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清廉潔白すぎる国王陛下に国が滅ぼされそうなので、しがない本屋ですが革命起こします  作者: さらん


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第十話:騎士の矜持、裏切りの風


王国東部の広大な平原に、二つの軍勢が対峙した。


片や、旧貴族たちが掲げる伝統と権威の旗印。

片や、純白の王家と、名もなき民の雑多な旗が入り混じる、奇妙な同盟軍。


張り詰めた空気の中、両軍の野営地では、全く異なる夜が流れていた。


反乱軍の陣営が戦勝を祈る宴の喧騒に包まれる一方、同盟軍の陣営は、不信感という冷たい霧に覆われていた。

騎士たちは、元囚人や農民兵で構成されたレジスタンスを「烏合の衆」と見下し、レジスタンスの兵士たちは、昨日まで自分たちを弾圧していた騎士たちを「圧政の犬」と呼び、決して心を開かなかった。

両者の間を取り持とうとするリアムやフィンの努力も、長年かけて刻まれた溝の前では、ほとんど無力だった。


「見てみろ、リアム。まるで水と油だ」


焚き火を囲みながら、フィンが呆れたように言った。


「あいつら、明日同じ敵と戦うってのに、今にも仲間同士で殺し合いを始めそうだぜ」


リアムも、重い溜息をつくしかなかった。この脆い同盟は、敵と刃を交える前に、内側から崩壊してしまいそうだった。


夜明け。作戦開始の角笛が、平原の朝霧を切り裂いた。


「全軍、前進!」


騎士団長バルトムの号令一下、国王軍の本隊が、鬨の声を上げて反乱軍へと向かっていく。アレクシオスは、リアムと共に本陣の小高い丘の上から、その光景を見つめていた。兵力で劣る国王軍は、あくまで敵の主力を引きつけるための囮。本当の勝負は、今この瞬間、別の場所で始まっていた。


国王軍の陽動と同時に、エラとフィン、そしてレジスタンスの中でも特に機動力に優れた二百の兵士たちが、平原の側面にある森の中を疾走していた。彼らの目標はただ一つ、反乱軍の背後に回り込み、その生命線である補給部隊を叩き潰すこと。


「息を切らすな! あたしたちの働きが、この戦の全てを決めるんだ!」


木々の間を縫うように駆けながら、エラが鋭く檄を飛ばす。彼女の背後で、フィンは慣れない戦に息を切らしながらも、冗談を言って仲間たちの緊張をほぐしていた。


一方、主戦場では、国王軍が反乱軍の猛攻にさらされていた。


「持ちこたえろ! 隊列を崩すな!」


バルトムは自ら先頭に立ち、獅子奮迅の働きで敵を薙ぎ払う。しかし、二倍近い兵力差は歴然としていた。味方の兵士が、一人、また一人と血に濡れた大地に倒れていく。


その光景に、バルトムの心は屈辱と怒りで焼け付くようだった。誇り高き王国の騎士たちが、なぜ「鼠」たちの奇襲を成功させるための、ただの捨て駒にならねばならないのか。


正々堂々とぶつかり合ってこそ、騎士の誉れ。民衆の力だの、補給路だの、小賢しい戦術で得た勝利に、一体何の意味があるというのか。


彼の怒りは、いつしか、このような屈辱的な作戦を許した王、アレクシオスへの深い失望と、明確な敵意へと変わっていった。


(陛下……あなた様は、あの本屋に誑かされ、王の、そして騎士の道を完全に見失われた……!)



「……見つけた!」


森を抜けた先、谷間に続く街道で、斥候に戻ったエラの部下が叫んだ。その先には、食料や矢弾を積んだ荷馬車が、数百メートルにもわたって列をなしている。反乱軍の補給部隊だ。守りの兵は少なく、こちらの奇襲に全く気付いていない。


「よし……」


エラは、獰猛な笑みを浮かべた。


「総員、突撃! 一台残らず、燃やし尽くせ!」


レジスタンスの兵士たちが、雄叫びを上げて茂みから飛び出した。作戦は、成功した。誰もがそう確信した、その瞬間だった。

突如、彼らの側面、丘の上の森の中から、無数の矢が雨のように降り注いだ。


「伏兵だ! 罠か!」


エラが叫ぶが、遅かった。矢の雨に射抜かれ、仲間たちが次々と倒れる。そして、補給部隊を守っていたはずの兵士たちが、隊列を組んでこちらに突撃してくる。彼らは手薄などではなかった。全ては、エラたちを誘い込むための芝居だったのだ。


瞬く間に、エラの別動隊は逆に包囲され、殲滅の危機に陥った。

情報が、漏れていた。

一体、誰が。エラの脳裏に、軍議でただ一人、この作戦に猛反対していた男の顔が浮かんだ。



「狼煙です! エラの部隊から……色は、赤! 作戦失敗、そして敵襲!」


本陣で、見張りの兵士が絶叫した。

リアムとアレクシオスは、愕然として顔を見合わせた。作戦の失敗、そして罠。それは、この同盟軍の内部に、裏切り者がいることを示唆していた。


「……まさか」


アレクシオスが、信じられないというように呟く。

その時、地鳴りのような雄叫びが平原を揺るがした。

国王軍の陽動に対し、これまで守勢に徹していた反乱軍が、全軍を挙げて総攻撃を開始してきたのだ。


それは、もはや陽動に対する反撃ではない。この戦の決着をつけるための、総力戦の始まりだった。


そして、その反乱軍の先頭で、誰よりも勇ましく突撃していく部隊があった。国王軍の、騎士団長バルトムが率いる部隊だ。彼は、王の命令を無視し、単独で敵陣の奥深くへと突っ込んでいく。


「バルトム! 戻れ! 命令違反だ!」


アレクシオスの絶叫も、戦場の喧騒にかき消された。

バルトムは、全てを覚悟していた。彼は密かに反乱軍の旧知の貴族に文を送っていたのだ。「卑劣な奇襲部隊の情報と引き換えに、我が国王軍本隊との正々堂々たる決戦の場を設けよ」と。


彼は、自らが信じる騎士の矜持を守るため、王を、そして国を裏切った。それが、たとえ己の破滅に繋がる道だとしても、彼にはそれ以外の生き方はできなかった。


敵の総攻撃にさらされる国王軍本隊。森の中で孤立し、包囲されたエラの別動隊。

内部からの裏切りによって、奇妙な同盟軍は、一瞬にして崩壊の危機に瀕した。


リアムとアレクシオスは、絶望的な戦況図を前に、立ち尽くすしかなかった。

平原に吹く風が、血の匂いを運んでくる。王国の運命を決する、長い一日が始まろうとしていた。


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