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混沌の電波

驚くことにあの後特に響からの呼び出しはなかった。

ほんと拍子抜け。

寮に戻ってからいつ連絡来るかってハラハラしてたのに。


もしかして疲れててそんな力もなかったんだろうか。


ただ今日はさすがにあるだろうなぁ・・お咎め。

昨日の件は響にとってスルーできるものでは絶対ないだろうから。


今日は月曜日、新たな一週間が始まる。

なのにあたしは少しブルーな気持ちでメイド服に着替えお屋敷に向かう。


ピロロロ・・・


き、来たぁぁぁ!


メールで冷たく一言『朝一オレの部屋に来い』


やっぱりぃーーーーー。


「おっはよ。どしたのどんよりした顔しちゃってさ」と

バンっと背中を叩かれる。


「瑠々さーん!おはようございます」

瑠々さんの明るい顔を見るだけでなんか視界が開けるよ。

どんより気分もなくなっていく。


「休み明けきついけどがんばろ~ぜ~い」とⅤサインしてあたしを追い越していった。


瑠々さんってサバサバした感じでほんと元気っ子って感じ。

瑠々さんは紫音さんの専属だけど、なんか意外な組み合わせだなって思う。

二人でいるところ見てみたいなぁ。

紫音さんにどんな風に接してるのか興味があるよ。

意外と合うかもしれないよねー。いつも元気いっぱいの瑠々さんとマイペースそうな紫音さん。


そうこうしてるうちに響の扉の前に着いた。

ふ~っと一つ深呼吸。



コンコン・・・  三秒待って


ガチャ



「おはよーございます」

今日からまたメイドモードに切り替えだ。



「おいっす。おまえ朝一呼ばれた理由分かってるよなぁ?」

とソファからゆっくり立ち上がってこっちに向かって来る。

そんな朝からピリピリオーラ放たなくても・・。


とりあえずここは先手を打たなきゃ!


「すいませんでした!でも夕夏がどうしても響様に会いたいと・・」


「ダチのせいにすんじゃねーよ。おまえ学習能力なさ過ぎ。来んなって言ったじゃん。何で言うこと聞けねーわけ?それも二日続けて連続でって、どう考えても嫌がらせにしか思えねーな。」



うう・・近い・・

顔を上げるとすぐ前に響の顔がある。だからあたしは上を向けなかった。


「そんなにオレにお仕置きしてほしいわけ?」

と冷めた目つきであたしの顔を覗き込む。


ブンブンとあたしは首を精一杯横に振った。


「ダメだ許さねーよ。」

とあたしの左ほっぺにそっと触れる。


えっ何なに??

あたしは疑問に思って上を向くと、響があたしをじっと見つめてそのまま顔を近づけてきた!


待ってこれって・・


キ・・・



「ふぎゃっ」

突然左ほっぺを横にひっぱられてあたしはバランスを崩しそうになった。


「ほんっとお前って学習能力ゼロ。毎回同じ手くらってんじゃねーよ」


またからかわれたぁぁ。くやしい~~!


「おまえも呆れるけどあのおまえのダチもミーハー丸出しでうざいっつーの」


えっ・・・うざいってそんな言い方!


「おれはミーハーな女が嫌いなんだよ。だからメイドの面接でもそれっぽい理由で来てるやつは先に落としたしな。」


あれはそういうことだったんだ。メイドの面接のときタイプじゃないとか言って先に何人か落としたんだよね。まぁ確かにあたしはミーハーな気持ちで受けに来てなかった。とにかく仕事に就きたい一心だったし。

へ~そういうの見抜く力はあるんだ。



ってかさ!さっきの発言聞き捨てならないよ!


「夕夏のこと悪く言わないで下さい!さっきの訂正してください」


あたしはいつになく強い口調で言った。夕夏のこと悪く言われるのは我慢できない。


「何で?どう見たってミーハー女じゃねーかよ」


「確かに夕夏はあのときテンション上がってたけど・・でもすごくいい子なんです。あの一部分を見ただけで夕夏のことうざいとかって切り捨てないで!」とあたしが怒りながら詰め寄る。


「・・・んなことオレには関係ねーよ。おまえのダチが実際どうとか、どうでもいいし、知りたくもねぇ」とそっぽ向く響。


「いいえ知ってください。だってあなたはあたしのこと見てくれるって言った。あたしの友達がどんな子か知ることだって、あたしのことを見るってことです。違いますか?!」


「・・・・」響は珍しくあたしに押されて無言になった。


「あ、あの・・」あたしはそんな響にとまどう。


何秒間か静かな時が流れた後、


「オレに説教すんな」

とつぶやくように言った。


「・・・」

なんかさっきまでの響と違う。なんていうか怒ってるんだけど、なぜか悲しそうに見える。

伏せるようにしてこっちを見ない目がなんとなく悲しげに見えた。

どうしたんだろう。響らしくもない。

いつもの響なら、何が何でも自分の意見で相手を押し負かすのに。


初めて見る響の様子にあたしはどうしていいかわからなかった。


「もう用はすんだし出てって」とあたしに背を向けながら言う。

もう響の表情は見ることができない。

今どんな顔をしてるんだろ・・。まだ悲しい目をしてるんだろうか。


「・・・はい」


あたしは言われるままに扉から静かに出て行った。





もう時刻は夕方になっていた。

あれから響の呼び出しは一つもない。



響ってよく分からない。

だんだん距離が近付けてると思いきやまた離れてしまう。

不安定な感じ。



あんな響の顔初めて見た。いつも強気で俺様な響がどうして急におとなしくなったんだろ・・。

あたしの発言にだいぶ気を悪くさせてしまったんだろうか・・。

でもそこまで気分を害するような発言したかな?


