素敵なご褒美
日差しがきつくなってきたなぁ・・・。
あたしは庭園の掃除をしながら雲一つないクリアな青空を眺めた。
季節はもう夏。
なんだかんだで明日でちょうど3か月だ。
日が経つのって早いなぁ。と季節が変わるのを肌で感じながらしみじみ実感する。
3か月も経つとこの仕事にもだいぶ慣れてきた。
豪邸の中でも迷子にならなくなってきたし、仕事の要領も分かってきた。
ただ専属の仕事はまだまだだけどね。
相変わらず響に振り回される毎日。けど日々少しずつは成長していけてるかなぁ。
そういえばあの前のメイドさんが書いてた響の攻略本は読むのをやめた。
自分の目で響のこと知っていきたいって思ったし、そうしないと自分自身も成長していけないように感じた。
これからはあたしの心にある真っさらなノートに響のこと書き込んでいこうって思う。
「凜ちゃん、ちょっといい??」
あたしとおそろいのメイド麦わら帽子をかぶった凜さんが向こうからやってきた。
ちなみにこの麦わら帽子にはカチューシャと同じように白いフリルが付いてる。
こんな帽子初めて見た。さすがメイド専門ショップの商品。
「どうしたんですか?」
「あのねキャロちゃん明日でちょうど三か月よね?勤めてから三か月経った子には素敵なご褒美があるの。」
ご褒美???
あたしの目が自然とキラキラになる。
「何ですか??」
「実はね、使用人専用寮に入居する資格を得られるのよ」
「へ~!」
それは意外なご褒美だった。
「一人暮らししてるキャロちゃんにはとても嬉しいことじゃないかしら。月々の料金は二万円ぽっきり。それで普通のマンションみたいな場所に住めるのよ。こんなおいしい話が他にあるかしら。ちなみに私もここの3階に住ませていただいてるのよ。」
と凜さんはまるでマンション販売員みたいな口調で勧めてくる。
でも確かにすごく助かるかも!!
一人暮らししてるとお金けっこう飛んでいくからなぁ。
「どんな部屋か試しに見てみる?」
「はい!ぜひ」
今日初めて知ったんだけど使用人専用の建物の2階から上が寮なんだって。4階建ての建物で、一階より上はどうなってるんだろうって疑問には思ってたんだけど寮だったんだ。
「わぁ・・・あたしの部屋よりだんぜん綺麗で広いー!」
オフホワイトを基調とした安らぎのある色味の部屋。
テレビ、ベッドなど必要なものは全部そろってるし、冷暖房完備もばっちし。
「凜ちゃん決まり??」
「はい!決まりです!!」
あたしは目の前のおいしい話に速攻で飛びついた。
だが・・
この後あたしは安易に決めるんじゃなかったーとすご~く後悔するんだけどね・・
でもこのときの有頂天なあたしは気付くはずもなかった・・・。
それから数日経って、あたしは紅咲家使用人専用寮に引っ越してきた。
この寮は豪邸の裏手にあって、ちょうどそこは裏庭の中なので、木々や花にに囲まれ自然の中に建っている感じで素敵なんだ。よくある四角いマンションみたいな感じじゃなく豪邸のミニバージョンみたいな感じで小さいお城みたい。
あたしの部屋は二階でベランダに立つとちょうど裏庭の真ん中にある噴水を眺められて素敵な気分になれる。
引っ越しの整理を終えてあたしはベランダに立ち『う~ん!』と腕を伸ばした。今日はちなみに土曜日だから仕事は休みだ。
今日は特に予定入れてないんだけど、どこか出掛けようかなぁ。
とベランダから部屋に戻ろうとした瞬間、
「おい、キャロ」
ととあたしの名前を呼ぶ声が外から聞こえた。
ベランダから外を見てみるとすぐ真下に響がいた!こっちを見上げてる。
「え!?響様???」
「ちょっと降りて来いよ。話がある」
「は、はい」
えー何だろ???
