ドキドキの別荘生活
あっという間に二週間が経って、今日はついに別荘へGO!の日。
それなのに心からはうかれることができずにいる。
それもそのはず結局響とはあの距離感のまま今日に至ってしまったから。
毎日ほんとつらかった。話し掛けるなオーラが半端じゃないし、呼び出しも必要最低限なことだけ。
あたしが良くないと思ってた機械的なメイドになるしかなかった。
けど、あたしだって限界は来る。いつまでもこの状態は我慢ならないよ。今日からの別荘生活でもしかしたら元に戻れるかな・・って淡い期待を抱いている。
今日から5日間別荘に滞在するんだけど、旦那様と奥様は仕事の都合で行けなくなったので、兄弟たちと専属メイド、そして凜さんの9名で行く。
飛行機、バスと乗り継ぎ、無事北海道の別荘に辿り着いた。
バスを降りた瞬間目の前に広がる光景。
何この絶景はーーー!!
見渡す限り大草原。一面緑緑緑!
その中に何軒か家がぽつぽつと建っている。
うわぁこの大草原の中にダイブしてゴロゴロしたーい!!
「しちゃいなよ、キャロちゃん」
と紫音さんにイタズラっぽく言われた。
また電波で心の内が分かったみたい。
「えっ何なに?キャロ何がしたいの?」と鳴ちゃんが食い付いてきた。
「この大草原に思いっきりダイブしてゴロゴロしたいなぁって」
「それいい!やろう!」
「わっ」
鳴ちゃんが手をつないできて、先にダイブする。あたしも遅れてこの緑の中にダイブした。
わー!草がやわらかいー。緑のフカフカ(フサフサ?)絨毯みたい。
「二人とも子供みたいだな」と上から拓斗さんの呆れたような声が降ってきた。
「おれ子供だしぃ」
「あ、あたしは・・いい大人・・(汗)」
「いやいや子供子供♪」
「・・・」
そうだね、今はそういうことにしておこう。
草むらから起き上がると視線を感じて目を向けると響がこっちを見ていた。
けどすぐ逸らされる。
ちょっとは気にしてくれてるのかな・・。
建ってる家の中でも一番大きな家が紅咲家の別荘だった。
外壁が水色でかわいらしい家。
中は意外とシンプルで床が木目調で涼しげだった。そこに大きな白いテーブルとそれを囲むように白いソファがある。
この部屋がどうやら一番大きそう。
なんせ今日は9人いるし、まぁそれでも全然余裕があるけどね。
「遊びと言っても掃除はしなくちゃいけないの。なので少し休憩してからお掃除タイムね」と凜さんがあたしたちメイドに向かって言った。
そうだよね、別荘ってこんなときしか掃除できないもんね。
「はーい」とあたしたちは口々に返事をした。
こんな風に兄弟とそれぞれの専属メイドが集まって同じ部屋にいるとかほんと珍しいことだから、あたしはワクワクしていた。
それぞれの専属とご主人様の様子がついに見れるぞー!
「紫音、この荷物部屋に運んどいていい?」
「だーめ。女性に重たい荷物は持たせるわけにいかないよ。僕が運んでおくから」
「女と思ってないくせによく言うよ」
「君はどう見ても女性にしか見えないけど?」
今のやりとりは瑠々ちゃんと紫音さんコンビ。
瑠々ちゃん紫音さんのこと呼び捨てでしかもタメ口だ。
なんか友達同士みたい!
