今日からメイド☆
「ここがメイドの休憩室でロッカーも完備してるから、朝ここで着替えて担当のご主人様の部屋に行ってね」
今日はメイド初日、紅咲家に辿り着くと、前に案内してくれたメイドの女性が前と同じように玄関のところに現われて、今色々教えてもらっている。
この女性の名前は雪原凜さん。26歳でメイドのリーダーらしい。
面接のときはわからなかったけど、使用人専用の建物が紅咲家、豪邸の裏手に建っていて、裏門から入ると近いので、使用人の人たちはそこから出入りするんだって。
「あの、担当のご主人様というのはどういうことでしょうか?」
あたしは疑問に思ったことを質問した。
「えっ・・あなたまさか仕事内容について何も聞かされてないの?」
と驚いた表情を見せる凜さん。
「はい・・」
「そう・・あのぼっちゃんのことだからわざと言わなかったのね・・」
「?」
「ああごめんなさい独り言ゆって。ここでのメイドの仕事なんだけど、
この紅咲家には息子が4人いてね、それぞれ専属のメイドが付くようになってるのね。」
「えっそうなんですか?!せ、専属・・」
あたしの中で嫌な予感が沸々と湧き上がり始める。
「上から長男の紫音様、次男の拓斗様、三男の響様、四男の鳴様がいらっしゃって、あなたは三男の響様の専属メイドとして身の回りのお世話などするのが仕事よ。」
「それってこの前の面接してくれた人ですか・・?」とあたしは恐る恐る聞くと
「そうよ、響様はあなたも感じたかもしれないけど、少し難しいところがあるのよね・・でもめげずに頑張って」
と凜さんは少し同情の表情で励ましてくれた。
はぁ・・・まさかの展開だわ・・
「わからないことがあれば何でも聞いてね。あたしは誰の専属も持ってなくてこのお屋敷の掃除や、メイドたちの相談役をしているから。」
唯一の救いは凜さんがとても親しみやすくていい人だというところかもしれない。
「ところで他のメイドさんたちは?」
「それぞれのご主人様に合わせて出勤するから時間帯がバラバラになるのよね。紫苑様はお父様の会社で勤めていらっしゃるから、けっこう朝早くからお世話しないといけないし・・・」
「ああそういうことなんですね。」
「響様はこの4月から大学一回生になるので入学式まではまだ休みなの。
それぞれの毎日のスケジュールはご主人様から聞いて調節してね。
ただどんな日でも最低9時には出勤するようにして、朝手が空いてるようなら私の仕事とか手伝ってね」
「はい!わかりました。」
「それじゃ響様のお部屋に案内するわね」
響は大学生だったんだ・・
どうりで若く見えたはずだ
ってか専属メイドって!!それもあの面接のときの俺様男の・・
ヤバいぃー なんか前途多難だなぁ・・
それにしても・・迷路みたい・・
方向音痴のあたしにはこの広さは厳しいものがあるなぁ。
響の部屋は二回の一番奥だった。
まだわかりやすくてよかったけど、
なんせ部屋数が多いし廊下も四方八方に分岐してるから一歩間違えば
迷子になりそう。
コンコンと凜さんはドアをノックし、3秒ほど待ってからドアノブをひねって開ける。
「響様、おはようございます。」
「あーおはよ。」
今、朝の10時を回ったところで、響は黒の座り心地がよさそうなフカフカのソファに座ってコーヒーを飲みながらテレビを見ている様だった。
なんとなくだるそうな感じで首だけこちらに向けている。
うわぁ・・広い部屋。20畳ぐらいはありそう・・・
あたしの部屋の4倍だわ。
「今日から響様の専属になる春風キャロさんを連れてきました。」
「りょーかい。んじゃ置いてって。凜はもういいよ。」
「畏まりました。それでは後よろしくお願いします。」と凜さんは
一礼し、あたしに目で「頑張って」と視線を送り部屋を後にした。
急に二人になったのでいっきに不安が押し寄せてくる。
ひぇー・・どうしよう・・あのとき以来だからなんか
居心地悪いというか・・・
あたしがとまどって突っ立っていると
「来たんだね、採用されて驚いた?」
とこっちを見ずテレビの方を見ながら話しかけてきた。
「は・・はい。あたしあんなことゆってしまいましたし・・」
「だからだよ」と手にしたコーヒーを机に置き、立ち上がって
あたしの方に歩いてくる。
「え?」