休日だから今日はメイド服着てないし、なんか変な感じするなぁ。
今日はめちゃラフなミントグリーンのTシャツとデニム生地のショートパンツスタイル。
急ぎ足で寮を出ると・・
「今日越してきたんだな。」
「はい、今日からこちらでお世話になります。」
「ところでおまえさ、寮入居に関する契約書、ちゃんと読んだか?」
「契約書・・ですか?」
えっ何それ、そんなのあったっけ??
と思い返してみると・・
そういえば何かの紙にサインして印鑑を押したけどもしかしてその紙かなぁ??
けど凜さんに急かされたのもあって、特に目を通さなかったな。
「あの実はちゃんと読んでないです・・」
「おまえのことだからそうじゃないかと思ったよ。しょうがねーからオレが教えてやるよ。
契約書にはこう書かれてる。『使用人寮に入居する者は、平日、休日に関わらずどの時間帯でも専属の主人が緊急を要する場合、出動しなければならない。』ってな」
「えー!」とあたしは目を丸くして驚いた。
ウソ~~~~~!
そんなの聞いてないよ!ってかちゃんと読まなかったあたしが悪いんだけど。でもでもそんな殺生な~~!
「月々低料金でこんないい暮らしが簡単にできるわけねーだろ。甘いんだよおまえは」
とさもバカにした様な表情で言い放つ。
「うっ・・まぁ確かにそう言われるとそうですが・・」
「今までは凜がその係だったんだけど、今日からおまえも仲間に入るからあいつは楽になるだろうな。」
そ・・・そういうことか~!!
だから凜さん、あんなに寮住むこと勧めてきたんだー。
うわぁやられたなこれは。
でもさ、緊急を要する場合って書いてあるみたいだし、そんな緊急を要することなんてめったに・・・と目の前にいる響を見つめる。
「あ?」
いや、響のことだ!色々理由つけてコキ使われそう・・・
はぁ~と思わずため息が出た。
完全に早まりましたな、これは。
「おまえ後悔してんだろ?」と目を細めてこっちを見据えてくる。
ぎくっ 鋭いな。
「おれはよく緊急を要することがあるからな。覚悟してろよ。」
と意地悪く笑う。
うう・・・雇われ人のプライベートが~~~。
何か対策考えないとな・・。
「ところで今日はそれを言いにわざわざ?」
「今からバイトだから通り道に立ち寄っただけだ。おれもそんな暇人じゃねーよ。んじゃーな。」
今からバイトね・・・
そのときあたしはいいことを思いついた。いたずらを思いついた子供みたいな感じで。
そうだ!後をつけてやろう!!
ご主人様のバイト先を知っておくのも専属メイドの勤めだよね☆
よしっ見つからないように少し距離を保って・・
「わっ!!」
「ふぎゃっ!」
イキナリ後ろから大きな声と背中を押されてあたしは心臓がびくんと飛び上がった。
びっくり眼のまま後ろを振り向くと・・
「キャロ、なーにしてんのっ?」と無邪気な笑顔。
「鳴ちゃん!!」
「後ろから見てたけどなんかコソコソしててかなり怪しいよ?」
「あっははは・・・実は・・」
とあたしは響を尾行してバイト先に行ってみようとしていることを打ち明けた。
「マジ?おもしろそうじゃーん。おれも行く!」
「えっ大丈夫ですか?用事あるんじゃ?」
「いいのいいの、たいした用事じゃないし、こっちのがおもしろそうだから☆」
「それじゃあ・・・行きますか!」
「いえっさー♪」
あっそうしている間にも響との距離がかなり離れてしまった。見失わないように急がなくちゃ!
