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鬼録   作者: 小室仁
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period

今日か、明日か、

生理になりそうなのは、分かっていた。

毎月の自分の体のことだから、

分かっていたのだけれど、今月は準備が周到では無かった。

毎月来るものだからこそ、こうして用意を侮ってしまうのかもしれない。


あっ、と思ったときには、

出勤して電車に乗っており、

その間はどうしようもなかった。 


生理は、女の人なら分かると思うが、

短い周期で終わる時と、

だらだらと長く続く時とがある。

デリケートな体の仕組みで、

どうして月々違うのかは、全く分からないのだが。


今月は、どうやら、

周期は短く終わりそうだった。

それだけ、排出が早いと言うことだ。




電車に乗っている30分の間、もじもじと、

私は、居ても立ってもいられない気持ちでいた。

その間も、股間の違和感は増えるばかり。


電車が職場のある駅に着いた途端、私はダッシュして、

駅のトイレに向かった。

駅のトイレなら、生理用品が売っている自動販売機もある。

と、息を切らして走ったのだけれど、

なんと目的の女子トイレは「清掃中」の看板が非情にも立っていて、

中に入る事は出来なかった。


慌てて、表示にしたがって、

私は、駅の中にある三箇所の女子トイレを全部まわった。

しかし、

清掃中がもう一つ。

うそ、ここもかよーーーと思って、

残りのもう一箇所に走ると、

そこには、物凄い行列が出来ていた。

十人以上は待っている。

他の二つが清掃中だから、

たまたまこうして並んでしまったのだろうか。

こりゃ、駄目だと思って、

私は駅の外へ飛び出した。



最寄のコンビニに飛び込んで、

携帯用の生理用ナフキンを手に取りレジでお会計をして、

トイレへとダッシュする。


勢い良くトイレのドアを開けて、

中に飛び込んで、私は息を飲んで立ち止まった。



便器の脇、

トイレの隅に、

セーラー服を着た女の子が、

後ろ向きに、膝を抱えて座っていた。


悲鳴をようやく押し殺した。



丸まった背中。

背中の襟からのぞく赤いスカーフが、妙に生々しかった。

便器と壁との狭い場所に、

どう見ても不自然な感じで、彼女は座り込んでいた。


私は、トイレから飛び出した。

コンビニの店員が不思議な顔をして、私を見ていた。

私はトイレを振り返って、叫びそうになった。

「このトイレで、自殺した女子がそこに座っているんですけど」




でも、

気を取り直した。

言ってどうになるものでもない。



私は諦めて、職場へと向かった。

履いていたジーンズは、職場について制服に着替えると、

はたから見て分かるほど、お尻に大きい染みを作って濡れていた。


ジーンズを、職場のトイレの水道で洗った。

帰るまでに乾くといいのだけれどと、祈って。





でも、血は、洗っても洗っても、

赤く水を汚し続けた。

泣いてもどうしようもないのだけれど、

私は抑えきれず、泣いた。

泣きながら、何度も何度も、

ジーンズを洗い続けた

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