ひまわり畑の中で
次の日の午後、みんなそれぞれ行きたいところがあるみたいで出掛けて行った。
北海道はたくさん観光地があるもんね。
あたしと響が一番最後だった。
「んじゃ行くか」
「うん!」
一体どこへ連れて行ってくれるんだろう?
草原の小道をズンズン進んで行く。
北海道は夏でも涼しくて風が心地いい。
草原をざわざわ揺らして、あたしの髪もなびかせていく。
地面も空も限りなく広くてどこまでも見渡せる。
なんてクリアな景色なんだろう。
視界を遮るものが何もない。
あたしは手を広げて大きく深呼吸をした。
空気もいっぱいあたしの中に入ってくる感じ。
草原を抜け小さな丘を越えたとき目の前に広がったのは一面のひまわり畑だった。
「わぁ・・・すごいいっぱいのひまわり!!」
畑4個分ぐらいあるんじゃないかな。相当広いひまわり畑。
太陽と澄んだ空気をもらってぐんぐん元気よく伸びた、そんなひまわりに見えた。
「素敵な場所だね。」あたしは目を輝かせて言った。
「ああ」
響はひまわり畑の中へ入って行く。あたしもその後に続いたんだけど、ひまわりがなんとあたしの背ぐらいあるから、よけて歩くのが大変。
手こずっているうちにさっきまで前にいた響の姿が見えなくなった。
まずい!見失っちゃった!?
「響どこ??」
返事がない・・
「ひーびーきー!」
「うるせーな。ここにいるし」と後ろからイキナリ声がしてあたしは思いっきりビクっとなった。
「もう!!わざとでしょ!」
「さぁ?」
ふざけた顔しちゃって!ふんっだ。
「そう怒んなよ。ここすげーいい場所だろ」
「うん。こんな大きなひまわり畑に来たの初めて!」
「オレは何回も来てるけどな。」
「響がこの場所見つけたの?」
「いや」
「じゃあ誰かに?」
「ここへ連れて来てくれたメイドがいたんだよ。」
「そうだったんだ・・」
過去の専属だったメイドさんかな・・?
「毎年のように連れて来てくれた。・・・今はもういないけど」
と響は遠い目をして言う。
「辞めちゃったんだ・・」
「・・・違う。・・この世にいない。」
「!」
あたしは何も言葉が出なかった。
響は悲しい目をしてる。ひどく傷ついたようなそんな表情・・
その顔を見た途端、頭が激しく回転し始める。今まで兄弟たちとの話の中で出てた謎めいた言葉がつながり始める。
『響はさ、ある時からあまり人に対して興味持ったり固執するようなことがなくなったんだ。簡単に言うと人に対して冷めてるというか・・・』
『響のプライベートに関わる話になってくるからなぁ。ほんとは本人から聞いてもらうのがベストだけど・・』
『おいつには過去に負った大きな心の傷がある・・。そのときに何も薬を塗らず無理やり自分で絆創膏で塞いだものだから、いまだに治ってないんだよ。ただ絆創膏で隠して守ってるだけ・・』
たくさんの言葉があたしの中でリフレインする。
そうかそういうことだったんだ。
「ここに来ればこの話が出来るんじゃないかって思った。」
そう言って響は歩き始める。
あたしは今度は見失わないようにちゃんと付いて行った。
ひまわり畑の真ん中は空洞みたいにそこだけひまわりが咲いてなくて、あたしの膝の高さぐらいある大きな岩がまるでイス代わりにポツポツと置いてある。
その一つに響が腰を掛けた。
あたしも隣の岩に腰掛ける。
響はまたどこか遠くを見ている目をして再び話し始めた。
「そのメイドはオレが生まれてから15年間ずっと母親の代わりに傍にいてくれた人だった。もっとオレが大人になってもずっと傍にいてくれるって思ってたんだ。」
「・・・」
「なのに突然事故にあってオレの前からいなくなった。」
「・・・」