おまけに波長ぴったしだし予想通り合ってるなぁ。
結局瑠々ちゃんが無理矢理荷物を男子用の部屋に持って行った。
「玲、片付けが終わったら外散歩しようか」
「はい」
こっちは拓斗さんと玲ちゃんコンビ。
拓斗さんのお誘いに玲ちゃんは顔を赤らめて嬉しそうに少し微笑んでる。
なんだろ・・ここもメイドとご主人様って感じではないなぁ。
なんか付き合いたてのカップル?みたいな。
「鳴様!来てそうそう散らかさないで下さいまし!」
「うるさいなぁ。そっちこそ来てそうそう怒らないでよ。」
向こうの男子用の部屋から鳴ちゃん、可憐さんコンビが出てきた。
あれ?可憐さんっておとなしくて優しくて丁寧なイメージがあったからなんか意外。
プリプリ怒ってる。まるでお母さんみたい。
そして鳴ちゃんは反抗期の息子みたい。
うわぁ面白いなぁ。それぞれ全然雰囲気の違うコンビ。
個性豊かだなぁとしみじみ思ってしまう。
見てて飽きないわ。
あたしたちはみんなの目にどう映ってるんだろうか。
あたしはさっそくソファでくつろいでる響の方に視線を向けた。
今はなんか淋しいな。
あたしたちだけ通じ合ってないコンビみたい・・。
ふいに劣等感が押し寄せてくる。比べたってしょうがないのに。
「響様、何か飲みます?」あたしは衝動的に話し掛けていた。
「別にいい。ってかここにいる間は仕事じゃねーんだし、こっちのこと気にすんな」
そっか仕事じゃないんだ。けどついつい忘れて気に掛けてしまう。
じゃあ口調もオフモードにしていいのかな。
「分かった。あの響はここに毎年来てるんだよね?」
「ああ」
「後で外・・案内してくれないかな?」
「何で?」
「あたし初めてだし・・」
「鳴に連れてってもらえばいいじゃん。あいつ喜ぶだろうし」
・・・そっけないし冷たい。
「分かった・・」
あたしはそれ以上何も言えなくなって女子用の部屋に入って行った。
掃除が一段落して少し女子用の部屋でうとうとしてたらいつの間にか部屋に誰もいなくなってた。物音ひとつさえしない。
リビングに行くと響だけがさっきと同じでソファに座って本を読んでた。
「みんなは?」
「外行った。」本から目を離さずに答える響。
「響は行かないの?」
「さすがに女一人にして出れねーだろ」
「あっ・・ありがとう」
「別に。」
今ここには二人だけ。もしかしてチャンスかな??
拓斗さんからアドバイスもらって、だいぶ様子を見ながら待った。言いたいことも我慢してひたすら時を待った。
だからもういいよね、切り込んでも!
「響、最近冷たいね」
「・・・オレ元々こんなだけど」相変わらずこっちを見ない。
「ちょっと前までは、こんなに冷たくなかったよ」
「勘違いだよ、おまえの。オレは冷酷非道な男だ。だから適度に距離取って近づいてくんな」
・・・ダメだ。もう我慢できない。
あたしは本音をぶちまけ始めた。
「何がいけなかったの?ちゃんとゆってよ。ゆってくれなきゃわかんない。響の気に障るようなことしたなら、今度から気を付けるし、何も言わずに態度変えられたらとまどうし悲しいよ」
「悲しい?何で?おまえオレのこと嫌いだろ?」
響はやっと本を閉じてこっちを見た。
「嫌いじゃないよ・・・。響のこと知っていきたいって思ってる」
「やめろよ。」
「どうして?」
「いいから言うことを聞け!」と立ち上がって強い口調で言う。
「嫌っ!!!」
あたしはこれでもかってぐらい大きな声を出した。
家じゅうに響く。
響は一瞬ぽかんとしてすぐまた冷たい表情に戻った。
「だったらおまえは専属からはずす。おまえはいらない」
「!!」
あたしはあまりのショックに家を飛び出した。
さっきの響の言葉が頭の中で何度もリフレインする。
おまえはいらない・・・専属からはずす・・・
悲しい・・・ただただ悲しい・・もう心がぐちゃぐちゃだ・・。
いつの間にかあたしは湖の畔に来ていた。
家の裏に森があって突っ切ると湖があった。
ただがむしゃらに走って走って辿り着いた場所。
こんなに綺麗で静かな場所なのに今はちゃんと瞳に映らない。
ぼやけてぼやけて、何度ぬぐっても涙があふれて止まらなかった。
今気付いたことがある。
あたしは今まで暖かい家庭で友達にも恵まれてて、そんな環境で育ってきたから拒絶されたり必要とされなかったりすることがきっと何より耐えられないんだ。
冷たくされることに慣れてないから、さっきみたいな態度を取られるとパニックになるくらい心が傷つく・・・
「そこにいてるのキャロちゃん?」
えっあたしが振り向くとそこには紫音さん、拓斗さん、鳴ちゃんがいた。
やばいっと思わずまた前を向く。そして手で強めに涙をぬぐった。
「どうしたんですか?3人そろって」
「・・いや今女子が夕飯の買い出し行ってるから暇だし散歩しようってことになって・・っていうかキャロちゃんもしかして・・」
と拓斗さんが心配そうな顔をする
「・・・」
「何かあったんだね・・。話聞かせてくれる?」紫音さんが優しく聞いてくれるからあたしはさっきのことを話すことができた。
「おれもう我慢できない!」と急に鳴ちゃんが大きな声を出した。かなり怒ってるみたいで、こんな鳴ちゃんは初めて見る。
「鳴ちゃん?!」
「鳴っ待て、俺が行く。ここは俺が適任だ」と拓斗さんもいつになく厳しい表情をしている。
「えっ拓斗さん??」
「そうだね、こういうのは拓斗が一番うまいからね」と紫音さんはあくまでマイペースだけど真剣な顔つきだ。
拓斗さんが急に森の方に向かって走り出した。
「キャロ、おいで」
と鳴ちゃんがあたしの手を取って走り出す。
紫音さんも後に付いてきた。
何なに?この展開は??
