波乱の予感?!
9月に入って何日か経ち、みんなそれぞれ学校が始まった。
そうそう8月の終りにやっと(今頃?!って感じだけど)旦那様と奥様に会うことができた。
遅い夏休みを取られたみたいで、二人でこの前行けなかった別荘に出掛けて行った。そして戻られたときにちょうどあたしが庭に出ていて会うことができた。
二人とも社会でバリバリ働いてるだけあって、若々しいんだよね。
奥様はエステを経営されてるだけあって肌が超綺麗で、気品があって女優さんみたいだった。響と鳴ちゃんはお母さん似みたい。
旦那様はとても聡明そうな感じでしっかりしてるんだけど、話すと穏やかでびっくりした。紫音さんと拓斗さんはお父さん似で性格も似てるかも。
凜さんからあたしのこと聞いてるって言ってたな。
これからも響のことよろしくお願いしますって奥様に言われた。
なんとなく心が引き締まった気分。
ご両親に頼まれたからにはもっと頑張らなくちゃなって。
「そういや今日から鳴くんの家庭教師来るんでしょ~。どんな人だろうねぇ」と瑠々ちゃん。
今日は朝から一緒に同じ場所を掃除してる。
「旦那様が選んだなら、ちゃんとした人が来そうだけど」
「いや、なんか家庭教師の派遣会社に頼んだっぽいから、わっかんないよ~。とんでもない奴が来たりして~♪」
と瑠々さんはちょっと楽しそう。
「そうなんだ。じゃあちょっと楽しみだね」
「うん!今日の5時に来るってゆってたから顔見に行ってみようっと」
へー。あたしも気になるし、あいさつでもしに行こうかしら。
そうして5時になった。
玄関に現われたのは・・・
「初めまして、今日からこちらでお世話になる月野風人です。」
中性的な感じの男の子がひっそりと立っている。パッと見、女性にも見えるけど背がけっこう高いからそこで判断するような感じ。
襟足がサイドより少し長くてやや長髪の黒髪。
目にカラコンを入れてるんだろうか、緑がかった瞳をしてて少し狐目。
服装なんだけどビジュアル系の人が着てるような服装をしてる。
白のシャツに黒の細いネクタイをしてクロスのネックスをしてる。下は細身の黒いパンツにショート丈の黒いブーツ。
響もたまに似たようなカッコしてるときあるけど、雰囲気が全然違う。
この人はどことなく影があるような雰囲気・・。
またやけに個性的な人が来たなぁ・・。
隣にいる瑠々ちゃんもちょっとあっけにとられてる。
「あの・・」とじろじろ見つめるあたしたちにとまどうような顔をして話し掛けてくる。
「あっ、そうだね、キャロ案内してあげて!」
あー瑠々ちゃんあたしに振ったなぁ!
恨みがましい目で瑠々ちゃんを見ると、わざとらしくそっぽ向いた。
もう!ズルいんだから。
「どうぞ、上がってください」
鳴ちゃんの専属でもないあたしが案内することになった。
可憐さんは今日は用事あるとかで早めに帰ったんだよね。
それにしても、なんか独特なオーラがある人だ。
静かで響みたいに俺様な威圧感もないのに存在の強さを感じさせるというか。
影のオーラかしら・・。
ってあたし初めて会った人に対して失礼だよね。
「月野さんは今大学生なんですよね」
「はい、二年生です」
響の一つ上かぁ。話し方からはしっかりした印象を受ける。きっと頭がいいんだろな。
「ここです。」
ノックをして入ると鳴ちゃんがベッドに寝転んでいた。
「鳴ちゃん家庭教師してくれる月野風人さんを連れてきたよ」
「キャロじゃーん。さんきゅ~ね。初めまして鳴でっす。よろしくお願いしま~す」
と鳴ちゃんは完璧やる気のない言い方。こらこらー、こういうとこは子供だなぁ。表面上だけでもぴしっとしなさいって。
「・・・・」
ん??月野さんが黙ったまま放心してる・・。
どうしたんだろう。鳴ちゃんのあまりのだらけた姿にあっけにとられたんだろうか。確かにびっくりするかもね・・って
あれ??
