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恋姫無双~黒龍の旅~  作者: forbidden
第一章.黒の一行
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賊掃討作戦1

小さく箱が開く。

ちょっと久しぶりの弱い光が箱の中に差す。


「……うん。ダイジョブ。誰もいないよ」


黒希がそっと蓋を持ち上げてどけて立ち上がる。

この部屋の空気もそんなに冷たいわけでもないはずなのに、箱に籠っていた俺たちにはとても涼しい。


あれからすぐに賊が荷車を襲ったようで、ひと騒ぎあってから荷車が再び動いた。

村人を追い払って荷車を奪ったのだろう。

人を斬る音は聞こえなかったから、村人は無事に戻っただろう。

そしてしばらくして、俺たちの入った箱が持ち上がるのを感じて、砂利の音をたてながら荒々しく置かれた。

何事もなく賊の拠点に潜入できた。


でもその前に。


「あ、あぅ……」


「く、黒薙様っ。大丈夫ですか?」


真っ赤になってくらくらする俺を黒永が慌てて抱き起こす。

黒希がまだ幼いにしろ柔らかさがある体をくっつけてきて、もう恥ずかしくて頭が沸騰しそうだよ……。

背中にも黒永の控えめだけど柔らかいなにかが……ああもう、そんなこと考えないでよ、俺。


「黒薙様には刺激が強すぎたかな。ボクの体を触りたければいつでも歓迎なのに」


「黒希っ。黒薙様は純粋なのですから」


「黒永だって、体くっつけてたくせに」


一息つけるとはいえ、賊の拠点の真っ只中。

二人とも小声で変な言い合いをしている。


「もう、言い合いは後にして……」


まだ熱のある頭を振って、箱から立ち上がる。


「黒薙様、ダイジョブ? そんなんじゃボクたちを相手にできないよ」


「変な話しないでよ。今は賊が戻ってきそうなここから離れるよ」


黒希の言葉を流しつつ、右手に持っていた刀を右腰に差す。

黒永も立ち上がって、黒希も腰の刀を確認する。

俺たちの得物は長物ではないため、狭い中でも自分の武器を持ってくることができた。


「黒希は後で黒永にお灸を据えてもらってね。黒永、頼むね」


「お任せください」


「え~。どうせなら黒薙様にお仕置きされたいよ」


俺に続けて二人が軽口を言いつつ、三人で倉庫らしい部屋から静かに出た。


「黒薙様。これから出口を探して、官軍に拠点の位置を知らせるので?」


隣で警戒する黒永が小さめの声で言う。

黒永と黒希とで左右に展開して通路をゆっくり進む。

賊の拠点は山の中なのか、鉱山の通路のようになっていた。

通路の左右には火が距離を保って明かりとなっている。

これは拠点内を把握するのに手こずりそうだ。


「まさか。村がお願いしたのを無視してるのに、俺たちの言葉を聞くと思う?」


周囲の気配に神経を集中させる。

右手は常に刀の鯉口を掴んで、いつでも抜刀できるようにしている。


「そうですよね。……まさかと思っていましたが」


「ボクたちで解決しようとしてるよね」


黒永と黒希が肩を竦める。


「今の朝廷や役人の腐敗はよく知ってるでしょ。役人にペコペコ頭を下げてまで、賄賂を使ってまで賊を退治してもらうのは本末転倒ってやつだよ。民は税を納めてるのに、それを守らないんだから。だったら自分でやるよ」


上に立つ者は下で働く民たちの税で食べていく代わりに、下の者たちを守る義務がある。

上下関係が強すぎるのを俺はあまり好まないけど、上と下があるのは大事だし間違いはないと思う。

し、そうでなくても人を守ることに理由なんていらないと思う。

戦じゃそうも言ってられない時もあるけど。


「二人が反対ならいいよ。俺だけで殺るから」


「ご冗談を」


「ボクたちが反対する訳ないじゃん。ボクたちは黒薙様の考えで育ったようなものだし、他の考えを知った今でもボクたちは黒薙様の考えを間違ってるなんて全然思ってないんだから」


「……ありがと」


───────────────────────


声が聞こえる方に通路を進んでいくと大きな空洞に出た。

空洞に出る入口脇に潜みながら、中を窺うと身なりの汚い男たち百人近くが騒いでいた。

どうやら酒盛りをしているようだ。


「移動中、賊を見かけなかったのはこのためだったんだね」


「警戒すらしていないとは。余程、この隠れ家に自信をお持ちのようですね」


「もし、俺が兵を持つようになってこんなだったら即刻全員斬ってるね」


三者三様に小声で感想。

これは手間がかからなそうだ。

賊は散々と料理や酒の乗った丸卓について酔いつぶれている。


さて、どうしたものかな。

手間はかからないとはいえ、百人近くいるのだ。

残さず、確実に斬りたいし。

なにか策を練るか──。


不意に黒希が立ち上がった。


「黒希、どうかしましたか?」


黒永の問いにも応えず、黒希はずかずかと広間に入って賊の合間を縫っていく。

黒希は一番奥の卓にいる大柄な賊と村の娘だろうか、幼い可愛らしい少女に向かっているらしい。

大柄な賊は嫌がる少女に執拗に迫っている。

周りの賊共は酔っていて、濁った目で騒ぎの中を歩く黒希を見送るだけだ。


「黒永、合図で空洞内の篝火を消せ。脱出経路も考えとけ」


黒希の背中から熱いものを感じる。

黒永の返事も聞かずに黒希の元へ走る。


「死んで」


黒希の冷たい声が聞こえ、袖から短剣が飛んで少女を乱暴にする賊の喉笛に刺さるのがはっきりと見えた。

撃剣という短剣を投げる技だ。

黒希の服には撃剣のための短剣が多く隠されている。


頭らしい男が音もなく絶命して、賊の騒ぎが少し止んだ。

しばらくして賊たちは事を知って、卓に立て掛けていた斧やら剣やらを掴んで立ち上がった。

遅い対応だ。


「黒希」


その間に黒希の元に辿り着いていた。

名前を呼ばれて黒希は再び手にしていた短剣を止めた。

賊の後方にいた黒永に見えるよう手を上げると、すぐにいくつかの篝火が倒される。

俺も傍にあった槍二本を投げて火を消す。

空洞がすっかり真っ暗になった。

少女を抱えて黒永のいた方に、外側を迂回して走る。

賊にぶつからないで済む。

賊が騒ぐ中、黒永を近くで確認。

後ろに黒希もいるのを確認して、黒永の入った先程の通路を走る。

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