「よーしレッツゴー!」
「ゴ~♪」
こうして響尾行大作戦が始まったのだった。
無事響のバイト先のカフェに着くと10人くらいの女性客が並んでいた。
カフェの名前は『ホワイトラビット』。扉の横に白の2匹の可愛らしいウサギのオーナメントがウェルカムボードを支えている。
響がこんな可愛らしいお店をバイト先に選んだのはなんとなく意外な感じがした。
あたしののイメージではもっとシンプルなホテルのレストランカフェみたいなところを想像してたからだ。
とりあえずあたしと鳴ちゃんは女性客の後ろに並んでみた
そしたら・・。
「早くあのウェイターさんに会いたいねー」
「こんな毎週来てたら顔覚えてくれないかなー」などの会話が前から聞こえてきた。
あたしは思わず鳴ちゃんと顔を見合わす。
「予想通り響目当てのお客さんが多いみたいだね」
と小声でヒソヒソ話す。
響がここに勤めてもう2か月以上経ってるし響目当ての固定客もかなり出来てきたんじゃないかな。
ってかこんな言い方するとホストクラブみたいに聞こえちゃうよね。
「おれのクラスの女子も騒いでたよ。イケメンのウェイターがいるって。なんかファンクラブでも出来そうな勢いだったし。みんなあいつの本性知らないからな~。」とおもしろくなさそうな顔をする鳴ちゃん。
「うんうん。」
そんな会話をしてるうちにあたしたちの順番が来た。
わぁ!いよいよだ。
何か変な緊張が走る。
あたしと鳴ちゃんがお店の中に入ると、レジのところにいた女のウェイトレスさんが窓際の一番奥の席に案内してくれた。「新規二名様入りましたー」とカウンターの奥に向かって伝えている。
あれ??響は??キョロキョロ・・・いた!
今まさにカウンターの奥から片手に水やおしぼりを乗せたトレイを持ってこっちにやってきた。
最初笑みを浮かべながらこっちに向かってやって来たんだけど、あたしたちに気付いた瞬間驚きの表情になり、一瞬ムッとした顔になったけど、また最初の笑みに戻る。でも最初の笑みと違って笑顔の奥に怒りを押し殺しているようなそんな笑みだった。
「・・・来んなって言っただろーが・・ってか鳴まで連れてきやがって」開口一番、トゲトゲの言葉が上から降ってきた。
わぁ・・怒ってる怒ってる。
予想通りの反応だ。
「ちょっと、おれたち今客なんだけど。客にそんなこと言っていいわけ~?」と鳴ちゃんはヒョウヒョウとした態度で強気だ。
「・・・っ」さすがの響も無言になる。
「ほらちゃんとメニュー聞いてよ。営業スマイルで」
なんかいつもと立場が逆転してるー!
今は鳴ちゃんが上みたい。
まるで日頃の恨みをはらすかのように鳴ちゃんはここぞとばかりに響に意地悪な言い方をする。
完全にピキッと青筋が響の頭に入っているように見えたけど、怒りを押し殺し無表情で
「何になさいますか?」とほとんど棒読みのように言った。
「えっとね~おれはキャラメルプリンパフェ♪」
「あたしはイチゴヨーグルトパフェでお願いします」
「・・・かしこまりました。少々お待ちください」と無表情のまま去って行こうとした。
その瞬間に
「響様、制服すごくカッコいいですね。」
とあたしが声を掛けたら、こっちをじろっと見て、目だけで「うるせー」と返された。たぶん合ってる。
響の制服は白のシャツに黒のベストに黒のズボン。そして首に黒の蝶ネクタイをしている。
喋らなかったらほんとカッコよくて素敵なんだけどなぁ・・。
周りを見渡してみると女性客のほとんどが響の方に視線を送っている。
「やっぱり響様はモテるんですね」
「まぁあの容姿だし、外面だけはいいからな~」
確かに・・・あたしたち以外には家では見たことのない爽やかかつ魅力的な笑顔で接している。口調も優しいし。
あれで来られたらイチコロになっちゃうかもね・・。
そのとき女性のウェイトレスさんがパフェを持ってきてくれた。
わぁおいしそう!!
