新たな仲間
「それで、龐統殿はよいのか?」
俺たちに囲まれて、椅子に座る少女はこくこくと頷いている。
司馬徽の屋敷で会った、龐統というとんがり帽子をかぶった少女だ。
城門で龐統と会ってから、夜になった。
宿に戻って姉さんと、龐統が預かってきたという司馬徽の書簡を読んだ。
それから話し合い、全員集まってから話そうということになった。
話す、というのは龐統のことだ。
「水鏡先生は、学問をして籠っているわたしたちを心配してくださっていました。外に出したい、という気持ちがあっただろうというのは、わたしも朱里ちゃん……諸葛亮ちゃんもわかっていたつもりです」
やっぱり、弱々しい声で言う。
龐統が旅の俺たちに同行をお願いしてきたのだ。
龐統の言った通り、司馬徽が屋敷に籠るだけでなく、外で見聞を広めるのも重要と感じて俺たちを追わせたらしい。
こうして書簡でお願いしてもいる。
「しかし、諸葛亮殿と一緒でなくて良いのか?」
龐統の正面の寝台に一緒に座る姉さんが訊く。
「わたしと諸葛亮ちゃんはいつも一緒に学んでいました。それを離して旅をするのも、他の人たちと関わりを持つのに必要なことと思っているのでしょう」
しっかりしてるな、素直にそう思った。
保護したばかりの黒慰も、当初はこうはいかなかった。
「寂しくないの?」
「寂しくないと言ったら嘘になります。しかし、水鏡先生の配慮を無下にはしたくないですし……」
黒希に言う。
声に力がない辺り、やっぱり寂しいらしい。
龐統を預かることについては、別に否やはなかった。
むしろ、賛成だ。
黒永たちが戻ってくる間に龐統と話し込んだけど、水鏡先生の元で学問に打ち込んでいたのもあるだろうけど、姉さんも驚くほど博識だった。
それは黒永たちにいい影響を与えるはずだ。
姉さんを見ると、姉さんもこちらを見てきた。
それでもう決まったようなものだ。
「聞いておきたいことが、いくつかある」
俺が口を開くのに、みんなの視線を集める。
どうも、こういうのにはなれない。
「この乱れた世だ。賊が少なくない。道なき道を進むこともある。他にも道中に危険なことはいくつもある」
「承知の上です」
「旅の生活も簡単なものではない。寒空の下、屋根もなく寝ることも多々ある。もちろん、食事も満足に食べられることの方が少ないだろう」
「我慢します」
質問の意図がわかったらしい龐統が、堅い表情で答えていく。
「最後だ。龐統殿は、私たちに何ができる?」
「学問においては誰にも負けません。学問は、旅に不要でしょうか?」
ここまでちゃんと答えられれば、心配することはないか。
「まさか。学問が与えてくれるものは、多いと思う」
頬を緩ませると、龐統の頬が赤らんだ。
ちょっと首を傾げるけど、気にしなくていいか。
「龐統殿を連れていくことに、反対の者はいるか?」
黒永たちに訊くけど、最初から拒むつもりはなかったらしい。
みんな、無言で微笑んでいる。
「よし。これから龐統殿は私たちの旅仲間だ。改めて、私は性を黒、名を薙。黒薙という」
「あわわっ。わ、わたしは龐統、字を士元といいます。よろしくお願いします!」
それから、みんなを龐統に紹介した。
黒慰は関わりにくそうな表情をしていたけど、まあ、そのうち慣れるだろう。
「黒薙様はああやってお堅い言葉選んでるけど、ほんとは優しいし守ってくれるよ」
「うるさいっ。黒希」
耳打ちする黒希に言ってやるけど、気にした様子はない。
こうして、新しい仲間が増えた。




