婚約破棄されたら、聖女の力が覚醒してしまいました
「シャミア・ランバルティ! お前との婚約を破棄する!」
私の婚約者のモーガン・ベルモント様が壇上で婚約破棄の宣言をされました。私だけに話すなら問題ないのですが、ここは学園の卒業パーティ。周りの人たちが何事だと壇上を見ています。
「あいつ、また変なこと始めやがった」
「せっかくの卒業パーティなのに、勘弁してくれよ」
周りの卒業生の会話が聞こえてきました。周りの方のモーガン様に対する評価は低いようですね。
「そして、このモーガン・ベルモントは新たにミレイユ・ランバルティと婚約する!」
私が答えないでいると、彼は早口で続けました。
「ごめんなさい、お姉さま。でも、モーガン様は私を選んでくださったの!」
義妹も悲しそうなふりをしながら私に訴えています。
私はあらかじめ用意していた答えを述べました。
「婚約破棄の件、私は了承しました。ですが、この婚約は王命。陛下の了承をいただいている証を私に見せていただけませんか?」
私だって国王陛下の許可がとれさえすれば、さっさと婚約を解消したいとは願っていましたから。
「うるさい! そんなものは別にどうとでもなる!」
「そのような考えだから、お姉さまはモーガン様に捨てられたのですわ!」
元婚約者とミレイユは騒ぎ始めました。子供の駄々を見ているみたい。この態度から独断で婚約破棄を行ったのがわかります。
「お母さまがいなかったら、野垂れ死んでいたくせに!」
そして、ミレイユのこの言葉。確かに実の両親は他界していますが、婚約破棄と関係あります?
ミレイユの母もとい、父の後妻は父が亡くなってからやりたい放題でした。自分とミレイユの為だけにお金を使い、ドレスと宝石を買いあさりました。後ろ指をさされないために私を学園に通わせはしましたが、制服や鞄等も誰かのお下がり。私の学園の昼食代すら渡さず、家では使用人扱いでしたから。
「そうだな、君は我々に感謝するべきだ! 君のような孤児がこの場に立てるのだからな」
このような悪目立ちする場所に立ちたくなかったです。
「全く、なぜ陛下がこのような者を私に割り当てたのか全く分からないよ。前ランバルティ伯爵が陛下の靴でも舐めたのかな?」
私にもわかりません。なぜこの場所に立つ必要があるのか、どうして亡き父が侮辱されなきゃいけないのか。
全身が…熱くなってきました。
「仕方のないことですわ、モーガン様。お母さまが常々おっしゃってましたから」
まさか、父だけではなく大勢の前で母まで。
「あの女は夜な夜な男を…」
「嘘で私の母を侮辱しないで‼」
私は叫びました。それと同時に、体の内から何かがあふれてきました。いつもは耐えていましたが、ここは学園のパーティ会場。学園の方々にまで嘘で塗り固めた母の悪口を聞かせるなんて。
「うわっ」
「きゃぁ」
周りの悲鳴も聞こえてきました。何があったかわかりませんが、後回しです。
ゆっくりとミレイユと元婚約者の元に歩いていきます。2人は尻もちをついていました。
「私は知っているのよ、それが嘘だということを。父は心の綺麗な方だと言っていたし、母の友人達も私のことを気にかけてくれていて、下卑たことはしなかったと。ちゃんとおっしゃってくれたわ」
私はいつの間にか壇上に立っており、二人を見下ろしていました。
「私のお母さまに謝りなさい、ミレイユ。ベルモント公爵子息もです。父に謝ってください」
「嫌よ! 死者に謝ったところで何もないでしょ!」
ミレイユは抵抗して足をバタバタさせます。本当に幼子の駄々を見ているみたい。
「そうだ、本当に陛下の靴を舐めたかもしれないぞ!」
ベルモンド公爵子息も続けます。彼も何故か立ち上がらず、全身で後ずさりしています。
誰かが手をたたく音が聞こえます。
「3人ともそこまでだ」
声のする方を振り返ると、学園で見かけない青年がいました。金色の髪に若草色の瞳、整った顔立ちの方で、一度見たら忘れられないような美しい方でした。
「すまないが、私は王子とはいえ部外者だ。だが、今は私しか動ける大人がいないのでね。仲裁を取らせてもらう」
私は周りを見渡しました。2人のように座り込んでいる方が何人かいますし、立っている人も皆顔が青いです。先生方も例外ではありません。
「シャミア・ランバルティ伯爵令嬢、まずはゆっくりと呼吸をして落ち着いてほしい。大丈夫、私はランバルティ伯爵と前夫人に対しての2人の発言が虚言だと知っている」
