表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋姫無双~黒龍の旅~  作者: forbidden
第四章.黒薙流の継承者
27/36

揺れる気持ち

「……思わず、泊めてもらっちゃったけど。よかったのかな」


「まあ、好意を無下に断ることはない。それに、いい布団で寝られるのだから、泊まらせてもらえるのならそうさせてもらった方がいいさ」


部屋の窓から夕陽が遠くの山に落ちるのを見ながら、姉さんの返事を聞く。

馬岱とは馬超の従姉妹なのだと話したり、旅の話をしたりとしばらく話した。

涼州の風土についても聞けた。

涼州独特の体術があったり、やはり騎馬に優れたりと有意義な話ができた。

その場を後にしようとしたら、馬岱が是非ここに泊まってほしいと申し出てきた。

悩んだけど、姉さんに勧められたのもあって結局好意を受けた。

宿を頼んだ主人には悪いけど、それでも一日分の宿代は払って黒永たちも連れてきた。


「たぶん、寂しいんだろうね。お姉さんみたいに慕ってるみたいだし」


「相変わらず、雛斗は人をよく読む」


寝台に腰掛ける姉さんの前に、椅子に座る。

黒い上着は椅子にかけていて、下に着ていた白い小袖姿だ。

それは姉さんも同じで、でもそれだと姉さんの歳にしては大きい胸が目立って、俺には毒だ。

二人一部屋の三部屋を貸してくれたので俺と姉さん、黒永と黒破、黒慰と黒希と龐統で分かれた。

俺以外の姉さん含めた配下五人でなにやら話し合っていたけど、何故か姉さん以外の四人ががっくりして、姉さんは妙に上機嫌だった。

至極当然というような得意気な顔をしていた。

ちなみに龐統は小さいから黒希と一緒に寝るらしい。

この一晩でも、黒慰と喋れたらいいけど。


「そこへ、姉と慕う馬超を知る雛斗が現れた。それは話も聞きたいだろう」


それがわかっているのか、姉さんは下を向く俺の顔を覗き込んでくる。

話を聞く限り、馬岱は馬超が本当に大好きらしい。

他に馬超の実の妹が二人いて、それも仲がいいらしいけど、やっぱり姉が恋しいらしい。


「まあ、俺も馬岱は嫌いじゃないからいいよ。だけど、いつまでもここにいる訳にはいかないけど」


「おや? 数日は涼州に滞在するのではなかったのか」


「揚州の方が、片を付けそうだから」


谷間の見える胸から、ぷいと視線をそらす。

揚州、と聞いたところで姉さんもすぐに、ああと頷いた。

山越族の反乱が起こったために、揚州から涼州に旅の進路を変更した。

その揚州の反乱が鎮定されようとしているらしいと、黒希が旅人の話を聞いてきた。

黒希も、黒永と同じく情報収集に優れる。

ある城を包囲したというから、反乱の首謀者を押し込めた最終段階に入っている。

そろそろ揚州に足を向けてもいい頃だという事だ。


「馬岱が、止めるのではないかと思うがな」


「どうも、気に入られちゃったみたいだしね」


「気に入られる以上のものを、私は感じるがな」


「そう、かな?」


「……まったく。世の先読みは鋭いくせに、こういうことには疎いんだからな。まあ、そこが可愛いのだが」


小声でそう言うのが聞こえて、首を傾げた。


「まあ、とにかく。長くて三日くらいで出立しよう。馬岱とのことは、近いうちに話すよ。あと、可愛いっていうな」


───────────────────────


長安で情報収集をしていたところ、涼州で宿をやっている知人から真っ黒な服を着た少女の一団が来たという情報が飛び込んできた。

入れ違いになる可能性はあるけど、これを兄さんか姉さんと見ていいと思った。

二人とも、苗字に付いている色には少し拘っていた。

それは私も同じか。

左眼の黒い眼帯をそっと黒薙雛菊は触った。

私は涼州の城に着いていた。

夕陽も落ちる頃のため、通りの人は少なめになっている。

陽が落ちる前でよかった。

砂漠の中、野宿をしたくはなかったし。

すぐに情報を送ってきた知人の宿に入った。


「おお、眼帯のお嬢さん。いつ訪ねて来るかと思いましたよ」


「お嬢さんはやめてくださいよ。柄じゃないです」


苦笑いして扉を閉める。

宿の主人とは、たまたまそこに泊まっていた私が、盗人を捕らえたことで知り合った。


「可愛いんだから素直に受けときなさいよ」


「ま、それはいいとして。例の一団は?」


「非常に言いにくいんですけど、少女の一団は今はここにいないんですよ」


「え。もう出立しちゃったんですか?」


「いや。太守様に招かれたみたいですよ。馬岱様の名前も上がってたし。でも、一泊分のお代を頂いちゃってね。とても聡明な方でしたよ。そういえば、あの方と髪色も髪質もお嬢さんに似てるねぇ」