あたしのすぐ目の前で見下ろすというより見下すような表情であたしを
見据える。
細身ですらっとした体型なのに何でこんな威圧感を感じるんだろ・・
きっと俺様オーラが強いんだわ。
「一人一人を見ろとおまえは言った。だから見てやるよ。」
「!!」
「けど見てやっぱダメだと思ったらすぐクービ!・・だからな」
と意地悪そうな顔をして笑みを浮かべる。
はぁーと溜息をついて「わかりました・・頑張ります」と
観念したように言ったのだった。
うう・・・負けるもんか
はぁ~
ただいま休憩中。
響はさっき用事があると言って出掛けて行った。
なんか緊張してどっと疲れたぁ・・
専属といってもずっと付きっきりというわけではなくて、響が出掛けてるときに部屋を掃除したり、屋敷にいるときでも用があれば持たせてもらったメイド専用の携帯に連絡が来て呼ぶ、みたいな形らしい。
なので呼ばれないときは凜さんの手伝いしたりして過ごすんだって。
今お昼休憩に一時間もらってるんだけど、しばらくして一人メイドが入ってきた。
「お疲れ様です。今日からここで働かせてもらうことになった春風キャロといいます。」と立ち上がって挨拶すると
「聞いてますよ。私は水無月可憐と申します。鳴様の専属でございます。」
なんとも丁寧で、まるで旅館の女将さんのような話し方をする人だなと思った。
年も凜さんより年上な感じで落ち着いていてすごく優しい雰囲気を持っている。綺麗で艶のある黒髪をアップにしていて大人っぽい。
「慣れるまで大変でしょうが頑張ってくださいね」
と優しく笑いかけてくれた。
「はい。ありがとうございます!」
はぁ~なんか癒される~~。
そういえば・・
あたしはふと思ったことを聞いてみた。
「この制服なんですけど、みなさん微妙にデザイン違ってますよね?」
そうなのだ。今日朝、メイド服を支給されたんだけど、凜さんのと、今発覚した可憐さんともそれぞれデザインが異なっている。
「この制服はそれぞれのご主人さまがメイド服専用ショップで選んでくださっているの。一緒だと見分けがつかなくて不便なときがあるからってことらしいんです。」
へー・・・響のセンスなんだ・・
あたしの制服は肩のところがパフ袖になっていて、
ワンピースのスカート部分はバルーン型になっていて少し年齢が
若い子向けに思える。悔しいけどけっこう可愛くて気に入った。
「キャロさんの制服かわいらしいですね。とってもよく似合ってますよ」
「ありがとうございます。可憐さんのは大人っぽくて可憐さんにぴったりですね。」
「まぁありがとうございます。」
とお互いの制服を褒めあって、休憩時間を和やかに過ごした。
このまま平和に一日を終えたいなぁ。
という考えはとても甘かったみたい・・・
夕方屋敷の掃除をしているとふいに携帯が鳴り始めた。
ピロロロロ・・・
「はい」
「今戻った。なんか飲み物持ってきて」
「わかりました。」
この流れだと何の飲み物にしようってすごく悩むと思うじゃない?
それが、とっておきの攻略本をもらいまして・・・
実は朝、凜さんから前に響の専属をしていたメイドが記録してくれていた響攻略ノートをもらいまして。
このノートすごいの。例えば季節によって響が好む飲み物とかも
きっちり記録してくれてるんだよね。
これを大いに活用してうまくやらなくっちゃ!
さっそくそのノートに則ってハーブティーを持って行くと・・
「今ハーブティーの気分じゃないんだけど。コーヒー持ってきて。
ってかさ先にちゃんと何が飲みたいか聞けよ。基本だろーが。」
と思いっきり冷ややかな目・・・
「・・・すみません・・」
ノートが全てじゃないみたい・・ってよく考えたらそうだよねえ
あ~あたしバカだわ
「はぁ~もう飲み物は後でいい。疲れたからマッサージして」
「へっ??」
マ、マッサージ??
「それもメイドの仕事なんですか・・?」
「は?当たり前だろ。」
と例のごとくあたしを冷ややかな目で見下ろしこう言った。
「『専属』なんだから。ご主人様の命令には『絶対』なんだよ」
「!!」
ひぃぃぃ!!俺様出たぁ! 怖いよー(涙)
「ほら早く肩揉めよ、能無しメイド」
「・・・」
専属メイドって恐ろしい仕事なのかもしれない
あたしはこのとき初めて悟ったのだった・・