私は王子様の言うとおり深く息を吸い、ゆっくりと吐き出しました。体の熱は取れませんが、少し落ち着きました。
「次は君だ、モーガン。頼もしくなった君の姿が見られると思ったのに、残念だ」
「アレクサンダー! この女、魔女なんじゃないのか!?」
公爵子息がわめいています。
「いいや、彼女は聖女だ。彼女の力は民を癒し国に繁栄をもたらす。今はまだこの力の使い方を知らないから皆を怖がらせてしまったが、だからこそ我々王族が彼女を支えなければならない」
アレクサンダー、王子。ということは、アレクサンダー王太子様でしょうか? 麗しい見目をしてらっしゃるとか婚約者の方と仲睦まじいなど、クラスメイトが話されているのを耳にしました。
私は会ったことがありません。ドレスは1着も持っていませんし、夜会は義母と義妹が行き、私は家の掃除をさせられていました。
「それなのに君はミレイユ・ランバルティ伯爵令嬢の方を優先し、彼女をないがしろにした」
「だって」
公爵子息が何かを発言しようとしましたが、王太子様は文句を言わせず続けました。
「君の発言は国王陛下をも侮辱している。臣下に靴をなめさせることはないし、そのようなことをされても王命を出すことはない!」
言われてみればその通りです。国王の命令という最も重い言葉を軽々しく使うことになります。
「シャミア・ランバルティ伯爵令嬢が生まれたときには、私には婚約者がすでにいたし、王族の中で年が近いという理由で君が選ばれたのだ」
王太子様がまた手をたたくと、今度は何人かの騎士様が扉から入ってきました。
「モーガン、君がシャミア・ランバルティ伯爵令嬢に関しての騒ぎを起こすとの情報があったので、あらかじめ学園長と教員方の許可は得ている。君が万が一婚約破棄等の騒ぎを起こし、動ける者がいなければ私と騎士団が対応すると」
騎士団の方は公爵子息とミレイユを捕らえました。二人とも抵抗しています。
「知らなかったんだ。聖女様だなんて、ミレイユ、お前だましたな!」
ミレイユは元婚約者の言葉を無視しています。
「ちょっとやめなさいよ、痛いじゃない!」
2人は引きずられるように連れていかれました。
2人が連れていかれたところは見ていましたが、王太子様が振りむこうとしたとき、私は深くお辞儀をしました。
「シャミア・ランバルティ伯爵令嬢、すまなかった。君を蔑ろにしているのを知っておきながら、モーガンをあそこまで助長させた」
「助けていただき、ありがとうございます」
私は会場の床を見ながら答えました。
「君も私と来てほしい。今後の事について話し合いが必要だし、力の覚醒で他の者を怖がらせてしまった」
「かしこまりました」
目上の方に対して許可なく頭を上げるのはマナー違反。許可を得てないのにどうやって移動すればいいのでしょうか?
そのようなことを考えていると、王太子殿下がまた手をたたきました。私は王太子様が別方向を向いた隙に頭を上げ、陛下の背中が見える方に向きを変えました。
「皆の者、私の親戚が迷惑をかけてすまなかった。お詫びにこれを受け取ってほしい」
アレクサンダー様の発言を受け、会場に何人かの給仕が入ってきました。お盆には薄桃色の飲み物が入ったグラスがたくさん乗せられています。
「皆にワインを送りたいのは山々だが、ここは学園なのでジュースで我慢してほしい。代わりと言っては何だが、炭酸水生成法を我が国の研究者が見つけたので、それを混ぜている。皆に最新の技術を味わってほしい!」
会場の生徒たちが戸惑いながらもグラスをとるのを確認したら殿下は私の方に振り向きました。私はあわてて頭を下げ直します。
「頭を上げても構わない。まずは私の控室に移動しよう」
「かしこまりました」
私は顔を上げ、殿下について行きました。
王太子様の控室…学園の来客室につき、ソファーに座るように促されました。先ほど会場で配っていた薄桃色のジュースがテーブルに置かれていました。間近で見ると、小さな気泡がたくさんあります。
「まずは、ジュースを味わってほしい。落ち着いたら、これからの話をしよう」
これほど気泡が入った飲み物は初めて見ます。私はためらいながらも一口飲みました。甘味だけではなく、舌に刺激が入ります。
「とてもおいしいです。炭酸水の刺激とジュースの甘味で、疲れがとれるようですわ」
