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鬼録   作者: 小室仁
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風呂嫌い

私はお風呂はいつも、カラスの行水。

何故なら、凄く恐いから。

これもいつまでも、慣れない事。



頭を洗うときも、

私は決して目を閉じない。

開けたままの目に、シャンプーが染みないよう気をつけながら、

頭を洗う。

それは聞けば、従姉妹の五見もそうだという。

何故なら、彼女も恐いからだという。

こういう事を話し合える、

血による呪われた遺伝を分かち合える従姉妹がいると言うことは、

とても幸せなことだと思う。

だって、私に見える物が見えない他人になんて、

こんな事決して相談なんか出来ない。



世に言う霊能力者として、知る人ぞ知る祖母、

おばあちゃんにこの事を聞いた事がある。

聞くというか、不平不満を爆発させたと言ってもいいだろう。

だけど、おばあちゃんはいつも冷静で、

この時も穏やかな顔をして、私を諭しただけだった。

「私はお風呂は恐くなんかないよ。

 恐いと思うからその気持ちに付け込まれて、

 いらぬものが寄ってくる。自分の弱さに付け込まれるからこそ、

 お風呂なんかで恐い思いをするのさ。もっと強くなりなさい」

そう言われた。

そんなに簡単に、自分を律っせるのなら、

誰でも自分という人間に苦労はしない。




普通の人で、

お風呂に入っている間に、恐い思いをする人なんているのだろうか。

私達だけじゃないのか。

死んだ人やその他もろもろの、闇のものが見える私達だけじゃないのか。




今夜、私は三日ぶりに頭を洗った。

頭を洗うのが恐いから、

どうしても頭が痒くなるぎりぎりまで、我慢してしまうからだ。

真冬なんて、一週間洗わないこともある。

最近は、暑くなってきたのでそういうわけにもいかないけれど。



今夜は、思いがけず、

気をつけていたのに目にシャンプーが染みてしまい、

私は目をつぶってしまった。

気配は最初から分かっていた。

それを無視しようと、闘っていたのに。




慌てて髪をお湯で流して、しばらく戸惑った後、

恐る恐る目を開けた。

この時の私の恐怖心が、相手に実体を与えてしまったのだろうか。

案の定、椅子に座って髪を洗っている私の右足のすぐ後ろに、

裸足の足が二つ見えた。

赤いマニキュアを塗っている小さい足だった。


多分女性だろう。

私は、分かっていた衝撃なのに、

悲鳴を上げそうになって、息を呑んでようやく抑えた。

居酒屋のバイトが終わった深夜、

アパートの浴室では、

大きな声は回りに丸聞こえになってしまうからだ。





何をしに、人が風呂に入っているところに現れるんだよ。

迷惑なのが分からないのか。

生きている人は決してこんなことはやらない。

死んでいるからって、こんな無礼がゆるされていいのか。

ほんと、いつも叫びたい。








でも、私は知っている。

水は、死んだ人を呼び寄せる魅力があるらしいということ。

だから、こうして悪気が無くても、

別に私に何かを訴える気が無くて来ているのだけれど、

私がたまたま見えてしまうから、私が驚いているだけで、

もしかしたら、その死んだ人自身も驚いているのかもしれないということを。






私と違う、

死んだ人が見えない人でも、

頭を洗って目をつぶっている時に、

誰かの気配を感じたりするのだろうか。




だとすれば、素質があるかもしれない。

この私達の歓迎されない能力と同じものの。


もしお風呂に入っていて、

一瞬でも、

自分と違う人の足が、髪を洗っている自分の後ろに見えたりしたら、

あなたも霊能力者の卵だね。

不幸にもね。ええ、まじ。



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