月野さんの白い肌がだんだん赤くなっていく。
その視線の向こうには鳴ちゃん。
ん???このシチュエーションどこかで見たことあるような・・。
そうだ思い出した!ドラマで女の子がカッコイイ男の子に一目惚れするシーンだ。
ってちょっと待てよ、ってことは
まさか・・・?!!
えーーーーーー!
嫌な予感があたしの頭によぎる。
それはあたしの勘違いであってほしいと強く願うあたしだった。
それから二日後。
今日も家庭教師の月野くんが来る日。
週3日教えに来るみたい。
今ちょうど鳴ちゃんに勉強を教えてる時間で、あたしはなんとなく気になって鳴ちゃんの部屋の前にいる。
聞き耳を立てても防音設備がきちんとされてるのか全然聞こえないんだよね・・。
ってかあたし今かなり怪しいメイドになってる??
あたしなりに考えてしばらく様子を見てみようと思って。
可憐さんにこんなこと話せないし、しかも最近息子さんの調子が悪いとかで(可憐さんは既婚者だった!しかも現在二児の母)夕方には帰っちゃうんだよね。そしたらこの役できるのあたしだけじゃんってことで。
そもそも何の確証もなくただの勘でしかないんだけど、けどなんか嫌な予感がするんだよね・・
よし、ここはひとつ・・
コンコン
ガチャ
「差し入れを持ってきました~」
とりあえず中の様子を探ってみよう。
「おっキャロ!気が利くじや~ん」と鳴ちゃんが目を輝かせて振り向く。
「どうもすみません」
鳴ちゃんは白いデスクに向かって座っていてその隣に月野君が座ってる。
けっこう距離近くない??
いや、疑いの目で見てるからそう思えるだけか。
とりあえず普通に勉強教えてもらってるみたい。
「ちゃんと真面目に勉強教えてもらってる?」
「うん。ツキノン教え方うまいからスイスイ頭に入ってくるよ」
もうあだ名で呼んでるし・・男の子にもフレンドリーなんだな、鳴ちゃんは。
月野くんの方を見ると褒められて嬉しそうな顔をしてる・・。
「そっか。鳴ちゃんエライエライ」
「だろ?成績上がったらご褒美にチューしてね♪」
とにっこり笑う。
かわいい~~☆
と思ったのはあたしだけじゃなかったみたいで・・・
月野くん、若干高揚した顔で鳴ちゃんを見つめてる。
その後なんとなく羨ましそうな感じであたしを見た!
あの花火大会で会った鳴ちゃんのクラスメイトの女の子たちの視線に似てる。負のオーラをぶつけてくるというか。
これはあたしの勘、ビンゴじゃないですかね?!
ここでついに確証を得たね。
「ねー響はどう思う?」とあたしは呼ばれてないけど響の部屋にいた。
さっきの出来事を響に相談したくて。
あれからあたしはすぐに鳴ちゃんの部屋を出た。勉強中なのに居座ってたら怪しまれるかもしれないしね。
響は今、黒の肘掛の付いた質の良さそうな回転イスに座ってる。その前には黒のシンプルなデスクがある。響はキレイ好きみたいでいつも整理整頓されててデスクも広々と使ってる。
何か大学のレポートでもやってたみたい。
くるっとイスごと回転させてあたしの方に向いた。
「おまえさー口調がオフモードになってんぞ」
「あっ!つい・・」
「・・もういいよ、それで」
「えっいいの?でも・・」
「オレがいいって言ってんだからいんだよ!」とめんどくさそうに言う。
「はーい。ありがと」
ついに仕事モードでもタメ口のお許しが出たよ。なんかオンオフの境目がどんどんなくなっていくような・・??