うーーん分からない・・分からないよ~!



「何メートルも先から混沌とした複雑な電波を感じると思ってたら君だったんだね」


廊下の曲がり角を曲がると紫音さんが優しく微笑みながら立っていた。

長身ですらっとしててスタイル抜群。

今日はスーツじゃなく黒のボタンのあるシャツに細身のジーパン姿。

私服だとまた全然感じが違う。少し年齢が幼くなったというか。

スーツを着るとけっこう誰でも大人っぽくなるもんね。


「紫音さん!今日は会社お休みなんですか??」


「うん。土曜日が出張で仕事したから、今日は代休なんだ」


そういうことか!お屋敷の中で会うの初めてだから嬉しいな。



「そんなグルグル複雑に考え過ぎてたら頭パンクしちゃうよ?」


「はいぃ・・でも色々頭に浮かんできて・・。」


「何があったかもし話せるなら聞くよ?」


なんだろ・・紫音さんってカウンセラーみたいに、何でも話してしまいたくなる雰囲気を持ってるんだよね。

何でも受け入れてくれるんじゃないかって思わせる何かを持ってる。


あたしは話してみるだけ話してみようと、今日の出来事を打ち明けてみた。



「なるほどね・・・。響がなぜ君にそんな態度を取ったか僕には分かるよ。」

「えっそうなんですか??」


「うん。ただそれを今君に話してよいものかどうか、それは僕にも分からなくてね。物事には順序やタイミングがあるから」


それって今はまだそのときではないということなんだろうか・・?


「響のプライベートに関わる話になってくるからなぁ。ほんとは本人から聞いてもらうのがベストだけど、なんせ今はひねくれてるからなー」

紫音さんが独り言のように言う。

でも丸聞こえだけど。


今はひねくれてる??その言葉が頭に引っ掛かった。



「じゃあヒントだけあげよう。あいつは相手が自分に歩み寄ってくることを嫌う節がある。」


「えっどうして・・」


「理由はまだ言えないんだ。ごめんね。それとなくうまく聞き出してもらえると一番嬉しいかな。」


「はあ・・」


「だからって歩み寄るなって意味じゃないよ?逆にどんどん近付いて行ってくれたらいいと思う。それがあいつにとっていいきっかけになるかもしれない」と最後は真剣な表情で言う紫音さん。


「よく分からないですけど・・あたしはただメイドだからって間違ってると思うことを指摘しなかったり、ただ相手のいいなりになるような関係ではいたくないんです。ちゃんとお互いをぶつけあって信頼関係を築いていきたいって思ってて。」


「君はいいメイドだね」と優しく微笑む。


「響にはダメイドだって言われてますけど。」


「はははっそれはウケるなー。響もうまいこと言うね。」と紫音さんは本気で笑い出す。


「もう笑い事じゃないですよ!」


「ごめんごめん・・・けど君ならきっと・・」


「??」


「ううん。じゃあまた何かあれば遠慮なくゆって。力になるよ。」


「はい!ありがとうございます。」


そうして紫音さんは去って行った。





あたしは仕事時間が終了してから響の部屋へ向かった。そして扉の前に立ちノックしようとしてはやめを何度も繰り返していた。

なかなか勇気が出ない。


「おーいキャロ、さっきから何してんの?」


「あっ鳴ちゃん」いつの間にか近くに鳴ちゃんが来ていたことに全然気づかなかった。今帰ってきたばかりなのか制服姿だ。


「さっきから行動変だよ?ってか響今日昼過ぎに出てってからまだ戻ってきてないと思うけど・・。」


「えっ!そうなんですか??」


「うん。大学行ったんじゃない?」


そ、そっか。今日は月曜だし普通に考えたら大学の授業あるよね。


「ご主人様のスケジュールの管理もできてないなんてダメイドじゃーん」と冗談っぽく言ってきた。


うっ・・・・

いつの間にかダメイドが浸透してる・・。このまま定着しなきゃいいけど。あたしのキャッチコピーにならないことを祈ろう。


いつもなら月曜日にこの一週間の予定を確認するんだけど、今日はできなかったから・・。


「何凹んでんのさ?さては響となんかあったんでしょ?」

とうつむいているあたしの顔を覗き込む。


「何もないです」

あたしは少しイライラしてきてついツンツンした口調で言ってしまった。

鳴ちゃんにイライラしてるわけじゃなくて、この空回りな状況にだんだんイラ立ってきた。


せっかく仲直りしようと思って来たのに・・。

無駄足じゃん!