「まだ中学生だったし、なかなか受け入れることができなくて、そのまま今まで生きてきた。だから、今でも思い出すと、頭が変になるくらい苦しくなる。いつものオレでいられなくなるんだ・・」
「響はあたしのせいで思い出してまた苦しくなっていたの?」
あたしは昨日の響と拓斗さんのやりとりを思い出して言った。
あたしがその人に似てるって言ってたよね・・・。
「うん。だから遠ざけようとした。けどそれが今度はおまえを傷つけてたんだな。オレは自分が苦しみから抜け出したい一心で、周りのこと何も見えてなかった。」
響は下を向いてこぶしを強く握りしめている。
自分を責めているんだろうか・・。
「響・・・」
「悪かったよ」
そう言って響がようやくこっちを向いた。その目はちゃんとあたしを映してる。
「それについては響が謝る必要はないよ。だって響だって傷ついてたんだから。あたしたち両方傷ついてた。だからもうおあいこだよ!」
あたしが真剣な顔でそう言うと響は一瞬驚いた表情を見せ、
「・・ありがとう」
と優しい顔で笑った・・。
あたし今まで響がこんな風に優しく笑った顔見たことない。
すごく素敵な笑顔・・
どきどき・・・
ん?なんか心臓がうるさくなってきた。
とまどってるの?あたし。それでだよね・・?
いつの間にか辺りは夕暮れ時になっている。けっこう時間が経ったんだね。夕日に照らされるひまわりもとても綺麗。
響はゆっくり立ち上がり、あたしを真剣な眼差しで見て話し出した。
「これからもこういうことあるかもしんない。それでもおまえはおれの専属でいられんの?」
「あたしは大丈夫!でも・・何も言わずに遠ざかられるのは嫌かな。その前に一言言ってほしい。今からしばらく遠ざかります!とか。」
「ぷっ・・あはっはっは、何だよそんな宣言する奴いるかよ。」
あっ思いっきり笑ってる。なんかいつもの笑い方と違うような?
心の底から笑ってるような?そんな風に感じた。
「これから響がそんな奴になるの!」
「嫌だね、オレはそんなおもろいキャラになりたくねーの」と急に駆け出す。
「あっ待って!!置いてかれたら迷子になっちゃうじゃん!」
「おまえなんか迷子になってろ、オレは探してやんねーからな」
「ひどーい!!!」
あたしは思いっきりダッシュして、でもそのせいで響にタックルするような形になってしまった!
どしんっ
「うわっ!何すんだよ」と言いながらひまわりをなぎ倒しながら後ろに倒れる響。
あたしは勢い止まらず響にタックルしたまま一緒に倒れた。
気付けば響の胸にあたしの頭があって・・つまり響の胸に飛び込んだような体勢になってる・・!??
は、恥ずかし過ぎる~~~!!
「ごめんなさ・・」
と起き上がろうとしたら腕をつかまれてそのまま引っ張られ、また元の位置に戻る。
な、何で??
ドキドキドキ・・・・・
あっ響の胸の音も聞こえる・・
あたしとどっちが速いかな・・なんて。
それといつもの香水の匂いがする・・あたしこの匂い好きだな・・。
「・・おまえけっこう大胆だな」
と耳元でつぶやかれあたしの顔は沸騰寸前になった。赤いし熱い。
「ち、違うもん響が」と起き上がろうとしたら腕を回してあたしの頭を押さえる。
「ひ・・響?」
「誘っといて逃げんなよ」
「だ、誰が誘ってなんか」
起き上がろうとしてもぎゅーっとあたしの頭と背中を押さえて離してくれない。そんなことされたらパニックで心臓がもたないんですけど!
「このまま・・」
「えっ・・?」
「しばらくこのままでいろ」
あっ!いつもの俺様っぽい口調だ。
「それは命令ですか?ご主人様」
「そう命令だ」
夕暮れ時のひまわり畑の中で今あたしたち・・・
二人だけ