「黒髪ですか?」


「長い黒髪の少女が二人いましたよ。どちらも瓜二つな顔付きでした」


「二人──ああ、なるほど」


まーた兄さん、女の子に間違えられちゃったか。

まあ、女の私から見ても美少女っぽい顔してるしね。


「なら、宮城にいるのかな」


「たぶんですが。馬岱様と知己ですし、訪ねてみたら如何ですか?」


盗人を捕らえて引き渡しの時、当時警備していた馬岱とは会っていた。

可愛らしい少女だと思うし、気は合った。


「まあ、もう暗くなりますし。今宵はここに一泊させてもらいます」


「宿代はお安くしますよ」


そう言ってくれた主人ににこりと笑った。

明日早朝に宮城を訪ねればいい。


───────────────────────


「えっ。もう行っちゃうの?」


まったくそういうことを予想してなかったらしい、馬岱は露骨に残念そうな顔をした。

馬岱に誘われて夕食を頂いていた。

こういうことは早めに言っておかないと、出発する前に言うのではあちらとしては色々な準備もできないだろうし、失礼に値すると思う。

もちろん夕食は俺の配下と姉さんもいた。

馬休や馬鉄といった馬超の妹は仕事に行っているらしい。


「とはいえ、あと三日は滞在するつもりですが」


「三日なんて言わないでよっ。お姉様が帰ってくるまでいてくれていいんだから」


「いや、そこまでいてはお仕事の邪魔になりますし」


苦笑いして汁物を啜る。

ううん、ここまで好意を持たれているとは思わなかった。

あながち、さっき姉さんの呟いていたことは間違いじゃないかな。


「それに、仮にも旅の者ですので。足を使わないでいるのは、どうも気になって仕方ありません」


「で、でも〜」


「お気持ちは大変ありがたいのですが。馬超殿も、そのうち帰って来られましょう」


ショボンとした馬岱には悪いけど、まだ一所に収まろうとは思わない。

ゆっくり過ごしたいとは思うけど、まだ天下には見るべき士は多くいる。


「姉さん。なんか、懐かしいものを感じるんだけど」


夕食を終えて部屋に戻るとすぐに言った。

もう真っ暗な外を窓から覗くと、街の明かりがぽつぽつと見えた。

酒屋で酒盛りをしているんだろう。


「雛斗もか。私もなんとなく感じてはいるが」


黒い和服の上着を椅子に掛けて、寝台に腰掛ける。

流石に夕食の時は肌の露出は控えてくれた。

けど、弟がいる前でも露出は控えてほしい。

人がいない時にしてよ。


「まさか、とは思うけど」


「ふむ。可能性としてはあり得るな。私たちがここにいることなど、天の悪戯かもしれないからな」


「天の悪戯、か。その悪戯で俺たちの人生が左右されてるんだけどなぁ」


ため息をついて俺も上着を脱いで椅子に掛ける。

姉さんの横に仰向けにどさりと寝台に倒れ込んだ。


「私は別にいいのだがな。こうして、姉弟でいちゃついても何も言われないし」


にやりと笑った姉さんも寝台に背を打って、俺に抱きついてくる。

この時代、近親婚というのはない訳ではないらしい。

エジプトではその血族を強固なものにするため、近親婚は盛んだったらしいし。

前漢という、今と比較的近い時代にもいとこを皇后とした例もあるみたいだ。

とはいえ、実の姉弟の近親婚なんて大昔だとしてもあまり聞いたことがない。


「ね、姉さん。まだ風呂にも入ってないのに」


馬岱は肩を落としながらも、風呂を貸すよと申し出てくれた。

申し訳ないと思うけど、砂漠の埃が酷かったから嬉しい。


それにしても、やっぱり姉さん相手でも気が引けてしまう。

女の子の体に触れるのは、すぐ体が熱くなって苦手だ。

頭の中が真っ白になって、何か酷いことをしてしまうかもしれないと思う。

それが怖い。

もちろん、姉さんは大好きだ。

姉として、異性としてもだ。

大好きだからこそ、色々思い悩んでしまう。

倫理観とか生物学的にとかそういうこともあるけど、どんなことでも姉さんを傷付けたくない。


「風呂に入ったら、良いのだな?」


「俺は何も言ってない」


「言葉にしなくともわかるぞ」


うぐぅ、やっぱり姉さんには敵わない。

その姉さんに惚れてしまっているんだから、もう自分でもどうしようもない。

幸いというか、一線は超えないようにしている。

それは姉さんも気を使っているのかもしれないけど。

姉さんの甘い香りを感じてしまったら、もう引き込まれてる。


「雛斗の匂いは落ち着く。ちょっと父さんに似ている」


胸元にすりすりと頬擦りしてくる。

うぅ、どきどきして止まらない。

こういう甘え上手なのは、母さん似だろうか。


「か、加齢臭はまだ早いと思う」


「いや、加齢臭じゃないから安心しろ」


呆れた目で見上げてきて、でもすぐに姉さんは笑った。

変な事言ったな、と俺も笑ってしまう。

なんで、こんなに優しい目をするかな。

やっぱり甘え上手だ。

みぃ姉には、やっぱり敵わないな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