娘たちだろう。

その先頭を走る黒髪に黒いゆったりとした珍しい服と、黒尽くめの少女──いや、少年を見て目を見開いた。

少年もこちらに気付いて驚く。


「村の娘たち!?」


愛紗が先に訊く。


「貴女たちは?」


黒の少年は息を乱した様子もなく訊く。

目を細めて、右手が右腰の反り返った剣に添えられている。

体中から発せられている覇気は鋭い。


「村の庄屋殿に賊の討伐を依頼された者だ」


愛紗もその覇気を感じ取っているのだろう、目を鋭くしている。

そして真意だと覇気で表している。


「──加勢に感謝する。後ろの娘たちが村の娘だ。六人いる」


その覇気を感じ取ったのか、少年は後ろに怯える娘たちに手短に話して道脇に避けた。

娘たちの後ろに、少年と同じ剣を腰に差した少女が二人いる。

その二人は奥の声に警戒している。


「鈴々、一先ず娘たちを洞窟の外へ連れていってくれ」


「またこの役なのだ? 鈴々は暴れ足りないのだ」


「では、庄屋殿が討伐を頼んだ武芸者というのは」


娘たちの処置は愛紗たちに任せ、私は少年に向く。


「私たちだ。貴女たちが来たということは、やはり庄屋殿は不安を感じて貴女たちを派遣したと見える」


「それで荷車の米袋を裂いて、目印にしたのか」


「あまり目立つ印だと気付かれる可能性があった。よく気付いてくださった」


荷車の盗まれた場所に落ちていた米粒は森の中を進み、この洞窟まで繋がっていた。

私たちも同じやり方で賊の拠点を暴いた。

この少年は三人では心許ない、と考える庄屋を見越している。

一歩先を読んでいるのだ。


「それでは、娘たちをよろしく頼み申す」


賊の声も近い。

少年はこちらに背を向ける。


「待てっ。まさか三人で賊の相手をしようと言うのか?」


渋々引き受けた鈴々が娘たちを連れ立ったのだろう、愛紗がきつい口調で訊く。


「無論、そのつもりだ。元はと言えば、我ら三人が討伐を引き受けた」


少年は振り返らずに言った。

既に殺気を洞窟の奥に向けている。

それが背中からでもわかった。


「無謀過ぎる! 相手は何人いるのかわからぬのだぞ!」


「百人余」


いきなり出た数字に愛紗はわからなくて、口をつぐんだ。

やはり少年は振り返らない。


「その程度の数、私たちなら斬れる。この狭い通路なら囲まれずに済む。ただ前方から来る敵を斬ればよい」


無謀に見える。

しかし、この少年はちゃんと算段を立てている。

それに、この少年から放たれる覇気が負けるとは思えなかった。


「しかし」


それでも愛紗は食い下がる。

万一のことを考えているのだろう。

自分と私なら、と考えているのがわかった。


「なら、そこで見ているとよい。危うくなった時、その時はお助け願う。しかし、それまでは手出しは無用」


私はこの少年の腕前を測るによいと思っているが、愛紗はそうでもない。

と、少年の前にいた茶髪の少女が袖を振った。

何かが煌(きら)めき、洞窟の奥に消えた。

短剣。

辛うじてそれが見えた。

人が倒れる音が聞こえた。

少年が二人の少女の前に立つ。


「飯店で見た時の私は、そんなに頼りなかったかな」


そう聞こえ、やはり、と私は確信した。

賊が姿を現し、少年に殺到する。

少年が右腰の反り返った剣の柄に左手をかける。


一閃。


いつの間にか、少年の手には細く、薄い剣が握られていて、抜刀して剣を振っていた。

辛うじて抜刀した瞬間が見えたが、ほとんど見えなかった。

少し遅れて殺到する賊の先頭数人の腹が斬られ、倒れ込む。

後ろにいた賊は何が起こったかわからないで、困惑している。

隣の愛紗も目を見開いている。


「愛紗、これなら心配はなさそうだ」

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