『暫定税率廃止』 実現可能性とその効果はどうなのか?
筆者:
本日は当エッセイをご覧いただきありがとうございます。
今回は「ガソリンの暫定税率」とは何か? そしてその廃止の実現可能性と効果について個人的な解説をしていこうと思います。
◇暫定税率とは何か?
質問者:
そもそもガソリンの暫定税率ってどんなものなんですか?
筆者:
ガソリンの暫定税率とはガソリンに課される税金のうち、1リットル当たり25.1円分を指します。
1974年のオイルショックを受けて「一時的な措置」として導入された上乗せされたものでした。道路整備などの財源確保が名目でした。
2010年の民主党政権時代に1リットル160円超えが3か月連続した場合に・租税特別措置法に基づき揮発油税や地方揮発油税を自動削減する(トリガー条項)法案が成立しました。
ところが2011年に160円を超えたのですが、東日本大震災を理由に「凍結」されました。(この法案では3か月連続で130円を下回れば特則税率を復活するものだった)
その後も「凍結」は解除されず「永久凍土」みたいに今はなっています。
このように導入経緯から半世紀以上経った現在もなんやかんや理由を付けられて「恒久化」しており、あまりにも「ふざけた存在」としてあるのです。
質問者:
なるほど……。
それで、具体的に暫定税率廃止はどれぐらい経済効果があると言われているんですか?
筆者:
1リットルあたり25円安くなれば車を持っている家庭では平均して年間約20,800円の負担減になると言われています。
もっとも、若い世代を中心に「車離れ」ということが起きていますので必ずしも全ての世帯の方がプラスの影響を受けるわけではありません。
ただし、誰しもがアマゾンやウーバーなどの注文を行うことから、何かしら運送業からの恩恵というのはあると思います。
これらの会社の運賃が必ずしも下がるとは限らないのですが「値上がる可能性が下がる」というだけでも特筆すべき点だと思います。
ただ、地方がガソリン代が高すぎて若い方が都市部に行きたくなる要因の一つになっています
車無しでは地方は生活が成り立たない上に、地方の中心部は大都市と地価がほとんど変わらない状況です。
それなら、思い切って大都市に出ようという方が増えても仕方ないので地方と大都市の格差縮小のためにもなるべくガソリン代は低くあるべきです。
質問者:
個人では車のあるご家庭で2万円ぐらいということは分かったのですが、
企業はどれぐらい恩恵を受けるんですか?
筆者:
トラック運送業では、輸送コストで最も高い40%を占める人件費に次ぐ約15%が燃料代だと言われています。
大阪商運㈱の中小運送業の試算一例を抜粋しますと、
『保有トラック:20台(うち大型10台、中型10台)
月間走行距離:平均7,000km
平均燃費:大型=3.0km/L、中型=5.0km/L
月間消費量の概算
大型10台 × 7,000km ÷ 3.0km/L ≒ 23,000L
中型10台 × 7,000km ÷ 5.0km/L ≒ 14,000L
合計:約37,000L/月
暫定税率:軽油1L/17.1円×37,000L=約632,000円』
とあり、大手物流企業であれば、燃料消費量はこの10倍以上に達する場合もあり、税率廃止による恩恵はさらに大きくなるそうです。
質問者:
企業にとっては恩恵は絶大みたいですね……。
ただ、地方税が5000億円減ることについてはどうなんでしょうか?
筆者:
前にも書きましたが、「一般財源総額実質同水準ルール」というのがありまして、
例え地方税が大幅減収になったとしても、ある一定の水準に達するまで各地方公共団体の財源について国の地方交付税交付金で補填しなければいけないというシステムが存在しています。
そのためにそれを理由に拒絶する自公は「減税をしたくない言い訳」に過ぎず、問題外の返しのために無視して構わないでしょう。
◇実現可能性は高い 「与野党全会一致」もありうる
質問者:
それで肝心の実現可能性についてはどうなんでしょうか?
