第3話:推しからのプレゼントが重すぎて、物理的に部屋に入りません
「……夢じゃなかった」
翌朝。私は豪華な天蓋付きベッドの中で、昨夜の残像を反芻していた。
至近距離で見つめてきた、アデル様の藍色の瞳。壁を叩く音。そして、真っ赤になって逃げていったあの後ろ姿。
(最高。思い出すだけで白飯どころかフルコースいけるわ。あー、一生あの廊下に住みたい)
ベッドの上でゴロゴロと転がっていると、部屋の扉がドンドンドンドンドンドン!! と激しく叩かれた。
「お、お嬢様! 大変です! 起きてください、ロゼリアお嬢様!!」
メイドのアンが、息を切らして飛び込んでくる。
「何よ、朝から騒々しいわね。王太子が婚約破棄でもしに来たの?」
「そんなレベルじゃありません! 玄関……玄関を見てください!!」
パジャマの上にガウンを羽織り、一階のホールへ向かった私は、その光景に絶句した。
「……何、これ。引っ越し?」
そこには、騎士団の制服を着た男たちが十数人。
彼らが運び込んでいるのは、宝石箱のような装飾が施された山積みの木箱。それも一つや二つではない。ホールを埋め尽くし、廊下まで溢れかえっている。
「クロイツ公爵家のアデル様より、ロゼリア様への『お詫びと見舞い品』でございます!」
騎士の一人が、軍隊のような完璧な敬礼とともに叫んだ。
差し出されたリストを手に取ると、そこには目を疑うような品目が並んでいた。
魔力回復の最高級ポーション(100本)
対魔獣用の防御魔法付与ドレス(5着)
幻の霊峰でしか採れない沈静効果のあるハーブ(10キロ)
「頭に効く」と言い伝えのある古代の魔導書(全30巻)
(……重い。物理的にも、感情的にも、重すぎるわ!!)
「お、お嬢様……アデル様、もしかしてお嬢様が本気で狂ったと思って、治療させようとしているんじゃ……?」
アンの失礼な呟きが耳に入るが、否定できないのが辛い。
確かに昨日の私は「存在がファンタジー」だの「顔面が宝具」だの、この世界の住人には理解不能なワードを連発していた。
その時、玄関の扉が再び開き、冷ややかな空気が流れ込んだ。
「……まだ片付いていないのか。手際が悪いぞ」
「アデル様……!!」
本人が来た。
今日も今日とて、朝の光を浴びて発光しているかのような神々しさ。
彼は私を見ると、フイッと視線を逸らし、拳で口元を隠した。
「……あんなに顔を赤くして、おかしなことを口走っていたからな。毒にでも当たったのかと思ったのだ。……それだけだ」
「アデル様。……これ、いくら何でも多すぎます」
「黙れ。公爵家の蔵を整理しただけだ。……気に入らなければ、捨てればいい」
嘘をつけ! リストにある「古代の魔導書」なんて、時価一軒家レベルの国宝級アイテムだってゲームの知識で知ってるんだからね!
私は一歩、彼に歩み寄った。
アデル様はビクッと肩を揺らし、じりじりと後退する。
「な、何だ。文句があるなら——」
「アデル様、実は……まだ『おかしなこと』が治っていないみたいなんです」
私はわざとらしく胸を押さえ、うっとりと彼を見つめた。
「朝からアデル様の顔を見たせいで、心臓が爆発しそうなんです。……これ、リストにあるハーブで治りますか?」
「っ……!!」
アデル様の顔が、一瞬で耳まで真っ赤に染まる。
彼はカッと目を見開き、私を指差して叫んだ。
「お前、本当……っ! 平然と、そんな……恥ずかしいことを!!」
「え? 恥ずかしいですか? 私はアデル様が尊すぎて幸せなんですけど」
「……黙れと言っている!! 騎士団、撤収だ! すぐにだ!!」
アデル様は、まるで戦場から逃げ出す敗残兵のような勢いで、馬車に飛び乗っていった。
走り去る馬車の窓から、彼がめちゃくちゃに髪をかき回している姿が見えた。
(……ふふ。攻略不可の黒王子様が、私のせいでボロボロになってる。最高……)
私は、足元に積まれた「重すぎる愛の結晶」を見つめながら、勝利の笑みを浮かべた。
断罪エンドを回避するどころか、これ、「逆ハーレム」を構築する前に推しが完落ちするんじゃないかしら?
その時、アンが震える声で手紙を持ってきた。
「お嬢様……。……王太子殿下からです。昨夜の夜会での振る舞いについて、『至急、話がある』と……」
(おっと。メインヒーローの登場か。……邪魔者は、容赦なく排除させてもらうわよ?)