さっそくパフェを二人で食べ始める。
「けど鳴ちゃんもモテるでしょう?鳴ちゃんは性格も優しいし、響様よりモテそうですね」
「うーんまぁ、よく告白はされるよ。昔は嬉しかったけど今は正直迷惑な時もあるな。」
「そうなんですか?」
「だっておれの容姿だけ見て好きになられても嬉しくないよ」
「容姿だけではないと思いますよ?」
「ありがとキャロ。そのパフェもおいしそう。ちょっとちょうだい♪あーん」
「また鳴ちゃんは~っ」
あたしはこれと同じような状況が近い過去にあったことを瞬時に思い出した。そしてその後どうなったかも・・。嫌な予感がふつふつ湧いてくる。
「また響様に見られたら何て言われるか・・。」とあたしが言うと鳴ちゃんはあーんの姿勢はやめてにっこり笑い、
「響はキャロのこと随分気に入ってるみたいだね」と言った。
「そうでしょうか・・?」全くそんな風には思えないけど・・。
「だって前のメイドのときとは全然違うし。まぁ前のときは響が選んだわけじゃなかったから合わなかったっていうのもあったかもだけど。」
そっか、高校卒業までは旦那様がメイドを選ぶって言ってたっけ。
じゃああたしが響が選んだ初めてのメイドになるってことか・・
「どしたの?急に目を輝かせちゃって」
「え??そ、そんなことないですよ。」
なんだろ・・少し嬉しい気持ちになってる。
鳴ちゃんは少し真剣な表情になって、こんな話を始めた。
「響はさ、ある時からあまり人に対して興味持ったり固執するようなことがなくなったんだ。簡単に言うと人に対して冷めてるというか。だからこの前おれが病気したときのあのキャロに対しての態度見て驚いた。なんか久々だった。あんな響見るのは。」
「そうだったんですか・・」
鳴ちゃんの話の中で『ある時から』っていう表現が気になった。過去に何かあったんだろうか・・。
「あんまり響のことベラベラ喋ったら怒られるからさ、今のはキャロの胸に留めといて」
「はい。分かりました」
気になるところはあったけど、今はこの話は終了みたいな雰囲気になってるから、また今度機会があれば踏み込んで聞いてみよう。
あっ隣の席に響がスイーツを運んできた。
「キャロ、はいっ」
「えっ」
パクっ
びっくりした!目の前にスプーンを持ってこられて反射的に口に入れちゃった!!
キャラメルプリンの味が口に広がる。おいしい!
じーーーーーーーーーーっ
ん?視線を感じる・・・
「!!」
響がこっちをすっごく不機嫌そうに見てる!
ヤバい今の見てたんだ・・・
そしてあたしの方に近付いて来て青ざめてるあたしの耳元でささやくように言った。
「オレ今日5時で上がりだから迎えに来い。隣の公園で待ってろ」
「わ・・分かりました」
そうして響が去って行くと、鳴ちゃんがクスクス笑いだした。
「ほんっと響って分かりやすいね。あーおもしろ」
「鳴ちゃん今のわざとですね・・。日頃の恨みはらすのにあたしを使わないでください!」
「あっバレてた?」
「バレバレです!!」
あーまた前みたいに色々言われるんだろな・・
メイドの分際で~って。
心の準備だけしておこーっと。
「はぁ~楽しかった。キャロとカフェデート出来たし、響の面白い姿も見れたし。また行こうね~♪」
と鳴ちゃんは自分の用事をしに去って行った。
もう鳴ちゃんのイタズラのせいで帰れなくなったじゃーん!
今日は仕事休みなのに・・。最悪。
とりあえず後2時間ぐらいで5時だから、買い物でもして気分を紛らわそうとカフェの近くにあるショッピングセンターに時間を潰しに行った。
そして5時になった。
今あたしがいるこの公園はそんなに広くなく、真ん中に噴水がありそれを囲むようにベンチがある。
とてもシンプルな公園だ。
ベンチに座り、空を仰いだ。
夕方と言ってもまだ明るい。だいぶ日が長くなったなぁ。
夏だよねえ・・・
「何ほうけた顔してんだよ。口半開きでだらしねー」
とドサっとあたしの横に腰掛ける響。
あわわっとあたしは急いで姿勢を戻す。
「お疲れ様です」
「おう・・・ってかさおまえ、今日何しに来たわけ?」とこっちを見ずに不機嫌そうに言う。
「響様がどんな風にバイトしてるか気になって・・」
「ふーん。おれには鳴と仲いいとこを見せつけに来たようにしか見えなかったけどな。」
うっ怒ってる・・口調は冷静だけど言葉にトゲがある。
「違います!あれは鳴ちゃんのイタズラっていうか、嫌がらせ?っていうか」
「もういい。今日はやけに疲れた・・肩貸せよ」
えっ・・?
