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恋姫無双~黒龍の旅~  作者: forbidden
第一章.黒の一行
3/36

強者たち

なんというか、期待外れだ。


「黒薙様。何かお気に召さないことでも?」


「召さないもなにも、黒薙様のお眼鏡に敵う人がいなくてがっかりしてるんだよ」


黒永に言った黒希の言葉に間違いはないから、何も言わずため息をついた。

数日かけて冀州の鄴に到着、早速袁紹主催の武芸大会を見物しに来た。

城の前、昼もまだな時間から始まったこの大会、見物客はまあまあいる。

とはいえ、列を整える者が拍手や歓声を札で指示する辺り、袁紹の人望が知れているかもしれない。

少なくとも、ここにいる観客は袁紹見たさに来た訳じゃない。

それが指示されたところで、拍手なんて渋々と言った感じ。

もちろん俺たちは拍手なんてしない。


「もっと強い人が来ないと黒薙様の表情は晴れないよ」


「それは黒薙様ほどの豪傑は何人もいませんからね。仕方ありません」


「せめて顔良か文醜辺りを出場させればよかったものを」


黒希と黒永の話を聞きつつ愚痴る。

袁紹配下とはいえ、その二人は猛将と聞く。

もう宿に戻ろうかと考えていたところに、新たな出場者が舞台に上がってきた。

その雰囲気にちょっと興味が湧いた。


「遥々涼州からやってきた馬超選手!」


「涼州か」


実況者の言葉を聞いて呟く。

長い薄い茶髪をポニーテールにしてまとめた、活発な感じの少女だ。

片手に槍を持っている。


「騎馬で有名ですね」


「まあ、そんなことより。あの娘」


「また女の子に眼がない、と言いたいところだけど。強いね」


黒希はわかるようでじっと槍を持つ馬超を見つめる。

既に試合は開始されていて歓声が上がっている。


「そうでしょうか。防戦一方ですが」


「攻撃してる方はもう疲れてるよ。振り回してるだけで、しかも馬超の方はそれを軽く受け流してる」


黒永に黒希が淡々と言う。

攻撃に移らない馬超だが防戦なりに軽く相手の槍を避け、相手方は肩で息をしている。


「相当な手練れだ。これで宿に戻らずに済みそうだね」


「でもお昼も近いよ?」


「それもそうですね。また後で見物しに参られればよいではありませんか。黒薙様が認めるほどの手練れであれば、決勝まで労することはないでしょうし」


それもそうか、と黒希と黒永に頷いた。

見たところこの大会でそれほどの武芸者など、馬超くらいしか見当たらない。

決勝を見られればいいか。


───────────────────────


「いらっしゃいませ、ご主人さ……ま」


「黒薙様、目が怖いよ」


慌てて言った黒希の言葉で、細めていた目をつむってため息をついた。

なんて店を選んでしまったんだ。

反射的にそう思って目を細めてしまった。

お昼にと店を適当に選んで入ったら、なんだろ、その──未来で言うメイド服みたいなきゃぴきゃぴした──お昼にしようとは思えにくい店に入ってしまったらしい。

というか、この世界からこんな店あっていいのか。

まあ妓楼とかあるからおかしくないのかもしれないけど。


「あ、あの、どうかされましたか?」


接客に来た黒髪の女性がおどおどする。

改めて見ると綺麗な黒髪の、美しい女性だった。

店に慣れていないのか、若干腰が引けてる気がする。

けど、それ以上に。


「……まあ、いいか。三人です」


「あっ。は、はい、三人ですね。どうぞこちらへ」


奥の席へ案内され、席に座ると女性はいそいそと去っていった。


「今日はやけに楽しそうだね、黒薙様。まあ、仕方ないのかもしれないけど」


口を尖らせながらも、黒希も女性の背中を目で追う。


「確かに綺麗な方でしたが」


「黒永はやっぱり、そういう目でしか見れないか」


「な、なんですか。黒希だって」


「あの娘も、かなりの武勇を持ってるよ」


黒永と黒希の言い合いが始まる前に、目をそらして言った。


「あの方がですか?」


「それも相当な腕前だよ。俺の目が間違ってなきゃね」


「たぶん、間違ってないよ。ボクもそう感じたから」


黒希が出された水を飲む。

道中は水を消費しないようにと、あまり飲まなかった。

新しく水を調達しないと。


「お二人で仰るのなら、そうなのでしょうが。しかし、それなら何故このような店に?」


「俺たちと同じ武芸者なんじゃない? 路銀稼ぎだと思うよ」


「ボクたちは前の村で多めに稼いだからね。次の村までは大丈夫なんじゃないかな?」


黒希が卓の中央に置かれた、メニューらしき紙を見る。

さっさと食べないと決勝を見られないかもしれない。

俺と黒永もメニューを見る。

うっ、ちょっと高い。

まあ、こういう店は高いのが相場だし。

余裕はあるけど控えめにしよう。


「炒飯にしようかな」


「では私も」


「ボクも」


「……もう、なんにも言わないけどさ」


苦笑いして、店員を呼んだ。

さっきとは違う店員が来た。

空色の髪を一本細長く結わいた、これも綺麗な女性だった。

じっと見ていたら女性もこちらを見つめてきた。


「ご注文はお決まりでしょうか?」


それでもすぐに微笑みながら訊いてきた。

黒髪の女性と違い、手慣れた感じがする。


「……炒飯を三つ、お願いします」


「かしこまりました、ご主人様」


ご主人様っていうの、やめてもらいたい。


「黒薙様」


黒希がちょっと楽しそうに笑みを浮かべる。


「あの方もですか? 黒薙様と黒希がお認めになるのでしたら、かなりの腕前なのでしょうが」


「ま、手練れがいても実際に見ないとね」


「それでも嬉しそうではないですか」


黒永も嬉しそうに微笑む。


「さっきの大会でちょっと拍子抜けしちゃったからね。それでも、普段で会えても嬉しいけど」


「お話でもしてみますか?」


「いや、いいよ。仕事中だし、大会が終われば明日には発つから。元から大会の見学だけが目的だったし」


にしても、この国はやっぱり広い。

俺よりも強い人なんて沢山いる。


レンゲで炒飯を頬張る。

店の内容に反して、意外に美味しかった。

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