関係は常に変化する。
見ていただきありがとうございます。
ぜひ一話から見てこの子達の変化していく過程を楽しんでいただけたら
うれしいです。
放課後、いつものように三人は部室にいた。
窓から差し込む光が柔らかく机を照らし、空気は少しだけのんびりしていた。
彩花はお菓子の袋を破りながら、突然口を開いた。
「ねえねえ、相沢とさよっちって、友達なの?」
「……」
「……」
僕と綾瀬は、同時に黙り込んだ。
彩花は首をかしげて、わざとらしく大きなため息をつく。
「えー!答えられないってどういうこと!? 普通なら即答で“友達!”でしょ!」
「……綾瀬」
僕は試しに口を開いた。
「何」
「俺たち、友達か?」
「知らない」
即答だった。
彩花が机を叩いて爆笑する。
「なにそれー! もうちょっとマシな答えあるでしょ!」
綾瀬は顔を伏せて、淡々と続けた。
「……相沢くんは、私のこと友達だと思うの」
「それを訊いてる」
「答えて」
真っ直ぐに見られて、僕は視線を逸らした。
さすがに照れる。見られることに陰の人間は弱い。
「……俺は」
しばらく沈黙した後、僕は口を開いた。
「別に、友達って言葉に価値を感じない」
「は?」
彩花が目を丸くする。
「そんな肩書きがなくても、話してるんだからそれでいいだろ」
「屁理屈」
綾瀬は冷たく言い捨てる。
けれど、その声はわずかに震えていた。
「屁理屈で充分だろ。俺の人間関係なんて、大体そんなもんだ」
本心だ。これは僕の紛れもない本心である。
「……寂しい言い方」
綾瀬の言葉は小さく、それでも僕の胸を刺した。
「ねー! 二人とも面倒くさっ!」
彩花が大げさに椅子からのけぞる。
「“友達”って言葉くらい軽く使えばいいじゃん! 便利なんだから!」
「軽々しく呼ぶものじゃない」
僕は吐き捨てる。
「でも、軽さがあるからこそ続く関係もあるんだよ?」
彩花は笑顔を崩さず、まっすぐこちらを見る。
僕は言葉を失った。
図星を突かれたような気がして。
それに陽の者の光がまぶしすぎて。
沈黙を破ったのは、綾瀬だった。
「……今はまだ、友達じゃない」
「え」
彩花が目を丸くする。
綾瀬は机に視線を落としたまま続ける。
「でも、そう呼べるようになるかもしれない」
その言葉に、僕は息を呑んだ。
決して感情をあらわにしない綾瀬の声が、ほんの少しだけ震えていたから。
“友達”という言葉は、便利なラベルでもある。
けれど、僕にとっては宇宙のように未知な世界だ。
友達なんていたことがないので。
綾瀬がくれたのは、ただの可能性にすぎない。
けれど、その曖昧さに、なぜか救われる気がした。
――まだ、友達未満。
その距離が、僕らにとっていちばん心地よいのかもしれなかった。
少し長くなってしまいましたが、読んでいただきありがとうございます。