筆者:
今回このエッセイを書こうと思ったのも野党8党(立憲民主党、日本維新の会、国民民主党、参政、れいわ新選組、共産、日本保守、社民)で暫定税率廃止法案を8月の臨時招集の国会で提出するからです。
中々、参議院の新しい議長を決めるだけの国会で何か法案が提出されることは稀なのですが、今回は意欲的に取り組むようです。
衆議院でもこれらの党が組めば12人裏切らなければ良いので、成立可能性は非常に高いと個人的には思っています。
参議院では3人裏切ればダメとギリギリの上に「無所属」の方がいるために必ずしも成立するとは限らないのですが、
無所属の方もどちらかというと立憲民主党系統の方が多いので成立の可能性は思います(自民党系の無所属当選者は和歌山ぐらい)。
質問者:
おぉ~。野党だけで固まって法案が成立するだなんて信じられないです……。
筆者:
自民党も成立見込みが高いとなれば賛同せざるを得ない状況になるのではないかと思います。
「内閣不信任案成立で解散総選挙」という可能性もゼロではありませんから、衆議院で更なる議席減は避けたいでしょう。
そうなると、「衆参全会一致で成立」と言った可能性もあると思います。
もっともこの8月の数日間の国会で審議されるかは怪しく、何か言い訳をつけて秋に持ち越しの可能性はあります。
それでも選挙で2回も大敗した自民党が信任されていると胸を張ることはできず近い将来成立する見込みは高いと僕は思います。
質問者:
おぉ~! そうなると今後もこうした減税法案というのは通過していくことになるんでしょうか?
筆者:
そこはあまり期待し過ぎない方が良いと思います。
ガソリン暫定税率廃止は1.5兆円と予算措置がかなり低い部類ですからね。歴史的に見てきても分かる通り「とうの昔に取り除かれても良かった」税金ですしね。
例えば野党で「消費減税」についてどの党も述べていますが、
完全廃止、一部廃止、食品のみと言った様々な差があり、
同じ減税と言えど一致して法案成立まで至らない可能性は非常に高いです。
そのために今回は「たまたま一致」しただけに過ぎず根本的に政治が大きく変わるといったことは可能性としてはかなり低いです。
質問者:
イデオロギーが右と左で思想が違う党が8党も一気にまとまるなんてなかなか無さそうですからね……。
他に何かこれだけの党が一致して成立できる法案ってあるんでしょうか?
筆者:
後は政治資金規正法などで一致点が見出せたらいいですね。
特に自民党が強みとして持っており、尚且つ日本を破壊している要因でもある企業献金廃止を達成できればかなり大きいと思います。
減税に関してなら他は「所得税の壁を引き上げ」ぐらいなら多くの国民に同時にプラスになることもあって、一致点を見いだせる可能性はありますね。
この辺りは期待して良いと思います。
◇「成功体験」大きな意味を持つ
質問者:
でも、今までは自民党主導で「野党の意見も聞いてやる」というような感じだったので、野党主導で法案成立と言う信じられないような状況になりましたね。
筆者:
そうですね。
「あぁこの国にいるとずっと増税され続けるんだ」という絶望的な様相から脱却できる第一歩になると思います。
やはり社会不安が将来の人生設計を不透明にし、少子化に拍車をかけているのは間違いないですからね。
また、減税を望む声が多かった民意が反映されれば、
今後も選挙に行く人が増えていく(少なくとも今回選挙に言った方は再び行く可能性は上がる)ことが見込まれますからね。
「選挙に行けば変わる」という成功体験は非常に大きいと思いますよ。
質問者:
選挙で実際の政治が変わるということは大きいですね。
筆者:
ただ、楽観的に見過ぎるのも良くないかなと思います。
と言うのも、前の国会の「年金改悪」にあったように立憲民主党が基本的には「増税政党」であることは間違いなく、
また日本維新の会が自民党に事実上吸収されるとも分からないわけです。
今回はたまたま国民が減税してくれという思いと野党の思惑が偶然一致したに過ぎず、
基本的には野党の政治家の方も「上級国民」であることには変わらないわけです。
(給付の方が国民全体にすぐに行き渡るものの、国民はその分以上に増税されることを恐れているため)
質問者:
なるほど、根本の状況は何も変わっていないということですね……。
筆者:
国民側がしっかりと発信して、選挙の時以外でも民意を伝え続けることが大事かなと思います。
基本的には国民の思いと政治家の方の思惑は違っていますから、
国民が目を離せばすぐ党内の権力抗争や政局ばかりになって、
国民は置いてけぼりになりますからね。
仮に成立しない場合でも諦めず「人狼政党」や「人狼政治家」を見つけたと思って次に投票しないと全国民が一致して思うことが大事ですね。
今後も政治・経済の現状の分析などを僕なりの視点でお伝えしますのでどうぞご覧ください。