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恋姫無双~黒龍の旅~  作者: forbidden
第零章.はじまり
1/36

プロローグ

一面、桃色だった。

この中にいると、なにか温かい。

花びらが散り、陽の光を反射して、俺の纏っている土埃避けの黒い布にくっつき、しかしそれを払おうとも思わない。


「桃か……」


ぽつりと呟く。

黒い布についた花びらは、そこだけ白いように見える。

どこかに座ってお茶でもしたい気分だ──だけど、今はそんな雰囲気ではない。


「出てきたらどうだ?」


俺の声が桃の世界に、そして近くの木から男たちが現れる。


「武芸者かぁ? ここは俺たちの縄張りでなぁ」


賊か。

なら、その次の言葉を聞くまでもない。

次の瞬間、五人ばかりの首が飛んでいた。


「はあ……。お腹、空いたなぁ」


それに、お茶をしようにもお茶がない。

黒い刀身についた血を振って払い、鞘に納める。

俺の武芸も、これ以外に使うことはないのかなぁ。

馬が欲しいし、飯も欲しいし……はあ。


「風呂も入りたいし。どっかでお金貯めないとねぇ、お金」


世の中、どこもかしこもお金か。

経済を整えるため、致し方ないとはいえ。

賊も蔓延るし、つまらない世になったもんだねぇ。

いや、つまらないというより、くだらないというべきか。


「この近くの村は──洛陽から出て、だいぶ歩いたなぁ。あー故郷が恋しい……いや、ホントの故郷に、ホントに戻れるのかな」


「黒薙様。そのようなことを仰らないでください」


不意に背中に、少し鋭い声がかかった。

いや、不意でもない。

わかっていた。

俺の背後に気配なく、付き従っていた。

俺と同じく布をまとった人が二人。


「大丈夫。その時が来るまでは、ずっとこの世界にいるつもりだよ。黒永」


「はっ。下らぬ戯れ言を申しました」


「こっちこそ、ゴメンね。まともな食事もさせてやれなくて」


首と胴が離れた賊の死体を無視して、埃避けの布を頭に深くかぶり直して歩き始める。

元はおそらく民とはいえ、そちらに手を染めた者に情けなどいらない。

悔やむべきはこの美しい桃の世界の景観を損ねてしまったことか。

二人も後ろをついてくる。


「私の命、黒薙様に捧げると誓いました。どのような場所でも、一生ついていきます」


「やれやれ、ボクはいらなかったかな?」


肩をすくめる黒永以外のもう一人。


「俺には、黒希も必要だよ。そんなこと言わないでよ」


「ちょっと拗ねてみただけ。たとえ嫌われようと、ボクもついていくから。黒薙様」


布から両肩に覗かせる茶髪が揺れる。


「ありがと。村に着いたら、お金を集めよう」


「「御意に」」


この黒薙、いつかこの武をよき人のために使える日がくるのか。

それが叶わない時には、どうしたものか──。

右腰の黒い刀を見て、ため息をついてから前を見る。

お腹が空いて仕方ないけど、頭を振って意識をはっきりさせて歩く。


旅はたぶん、まだまだ続く。

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