まぁいっか。ちゃんと仕事さえしてれば。
「おまえの勘違いだろ、きっと」
「でもあからさまだったよ!それに女の勘は鋭いんだから!」
「おまえが言うと説得力ゼロだけどな」と呆れ笑いで言う。
「なんでよー。あたしだって女だもん」
「そういう意味じゃなくて、おまえ超鈍感だろうが」と今度は少し怒って言う。
「?」
「はぁ。もういい。それよりあんま気にしなくていいんじゃね?例えそうだとしても何がどうなるわけでもねーだろ」
「なんで?鳴ちゃん・・食べられちゃったらどうするの??ほら怪しい黒魔術とか使うかもしれないじゃん!」
「んなわけねーだろ!どこからそんな発想が出てくんだよ」
響は心底呆れた顔をしていた。
「あたし、やっぱり心配だよ。だって鳴ちゃんけっこう華奢だし」
「あれでも中学の時バスケやってて筋力だってあるし、おまえが心配するほどあいつはヤワじゃねーよ」
「へ~そうなんだ。じゃあとりあえず様子だけ見とく」
「ってかさー別にいいじゃん。その月野ってやつが鳴に惚れたとしてもそれは自由だろ。男だからダメとかそんなんおまえの偏見じゃね?」
うっ・・・確かにそれは言えてる。
恋愛は自由だもんね。
「そうだよね、ごめん」今のは反省。
「オレに謝られてもなー。ってことでこの話は終わりな」
「はーい。それじゃあまた明日」
「おーお疲れ」
響は全然心配してないみたい。けどまぁそれだけ心配するような事じゃないということか。
あたしが変に気にし過ぎなのかな。
だけどなんか引っ掛かるんだよね。月野くんってどこか影があって、どういう人かまだ分からないし。
響はほっとけと言ったけど、あたしはまだしばらくは様子を見続けることにした。
それからあたしは週に一回は勉強中に部屋に入り変わった様子はないか確かめていた。
けど特に何も問題なく、月野くんは別に何も行動に起こしてないみたいだった。
ところが一か月経ったある日。
鳴ちゃんの部屋を出た後、月野くんも後から出てきて
「春風さんちょっといいですか?」と声を掛けてきた。
そして廊下の突き当たりまで歩いて行き、止まった。
「僕の気持ち気付いてますよね?」
「えっ・・・」
「いつも部屋に来るとき僕のこと疑うような目で見てるし、バレバレですよ?」冷めたような目で口元は少し笑ってる。
ん??なんかいつもと雰囲気が違う・・。
なんか怖い・・あたしのことを見据える目に負の感情を宿してる。
「こんな風に監視されるような覚えは何もないんだけど?何か僕悪いことしてますか?」と詰め寄ってくる。
「い、いえ・・」とあたしは後ずさる。
「ところで鳴くんはあなたにけっこう懐いてますよね。どうすればそんな風に気に入ってもらえるのか知りたいんですよね。教えてくれません?」
月野くんの緑がかった目が怪しく光る。
あたしを壁際に追いやりあたしの頭の横に手をつく。
何これ??この状況って何?
まるでその、迫られているような・・
でもそんなはずは・・だって月野くんは・・
何か言われのない恐怖で心臓がドキドキ早鐘になってきた。
冷や汗がツーと流れる。
「あ、あの・・あなたは・・」
「僕、両方ありな体質なんですよ」とさらっとカミングアウト。
えーーーーーーー!
「女の子も好きですよ、君みたいな色の白い子けっこうタイプだし。首に噛みつきたい気分になるんですよね」
「!!!」
月野くんが急に吸血鬼に見えてきた。
その黒装束も余計そんな風に思わせる。
口を開いたら八重歯が見えるんじゃないかな。
「あ、あたしの血はおいしくないですよ!」
「ぷっあっはっは・・・あなたおもしろいですね。冗談に決まってるでしょう?」
うーーー今のは冗談に聞こえなかったしぃ。
それより早くこの体勢から抜け出したい・・
「けど、これ以上僕の勘に障るようなことしたらほんとに噛みつきますから。・・気をつけてくださいね」と脅してくる。
ゾゾ・・・恐ろしい・・。
「それじゃ」
とさらっと身を翻してまた鳴ちゃんの部屋に戻って行った。
あたしはあっけにとられてしばらくその場から動けなかった。
明らかに警告をしてきたんだよね。
僕の恋路の邪魔したら容赦はしないよ、そう言ってるんだ。
けどさっきの月野くん、普通じゃなかったよ・・。
いざとなったら何をやらかすかわからない、そんな危ういところを持っているように感じた。
ますます監視をやめるわけにはいかなくなったな。
脅しになんて負けない!
鳴ちゃんはあたしが守るんだから!