ストンっとあたしの右肩に体重がかかる。
そっちを見ると響の頭があった。
この状況は一体どうなってるの??
急に心臓がうるさくなってきた。
響の髪から香る香水のようないい匂いが余計あたしの平常心を乱していく。
ダメだ、クラクラしてきた。
「響様・・」
「仕事以外のときはその呼び方やめろ」
「で、では何て呼べば・・?」
「響」
えー!呼び捨て???
あたしは意外な響の言葉にさらにドキドキが増す。
「で、でも・・」
「敬語もやめろ」
「そ、そんな・・・いきなり」
「いいから。これも命令だ。いいな?」
「・・・はい」
「じゃねーだろ」
「・・・うん」
「それでいい。」
どういうことなんだろ・・。
あたしの頭はパニック状態。
だけどもしかして勘違いじゃなかったら、あたしたちの距離が急激に近付いていってる・・??
あたしたちはしばらくそのまま何も話さずベンチに座っていた。
まるで時間が止まっているような感覚。
とても静かで穏やかな空気。
だけどあたしの心臓はなかなか穏やかにはならなかった。
「・・少し楽になった。んじゃ帰るか」
と立ち上がってこっちを見る。
「うん」
響に対してタメ口で話せる時が来るなんて思ってもみなかった。
仕事以外の時だけとは言え、慣れるまで時間がかかりそうだな。
だからこんな風に話せる時間があるときにいっぱい練習しておこうって思った。
「今日カフェ行ったら、女性客のほとんどが響目当てで来てたよ。」
「ふーん。そういや店長にも同じこと言われた。だからなるべくシフト増やしてほしいって」
「へ~!響すごいね!」
「全然すごかねーよ。それってオレの力じゃねーし」
「容姿に関してはそうかもしれないけど、でも響、接客上手だったじゃん。それは響の力だよ。ちゃんと頑張ってる」
「・・・・」
急に黙るから響の方を見上げると、響はふいっとそっぽ向いた。
もしかして褒められるのが苦手なのかな。
もっと素直に喜べばいいのに。
変なところでシャイなんだから。
「そういえば大学はもうすぐ夏休みだよね。いいなぁ。大学の夏休みって長いから色々楽しみだね。」
「まぁな。登山の合宿もあるし、それは楽しみにしてる」
「登山??」
「そっオレ登山サークルに入った。小さい山にはもう何回か登ってる。体鍛えられるし、達成感味わえるし、こんないいサークルは他にはねーって思ってる。」
そう語る響は今まで見たことない強い眼差しをしていた。
いつも冷めてるような響にも熱くなれるものがあるんだ・・・。
また新たな一面を発見したな。
「そっか・・大学でしか味わえない楽しみって今だけだし、今のうちにたくさん味わってね。」とあたしが言った途端、響の表情が一変した。
ムっとした表情になっている。
「おい・・・今おまえ年上面しただろ?」
えっもしかしてあたし今響の怒りスイッチに触れちゃった???
「そんなつもりは・・」
と言いながら確かにさっきのは大学を経験した者としてのアドバイス的な発言だったかもと思い返す。
それはマズかったのか!
「おまえに年上ぶられると妙にムカつくんだよなー」
「ごめん・・」
「反省したならいいんだよ」
う~やっぱ響って難しい。ここまでなら良くてここからはダメな基準がいまいち分からない。
そうこうしているうちに家に到着した。
「そんじゃ~な」
「うん。また月曜日に」
ふー色んな意味で今日は疲れたなぁ・・・。
と寮に入ろうとした瞬間自動車のエンジン音が聞こえた。
裏庭の端にある駐車場スペースにシルバーの見るからに高そうな車が今入って行く。
あたしは気になって駐車場に近づいて行った。