今日のこの嫌な空気のまま明日を迎えたくなくて、とにかく話してまた元に戻りたかった。


「今度はイライラ?今日のキャロ変だね。」と鳴ちゃんは少し呆れたような口調と表情で言った。


「あっ・・ごめんなさい・・。八つ当たりしてしまいました。」


「別にいいよ。キャロのそういう非をすぐ認める素直なとこおれ好きだよ」


「はぁ・・ありがとうございます。」

とあたしは力なく言った。褒められても今は喜ぶ気になれないんだ。


「何があったかしんないけど、早く和解しといた方がいいよ?だってさ夏休み入ったらすぐみんなで別荘に行くんだから。」


「えっ別荘???」

それ初耳なんですけど!


「そう、毎年この時期に避北海道にある別荘に家族とメイドたちと一緒に行くのが決まりなんだ。」


「へ~!」


「このときはメイドたちも仕事というより遊び感覚で行っていいんだ。会社でいうと社員旅行みたいなもんだよ。」


「わぁ楽しそう!」遊びで北海道の別荘に行けるなんてなんて素敵なイベントなのー!


「でしょ?」


確かにそのときには元に戻ってないと心から楽しめなくなるよね。


まぁまだ後二週間くらい先だしそれまでにはなんとかなってるよ。きっと。



けどそんなあたしの楽天的思考は見事に砕かれることになるんだよね・・。





次の日も響からの呼び出しはいくら待ってもなかった。

今日も大学に行ってるはずだけど、毎日大学に行く前とか必ず呼び出しが一回はあったのに。

何でだろ・・。もしかして避けられてる?


今日こそは仲直りって思ってたのに、スケジュール管理してないからいつ帰ってくるのとかもわからないしどうしよう。


夕方頃庭の掃除をしていると、そこへタイミングよく響が帰ってきた。

よかった!


「響様!」とあたしは駆け寄る。


「・・・」響は少し驚いた顔をして、でも何も言わない。


「あの・・昨日はあたし言い過ぎてしまって」


「おまえは悪くねーよ。俺が全面的に悪い。友達のこと悪く言ってごめん」と目を合わさず無表情で言う。


え??すごく予想外な言葉が返ってきてあたしは驚いた。

響が素直に謝るなんて信じられない。


「あ、あの・・」


「じゃオレバイトあるし急ぐから」


すり抜ける様な感じであたしの横を通り過ぎて行く。


あれ・・?

なんだろ・・なんか前と違うような。


今仲直りできたはずなのに、どうしてこんな距離があるように感じるんだろう。

響・・?



なんか淋しい・・・



「また絆創膏貼り出したな、あいつは」

立ち尽くすあたしの後ろから突然声がした。

振り返ると拓斗さんが立っていた。今からどこかに出かけるんだろうか。ダークブラウンに染めた髪をワックスでツンツンに立たせていて、ベージュ色のメガネをしてる。

大学生って感じの若々しいスタイルだ。


「絆創膏・・ですか?」拓斗さんが何を言ってるのかよく分からなくて思わず聞き返した。


「そう、あいつには・・」と何かを言いかけあたしのことをじっと見つめた。そして一つ深呼吸をした。

あたしにはそれが何か意を決したようなそんな風に見えた。


そして再び話し出す。


「おいつには過去に負った大きな心の傷がある・・。そのときに何も薬を塗らず無理やり自分で絆創膏で塞いだものだから、いまだに治ってないんだよ。ただ絆創膏で隠して守ってるだけ。」


「・・・」


「君が来てから少しずつ絆創膏が剥がれ出したように見えたよ。後はそこに薬を塗れば傷は癒えていくはずだった。」


「・・・」


「なのにまた剥がれた絆創膏を戻し始めたみたいだ。何かあった?」


「・・・昨日ケンカをしてしまって、説教をするなって怒られてしまって。」


「なるほどそういうことか。それなら今しばらくは放って置いた方がいいかもしれないな。」


「そうなんですか?・・・」

あたしとしては早く元に戻りたいんだけど・・。


「たぶん今は君がいくら近づこうとしてもあいつはガードを崩さないだろうね。昔からそういうところがあるんだ。殻にしばらく籠もってしまうというか。そのときは何を言っても無駄さ。」と困ったように微笑む。


「分かりました。じゃあしばらく様子を見てみることにします。」


「うん。うまく解決できるよう俺に出来ることがあれば協力するから」

とあたしの肩をぽんぽんっと叩いた。


「ありがとうございます。響のこと色々話してくれて助かりました」とあたしはペコっと頭を下げる。


「君にだったらいいかなって自然と思えたからね。それじゃ頑張って」と優しく微笑んで去って行った。


拓斗さん響のこと少し話してくれた。

どうしていいか成す術がない状態だったから助かったな。




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