落葉
川沿いの道に、今年は早くも落葉が積もっていた。ヒロシはそれを踏みしめるように歩いたが、避けきれない音が足元で鳴っている。
川は静かだった。水面を渡る風は冷たく、だが鋭さはなく、季節がより一段深くなる前の躊躇いのような間を含んでいた。
橋のたもとに小さな呉服屋が出ている。
仮説の店で、木枠に布をかけただけの簡素なものだが、古びた赤や藍の色合いが、周囲の景色から浮かぶことなく、馴染んでいた。昼を過ぎると、客足はまばらになり、老婆がひとりで着物の襟元を直しているところだった。
「今日はもう店じまいですか」
ヒロシがそう言うと、老婆は首を横に振った。
「日が落ちるまでは待つことにしたんです」
それだけを言って、また着物に触れた。誰を、とは聞かなかった。ヒロシは視線を店の奥に移し、並べられた品をひとつずつ見ていった。
どれも新しいものではない。だが、手入れが行き届いており、時間の重なりを拒むような乱れはない。ヒロシは簪をひとつ手に取った。細工は簡素だが、余分な粉飾がなく、どこか覚えのある形をしていた。
「それで、よろしいですか」
老婆は初めて顔を上げ、ヒロシの手元を見た。
目は濁っていたが、焦点は確かに、値を告げる声に迷いはなかった。ヒロシは代金を支払い、簪を受け取った。
「寒くなりますよ、これから」
ヒロシが言うと、老婆は小さく頷いた。それが返事だったのかは、わからない。
夕方、川面に影が伸びるころ、呉服屋はもうなかった。
木枠も布もきれいに片づけられ、そこに店があった痕跡はほとんど残っていない。ただ、赤い着物が一枚だけ、取り残されたように川風に揺れていた。
すぐそばの地面には、踏み固められていない落葉が、きれいに掃かれてあった。
その境目が不自然に整っていることが、かえって人の気配を強く感じさせた。ヒロシはしばらく、その場に立っていた。川の音、風の擦れる音、遠くの町の気配。それらが重なり合い、何かが終わったことだけが、確かに伝わってきた。
ポケットの中で、簪が小さく触れ合った。
ヒロシはそれを取り出すことなく、秋が終わる音を、ただ聞いていた。




