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清廉潔白すぎる国王陛下に国が滅ぼされそうなので、しがない本屋ですが革命起こします  作者: さらん


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第十二話:民の声、鬨の声


地平線の向こうから現れた、数えきれないほどの民衆の波。


その光景に、戦場の誰もが、一瞬だけ動きを止めた。反乱軍の兵士たちは、統率の取れていない、しかし自分たちを遥かに上回るその「数」の暴力に、恐怖と動揺の色を浮かべる。


「なぜ民が王のために?」


その疑問が、彼らが掲げてきた「暴君討伐」という大義名分を、根底から揺るがしていた。


対照的に、丘の上の同盟軍では、絶望の淵から引き上げられた兵士たちの間に、熱狂的な歓声が沸き起こった。もはや、騎士も、元囚人も、農民兵も関係ない。自分たちは民のために戦っているのだという確かな実感、そして眼前に広がる圧倒的な光景が、彼らの士気を爆発させた。


「陛下」


その熱気の中で、リアムがアレクシオスの隣に立った。


「今です。あなたの、本当の言葉を」


アレクシオスは頷くと、一歩前に進み出た。拡声の魔導具はない。彼は己の肉声が届く限りの兵士と、そして遥か前方の民衆に向かって、ありったけの声で叫んだ。


「我が国の、全ての民よ!」


それは、もはや理想を語る清廉な王の声ではなかった。血と泥にまみれ、声を枯らした、一人の男の叫びだった。


「私は間違っていた! 完璧な国を求めるあまり、お前たちの声と、暮らしの色を、力で奪ってきた! だが、もう、あの過ちは繰り返さない! 私は、腐敗した過去にこの国を渡すくらいなら、お前たちと共に、この大地に倒れることを選ぶ!」


彼は、天に剣を突き上げた。


「だから、頼む! 私に、この国に、最後にもう一度だけ、力を貸してくれ!」


その魂からの謝罪と懇願は、残された兵士たちの心を完全に一つにし、遠くの民衆の波から、地鳴りのような鬨の声を呼び起こした。


「全軍、最後の作戦を伝える!」


リアムの声が、興奮に沸く丘の上に響き渡った。


「援軍に来てくれた民衆は、決して深追いはするな! 大声を上げ、武器を打ち鳴らし、ただ敵を威圧しろ! お前たちの存在そのものが、我々の最強の武器だ!」


彼は次に、アレクシオスとエラに向き直る。


「陛下は騎士団を率いて右翼から! エラはレジスタンスを率いて左翼から! 民衆の鬨の声で敵が混乱した瞬間、両翼から敵陣を食い破れ!」


作戦は、開始された。

数万の民衆が、農具やありあわせの武器を打ち鳴らしながら、大地を揺るがす鬨の声を上げる。それはもはや軍隊ではなく、巨大な自然災害のようだった。反乱軍の統率は完全に失われ、その津波のような圧力に、前衛の陣形が崩れ始めた。


「今だ! 全軍、続け!」

「いくよ、野郎ども!」


アレクシオスとエラが、まるで長年の戦友であったかのように、完璧なタイミングで左右から突撃する。かつて反目し合っていた騎士とレジスタンスが、今や互いの背中を守り、同じ敵に向かって剣を振るっていた。それは、この国に訪れる新しい時代の姿を、象徴する光景でもあった。


挟撃され、混乱の極みに陥った反乱軍の指揮官である老貴族は、早々に戦況を見限り、数名の側近と共に戦場からの逃亡を図った。

だが、その退路に、血まみれの巨人が立ちはだかった。


「……お待ちしておりましたぞ、閣下」


騎士団長バルトムだった。彼は深手を負い、鎧は砕け、もはや立っているのも不思議なほどの状態だった。しかし、その瞳だけは、狂気的な光を宿していた。


「貴様らのやり方は、騎士道ではない……。ただの、私欲にまみれた犬畜生の所業だ!」


敵前逃亡という、騎士として最も許しがたい臆病者の姿に、バルトムの最後の理性が焼き切れた。彼は、裏切ったはずの反乱軍の将に、最後の力を振り絞って斬りかかった。


老貴族の首が宙を舞うのを見届け、バルトムはその場に崩れ落ちた。駆けつけたアレクシオスの前で、彼は力なく膝をつく。


「陛下……私は、道を誤りました……。しかし、騎士の、誇りだけは……」

「……ああ、見事だった、バルトム」


アレクシオスは、かつての忠臣に、ただ静かにそう告げた。バルトムは、その言葉にかすかな笑みを浮かべたように見えたが、やがて静かに息を引き取った。



指揮官を失い、そして民衆の勢いに呑まれた反乱軍は、完全に崩壊した。武器を捨てて降伏する者、散り散りに逃げ出す者。平原を血に染めた長い一日の戦いは、誰もが予想しなかった奇跡的な勝利で、ついに幕を閉じた。


夕陽が戦場を赤く染める中、丘の上は、身分も立場も関係なく、ただ生き残ったことを喜び合う人々の歓声に包まれていた。騎士も、レジスタンスも、農民も、市民も、皆が互いの肩を叩き、歌い、笑っていた。


アレクシオスとリアムは、その光景を丘の上から並んで見下ろしていた。


「リアム」


アレクシオスが、静かに口を開いた。


「お前が言っていた、『民衆の力』、そして『たくさんの色がある世界』の意味が、今、ようやく分かった気がする」


彼の顔には、もう理想に燃える若き王の純粋さも、圧政者の冷酷さもなかった。ただ、大きな過ちと、多くの犠牲の上に、それでも未来を見つめようとする、一人の青年の顔があった。


勝利の喧騒の中、二人は、これから始まる本当の戦いのことを考えていた。


国を再建し、法を改め、対立した者同士の融和を図る。それは、この血なまぐさい戦場よりも、遥かに困難で、終わりの見えない戦いになるだろう。


白き圧政の時代は、終わった。

しかし、それは完成された理想郷の始まりではない。

ただ、様々な色が、それぞれの輝きを取り戻し、時にぶつかり合い、混ざり合いながら、新しい絵を描いていく、混沌として、しかし生命力に満ちた、新しい時代の夜明けに過ぎなかった。

物語は、ここで一つの終わりを迎える。


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