王太子様は顔をやわらげました。
「気に入ってもらえてよかった。本題に入ろう。君の聖女の力については極秘だった。おそらく婚約者の変更は必須。第1候補は私になるだろう」
「王太子様には婚約者がいらっしゃるとお聞きしましたが」
仲睦まじいと聞いた覚えがあります。
王太子様は顔を少し上に向けました。
「先日、病気で亡くなってしまったよ。貴族は皆知っていると思っていた」
知りませんでした。夜会に行けない弊害か、義母が話題にしなかっただけか。
「申し訳ございません、お悔やみ申し上げます」
「ありがとう。まずは君の話に集中したい。君の婚約者変更についても相手が決まり次第王命を出されることになる。次に君の処遇についてだ」
処遇、せっかくの卒業パーティを台無しにしましたし、罰が与えられてもおかしくありません。
「君には教会に入ってもらい、力の扱い方について修行をしてもらうことになる。先代聖女が亡くなって30年以上経っているので講師はいないが、手記と修行の記録は残されている。それを基に鍛錬することになる」
30年、私が18歳なので確かに情報が古く、ほぼ手探り状態になります。でも、私が気になるのはそこではありません。
「今言えるのはこれだけだが、何か質問は?」
「質問は2つあります。卒業パーティを台無しにした私の処罰はどうなるでしょうか? 2つ目は私は修行中は教会に住めばいいのでしょうか?」
「君に処罰は無い、被害者だからね。学園が君に賠償を求めないように取り計らってもらう。2つ目は王都の教会に住んでもらうように手配済みだ。君の素行調査を行っていたが、あのような場所に君を返すわけにはいかない」
私はホッとしてジュースをまた1口飲みました。さっきより刺激が少なくなっています。
「今夜から寝泊りしてもらってもいいし、荷物を取りに行くときは護衛をつけよう」
「ありがとうございます」
私は安心して、ジュースの残りをゆっくり飲みました。
ここからは私が聞いた話ですが、婚約はモーガン・ベルモント公爵令息の有責で破棄されました。公爵家から私への賠償金は見たことない金額が支払われましたが、よく計算すると義母と義妹が散財した分の3分の1しかありませんでした。あの2人はどれだけ伯爵家の財を食いつぶしたのでしょう。
公爵令息自身は鉱山送りにされたそうです。重罪人の行きつく場所とお聞きしています。厳しい罰ですが、それだけ聖女の力が重要視されている証。聖女の力を引き出せるように一層修行しなければいけません。陛下を侮辱してましたし、軽い罰を与えるわけには行かなかったのでしょう。
義母と義妹も罰を受けました。遠く離れた辺境の教会で下働きとして生活しているそうです。シスターになれないことも罰だとおっしゃっていました。義妹だけでなく、義母が罰を受けた理由はやはり私への処遇が理由だそうです。
私は教会の中庭で修行をしていました。栄養のない土に植えた複数の種を成長させるという修行です。一時間力を与えても3割ほどしか花が咲きません。
成果を見ていたら誰かがそばに来ました。
「邪魔をする。ランバルティ伯爵令嬢」
「王太子殿下にご挨拶を申し上げます」
私は頭を下げ、そしてすぐに上げました。
「いつも来ていただいてありがとうございます」
「いや、こちらは構わない。この半年で中々力が使えるようになったみたいだな」
私は首を振りました。
「国中に繁栄を与えるにはまだまだです」
「誰にだってできることではない、自信を持つんだ」
王太子様の励ましの言葉に少し照れてしまいます。褒められることは少なかったので。
「こちらには報告に来たんだ。王命で私と君の婚約が正式に決まった事を」
「かしこまりました」
私は臣下としての一礼をとりました。何度か王太子様は私の事を視察に来ているが、その後は聖堂でお祈りしてから帰られる。先日、婚約者様の喪に服す期間が終わったと言われていたけど、十何年も寄り添われた方だもの。そう簡単に切り替えられないとは思います。だからこそ、誠実にお仕えしなければ。
「婚約したのだから、私のことはアレクサンダーと呼んでくれ」
王太子様は少し表情をやわらげました。
「かしこまりました、アレクサンダー様」
この方は半年間、私のことをちゃんと気にかけていただきました。婚約者様ほどにはなれないけど、私なりに向き合っていけると思っています。