みんな何を考えてるの???
先に着いた拓斗さんが家に入る。鳴ちゃんは「こっち!」と裏口の方にあたしを案内して、そこから家に入り響がいるリビングの隣の部屋で待機姿勢を取った。後ろに紫音さんがいて、「大丈夫だよ」っていう顔であたしに目配せをする。
扉越しに拓斗さんと響の声が聞こえてきた。
「何?そんな怖い顔して」
「今湖の方に行ってたんだが、キャロちゃんがそこにいたぞ」
「・・それが?」
「泣きながら立ってた。」
「・・・あいつが?」
「今まで彼女が泣くところを見たことがあるか?」
「・・ないけど」
「じゃあよっぽど悲しくてショックなことがあったんだろうな」
「・・・」
「おまえいいかげんにしろ。あの子を泣かして傷つけてまで自分を守ることを優先させたいのか?おまえはそんな情けない男なのかよ?」
「・・・オレは・・ただ・・」
「ただ何だよ?」
「・・・・」
「分かってるよ、お前が何を考えてるか。あの子といるとあの人を思い出す。だから遠ざけようとしたんだろう?」
「・・・・」
「おまえがここまで徹底しようとしてるってことは、おまえもつらい気持ちでいっぱいになってんだろうな。けど、響、これだけははっきり言える。あの子はあの子、あの人とは違う。」
「・・・・似たようなこと前に言われた、あいつに」
「何て?」
「自分はこの世に一人しかいない。だから自分のことちゃんと見てほしいって」
「で、おまえは何て?」
「見るって・・ゆった。最初は見てた。けどだんだん似てるところがあるのに気付いて怖くなった。」
「さっきも言ったが、あの子はあの子だ。もう逃げるな。ちゃんと向き合え。でないとおまえはいつまでも情けないままだ。もうそろそろ変わろうと努力したっていいんじゃないか?」
「・・・」
「前に進めよ。響」
ずっときつい口調だった拓斗さんの声が優しくなった。
「分かったよ兄ちゃん」
「素直でよろしい。昔のおまえに戻ってるな」
「今だけだよ。それだけはまだ無理なんだ。」
「いっきに全部変わるのは無理ってもんだ。小さなことでいいんだ。一歩でも前に進めればそれで」
「うん」
バンっ
「一件落着~みたいだね」と鳴ちゃんがドアを開いた。
響は大きく目を見開いて
「げっおまえそこに居たのかよ!盗み聞きなんて悪趣味もいいとこ」と怒って言った。
そして鳴ちゃんの後に続いて出たあたしを見てぎょっとした顔をした。
「・・・おまえも居たのか・・じゃあ全部聞いて・・?」
「うん」
紫音さんと拓斗さんと鳴ちゃんは気を遣ってか外に出て行った。
またさっきと同じで部屋に二人っきりになる。
だけどさっきとは全然空気が違う。
しばらく静寂が訪れる。
響がようやく口を開いた。
「・・・ひどいこと言ってごめん」とあたしの目を探るように見る。
「すごく傷ついたよ」
「だからごめんって」
「あたしのこと専属からはずさない?」
「うん」
「よかった!」あたしは途端に笑顔になる。
そんなあたしを見て心なしかホっとしたような表情をする響。
「・・・おまえさぁそんなにオレの専属でいたいわけ?」と意地悪な口調で言う。
およよ・・いつもの俺様が復活してきたような・・?
けどあたしも負けないよ☆
「うんあたしのご主人様は響だけだから!」とあたしが言った途端、
かぁぁぁぁと響のほっぺが赤くなっていった。
その反応二回目だぁ。やっぱかわいいなー。
「恥ずかしいやつっ」とそっぽ向く。でもその横顔は嬉しそうだった。
戻ったよ・・・やっと元に戻ったーーー!!
ここまで来るのにすごく長く感じた。
「何ニヤニヤしてんだよ」
「ニコニコしてるの!」
だってすごく嬉しいんだもん。
「明日・・」
「ん?」
「明日外案内してやるよ」
あっさっきあたしが頼んだこと・・嬉しいな。
「うん・・楽しみにしてる!」
「おお」
早く明日にならないかな♪