僕たちの不思議な距離
見ていただきありがとうございます。
ぜひ一話から見てこの子達の変化していく過程を楽しんでいただけたら
うれしいです。
翌日の放課後。
部室に現れた彩花は、またもや机に袋をどさりと置いた。
「じゃーん! 今日はクッキーとポテチと、あとガムも!」
「……ここは駄菓子屋じゃない」
僕は即座に突っ込む。
「いいじゃん! 勉強も執筆も糖分大事!」
彩花は勝手に袋を開け、綾瀬紗世の机の方へ差し出す。
「はい、さよっちも食べなよ!」
綾瀬はペンを止め、眉をひそめた。
「……誰」
「え?」
「誰のことかしら。さよっちって」
「綾瀬さんがさよっち! 可愛いじゃん!」
彩花は満面の笑みで言い切る。
「可愛くない」
「いや、可愛い!」
「可愛くないのだけど。」
「いやいや、絶対可愛い!」
二人のやり取りを見ながら、僕は深いため息をついた。
「……綾瀬が嫌がってるぞ」
僕が口を挟むと、彩花がにやりと笑った。
「相沢も“さよっち”って呼んでみたいんじゃないの?」
「呼ばない」
「絶対呼ばない」
(それは綾瀬さん…僕には絶対呼んでほしくないということですか。)
綾瀬も即答する。
二人の重なった声に、彩花はまた机を叩いて爆笑した。
「ちょっと! なにその息ピッタリ! もう夫婦漫才じゃん!」
『違う』
またも同時。
彩花はお腹を抱えて笑い続ける。
笑い声が収まらない彩花を横目に、綾瀬は小さく呟いた。
「……疲れる」
「なら休むなりなんなりしたらいいだろ?部活なんだからさ」
僕は呆れた声を返す。
だが、綾瀬の声にはほんの少しだけ、柔らかさが混じっていた。
まるで“嫌ではない”と告げているように。
紫苑はそれを察し、それ以上は何も言わないことにした。
「でもさぁ」
彩花が口を拭いながら言った。
「やっぱ二人ってさ、いい感じに見えるんだよね」
「……何が」
僕が冷ややかに返す。
「雰囲気! 無言なのに通じ合ってる感じ? 見てるこっちがドキドキする!」
「くだらない」
綾瀬はそう言いながらも、耳まで赤く染まっていた。
この手の話題に慣れていないのだろう。
僕もまた、この手の話は苦手なので、ノートに視線を落とした。
「まあまあ!」
彩花が両手を広げる。
「私が入ったからさ、ここはもっと楽しくなるから安心して!」
「あー期待してる」
「安心はできないわ。」
二人の冷たい返事。
しかし、彩花は笑顔を崩さない。
「うんうん! やっぱりさよっちと相沢は素直じゃないな~」
「……やめろ」
「……その呼び方やめてくれるかしら。」
二人が同時に顔をしかめると、彩花はまた笑った。
その笑い声は、鬱陶しくもあり、しかしどこか温度を与える音でもあった。
少し長くなってしまいましたが、読んでいただきありがとうございます。